タイトルなし / DEZERT | 安眠妨害水族館

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タイトルなし【初回限定盤】/DEZERT

1. ----
2. 「嘔吐」
3. 「殺意」
4. infection
5. 胃潰瘍とルソーの錯覚
6. 「擬死」
7. さぁミルクを飲みましょう。
8. 「軽蔑」
9. doze.
10. 脳姦少年
11. 「教育」
12. -26時の冷凍庫-

有名バンドのメンバーがいるわけでも、事務所の大プッシュがあったわけでもなく、じわじわと口コミで火が付いてきたDEZERT。
これまでも"音源集"名義でのアルバムリリースはありましたが、本作は待望のフルレンスとなります。

現代のヴィジュアル系バンドらしいメタルコアサウンドに、グロテスクな世界観。
重い、激しい、それだけのバンドであれば、ゴロゴロと転がっているのですが、彼らの個性は、そこに猟奇的な歌詞をさらりと流し込み、それをキャッチーに歌い上げてしまうことであろう。
その手法が馴染んできて、いよいよオリジナリティとして昇華されてきた印象。
癖のある声質も手伝って、攻撃的でありながら中毒的。
外側からも内側からもリスナーの感性に訴えかけるのです。

1曲目の「----」と、続く「嘔吐」は、実質的には合わせて1曲なのかな。
同じフレーズを使っており、音も途切れずに繋がっている。
ただし、アレンジとしてはガラっと雰囲気を変えているという、なんとも意外性のあるギミック。
勝手に、最初の楽曲はSEだと決めつけていたので、驚きはひとしおでしたよ。
ゴリゴリと響くベースのフレーズがぐるぐると頭の中を巡って離れません。

「殺意」はリードトラックという位置づけなのだけれど、ワンフレーズのインパクト重視。
これをリードとしたのは、ある意味でのブラフなのかな。
DEZERTの音楽性としては邪道な気もするし、この印象だけで本作を判断しようとすると痛い目に合いそう。
それに比べて地味に見えるが、ダンサブルなリズムとメロディアスなボーカルラインが気持ち良い「infection」が個人的にはツボだったり。
官能的で、キメも格好良いです。

「胃潰瘍とルソーの錯覚」は、彼らのポップセンスとグロテスクな描写が融合したアッパーチューン。
これと、ドロドロしたミディアムナンバー「擬死」を並べたことで、コントラストを演出。
必ずしも流れが良いわけではなく、バラバラゴチャゴチャ感はあるのだけれど、それも含めて、ドラマティックに聴かせてしまうのは、彼らのどっぷりと浸らせる世界観によるものなのか。

「さぁミルクを飲みましょう。」は、サウンドはスタンダードなダーク系なのだけれど、"DEZERTってこういう歌詞も書くんだ"といった内容。
賛美も含めて、"自分たちにレッテルを貼りたがる誰か"への抵抗。
こういうブログを書いている自分にとっては耳が痛い部分もあるのだが、それはそれで共感できるし、スカッとする気持ちもあります。

「軽蔑」は、まさにそれの有言実行。
彼らにあるイメージを塗り替えるような爽やかな疾走チューンでした。
これ、素直に名曲だと思います。
意外性だけでなく、ギターのリフのセンスも、メロディラインの作り方も、昂揚感が出るように工夫された構成も、すべてが好みのど真ん中。
邪道であるのはわかっているが、闇が大きいからこそ、光の差す楽曲のパワーが増しているのだ。

ゴリゴリなサウンドにデスヴォイス、お洒落系全盛期によく見られた早口パートなんかも多用した「doze.」。
変拍子で難解さを作り出しながら、キャッチーに開けるサビによりとっつくやすさもある「脳姦少年」。
「殺意」同様、ワンフレーズのインパクトで勝負した「教育」と、後半も怒涛の勢いは継続。
ひとつひとつが大きく突き抜けているわけではないのだけれど、歌モノのあとにハード、ダークのあとにポップと、アルバム構成として極端な濃淡をつけることによって、一度聴いただけで脳裏に焼き付いてしまう楽曲ばかり。
最後のインスト、「-26時の冷凍庫-」がやけに切ないのもズルいなぁ。
これで、"切なさ"を足したら全部盛りだろ、というタイミングで、きちんと締めくくりました。

目を離せない"何かしてくれそう"な雰囲気と、V系リスナーへのアピール力の高い楽曲センス。
人気が出るのも納得のバンドである。
1stフルアルバムでこのクオリティというのも、今後どこまで成長してしまうのか、楽しみを通り越して恐ろしくなってきます。

ちなみに本作、もともとは、「嘔吐ニ関スル勅語」というタイトルが付けられる予定でしたが、直前になって「タイトルなし」に変更。
何やら大人の事情のようですが、結果的に話題性は高まったのかもしれません。

<過去のDEZERTに関するレビュー>
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