アニメ業界は「労働法守らない」 賃金不払いやパワハラで提訴(連合通信・隔日版より) | 労働組合ってなにするところ?

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2008年3月から2011年3月まで、労働組合専従として活動しました。
現在は現場に戻って医療労働者の端くれとして働きつつ、労働組合の活動も行なっています。

あまり知られていない労働組合の真の姿(!?)を伝えていきたいと思います。

まず、東日本大震災の被災地の復旧・復興が、住民の立場に立った形で、1日も早く実現することを祈念致します。



ここでは取り上げたことはありませんでしたが、私はアニメ「名探偵コナン」が大好きです。ほぼ毎週楽しみに観ています。

アニメ業界の労働者の労働条件が悪いという話は聞いたことがありましたが、実際に自分が観ている作品の制作現場で労働法違反が起こっているという事実には残念さを感じます。

アニメを愛する者として、質の高い仕事をしてもらうために、アニメをつくる人たちには安定した生活を送れるような労働条件が保障されるべきだと思います。アニメを好きな人たちには、是非こうした事実を知っていただき、アニメに携わる人たちの労働条件改善を求める意思表示をしてほしいと思います。

では、アニメ業界の実態を知らせる記事をご紹介します。引用部分は青で表記します。



アニメ業界は「労働法守らない」

「名探偵コナン」制作会社社員  賃金不払いやパワハラで提訴

連合通信・隔日版  2012年5月19日付  No.8599  p5~6


 人気アニメ「名探偵コナン」などの背景画を手がける制作大手「スタジオ・イースター」(東京都杉並区)の社員3人が未払い残業代やパワハラに対する慰謝料の支払いを求め、同社を訴えている。訴状には長時間のサービス残業やパワハラ、退職強要、最低賃金を下回る給与などの労働法違反がズラリと並ぶ。こうした無法状態はアニメ業界では珍しくないという。


 研修中は時給250円


 「毎日遅くまで働いても残業代は出ない。体調を崩してしまい、普通の生活もできない」。昨年3月に入社した陳盈如(えいじょ)さん(24)は、アニメ制作の現場をこう訴える。

 台湾出身の陳さんが日本のアニメに憧れて来日したのは18歳のとき。日本語学校を卒業後、スタジオ・イースターでキャラクターの色彩設計を担当することに。「長年の夢が叶った」と喜んだのも束の間、すぐに悪夢に変わった。

 入社直後の研修中の給料は、東京都の最低賃金の時給821円(当時)を大幅に下回る250円(日給2000円)。生活できないため、両親から仕送りをしてもらった。研修が終わると、月給は最賃並みの15万円(基本給)。休日は週1日だが、「会社から呼び出されることも」。残業代や休日の割増賃金は一切ない。「アニメ業界はこれが当たり前。労働基準法なんて守っていたら、会社もアニメ業界も成り立たない」と開き直られた。


 労働者は使い捨て


 こうした前近代的な労働現場では、制作者の使い捨ても横行している。

 「仕事が原因で労災にあったのに、減給されるのは納得がいきません」と憤慨するのは、同社で撮影を担当する猪鹿倉(いがくら)智幸さん(34)だ。

 2009年12月の入社後、アニメの原画やレイアウト用紙を1日数百~1000枚スキャンし続けたため、首や肩、左腕にしびれを感じる頚椎(けいつい)症になった。医師からは「悪化しても治ることはない」と宣告された。ところが、会社は「体を壊して残業が出来ないなら、この仕事をする価値がない」と4万円を減給。その後、「いつ辞めるの」「昼休みを自由にとるな」などの叱責が続いた。

 会社の意に沿わなければパワハラが待っている。同社でシステム管理を担当していた山田徹さん(48)は、退職する社員に有給休暇を消化するよう書類を渡したところ、始末書を書かされ、降格処分に。昨年6月の配置転換で他の社員から5メートル離れた場所に机を隔離されたうえ、仕事を取り上げられ社内で待機する状態が今も続く。

 猪鹿倉さんは「いじめられたり、体を壊したりして業界を去る人は大勢います」と証言する。


 月給出るだけマシ


 3人は4月、東京地裁に配転無効と未払い残業代・慰謝料など2700万円の支払いを求めて東京地裁に提訴した。会社側は「弁護士を通じて話したい」とコメントを避けている。

 映画や演劇産業などの労働組合でつくる映演労連の金丸研治委員長は「アニメ業界は労働法や人権の無視がまん延する無法地帯だ」と語る。下請けの多くは業務委託・出来高払いで、労働法の適用を受けないケースが多い。陳さんも「スタジオ・イースターは安定して月給が出るだけマシな方。裁判で無法な業界を変えたい」と話している。




もちろん、アニメ業界のみ特別に労働法の適用を免除するような法律はありませんので、労働法に違反している部分については、裁判では確実に原告の主張が認められると思われます。

まず、残業代や休日の割増賃金の未払いは労働基準法違反です。使用者側から、基本給に残業代相当分が含まれているという主張がされるかもしれませんが、少なくとも「最低賃金×所定労働時間」で算出される賃金を上回る分しか残業代相当分とは認められませんので、その金額が実際の時間外労働と見合わなければ、不足分は使用者に支払い義務があります。

有給休暇取得を理由とした不利益取り扱いは、労働基準法は本人の有給休暇取得を前提としていると思われますが、このケースでは他の社員の有給休暇取得を促したことを理由にしています。しかし、有給休暇の取得を拒んではならないこと、有給休暇取得を理由とした不利益取り扱いはしてはならないことは明らかですので、このケースも不当な降格処分として無効になると思われます。

賃金については重要な労働条件の一つであり、合理的な理由なしに労働者にとって不利益な変更を行なうことは認められません。労災によって残業ができなくなったことは、賃金を下げる合理的な理由とは言えないので、これも無効となると思われます。

退職強要、休憩を取る権利の侵害、合理的な理由のない配置転換、仕事の取り上げなどは、パワハラであり、パワハラを放置することは労働契約法に基づく安全配慮義務違反となると思われます。

こうした様々な違反に対して、泣き寝入りせずに声を上げ、改善していくことは、業界全体の改善に波及していくことになると思います。


また、記事の最後の方で触れられていますが、アニメ業界も下請けが多く、業務委託契約や出来高払い契約となっている場合は、使用者と労働者の関係ではなく発注者と受注者の関係を見なされ、労働法の適用を受けないことになってしまいます。

ですが、実態からすれば労働組合法上の労働者として見なされ、労働組合を結成したりユニオンに加入したりして、団体交渉を行なって労働条件の改善を目指していくことは可能なのではないかと思います。


労働者の生活や健康が守られ、働きやすい職場で働けるようになることは、仕事の質の向上につながり、業界そのものを良質の作品を持続的に生み出せるように改善していくことにつながると思います。

質のよいアニメを観たいと望む方には、是非アニメ業界の労働条件改善を支持していただきたいと思います。