事業仕分けで日本の労働者の健康悪化は放置されています | 労働組合ってなにするところ?

労働組合ってなにするところ?

2008年3月から2011年3月まで、労働組合専従として活動しました。
現在は現場に戻って医療労働者の端くれとして働きつつ、労働組合の活動も行なっています。

あまり知られていない労働組合の真の姿(!?)を伝えていきたいと思います。

事業仕分け第3弾が10月27日より行なわれる予定だそうですが、当ブログでの事業仕分けの評価は、ある程度日本の国家予算の中の国民に見えにくかった部分を可視化したという効果はあるにせよ、実際に行なわれていることは新自由主義的な国の責任放棄に過ぎないというものです。

そのことは、国立病院機構の事業仕分け結果 について考察したときにも述べましたし、国立女性教育会館の神田道子理事長のお話 をうかがったときも同じ感想を持ちました。突き詰めて言いますと、事業仕分けとは単にその事業の数字上の成果から事業の存廃を決めているだけで、その事業が何を目的としているのか、その目的を達成するために国がどのような責任を果たさなければならないかは全く考慮せずに判断を下しているということです。つまり、日本各地に医療機関が十分に整備されている訳でもないし、女性差別がない社会が達成されているという訳でもないのに、ただ国の予算を縮小するためにそのような問題を解決する国の責任を放棄しているとしか見えないのです。削った予算でそれらの問題を解決するためにどのようなことをするかが示されれば問題はないのですが、そうしたことには行政刷新会議は全く”我関せず”な訳ですから。そして、少なくとも上記の2つの問題については、政府まだ何ら具体的な解決策は示していません。女性差別の問題など、国連機関から是正勧告を受けているにも関わらず、です。


そんな訳で、私は事業仕分けにはその利に対して余りあるほどの害があると考えていますが、現場の努力によって仕分け結果通りの事業縮小を回避しているということも聞いていたのでさほどひどいことにはなっていないだろうと思っていました。

ですが最近、中小零細事業所の労働者の健康問題にどのように取り組むかというテーマの労働安全衛生セミナーに参加して、これまで中小零細事業所の労働安全衛生を支えてきた産業保健推進センターが事業仕分けのために大リストラにさらされ、これまでのように頼りにすることはできなくなっているということをうかがいました。

そして、ますます事業仕分けには深い問題があると考えるようになりました。事業仕分けによってこれまで利用できた事業がなくなるか縮小されるかして困っているという声が聞こえるのは、多くが国民の健康や安全に関わることなのです。


具体的には、まず、下記URLで仕分け結果を読んでください。


内閣府 行政刷新会議

2010年4月23日 事業仕分け詳細と評価結果

B-4 地方組織

労働者健康保健福祉機構 評価結果

http://www.cao.go.jp/sasshin/data/shiwake/result/B-4.pdf



この評価結果で、産業保健推進センター業務が「当該法人が実施し、事業規模は縮減。省内仕分け結果1/3縮減にとらわれない更なる削減を求める。 」となっていることに基づいて、産業保健推進センターでは様々な事業の廃止・リストラが行なわれているそうです。具体的な例を挙げますと、健康問題の啓発のためのビデオ・DVDの貸出事業の廃止、 冊子の発行の取りやめ、人員削減などだそうです。実際、当組合に所属している事業所も、禁煙の勉強会のためにビデオを借りようとしたら借りられなくなっていて困ったそうです。

また、2つめの小規模事業場産業保健活動支援促進助成金事業と3つめの自発的健康診断受診支援助成金事業の評価結果が「事業の廃止」とされていますが、この事業は中小零細事業場向けの産業医の共同選任への助成金と深夜業従事者健康診断への助成金です。前者は、1つの事業場の経済力ではとても産業医と契約することはできないという中小零細事業所にとっては大きな助けとなる制度ですし、後者は深夜業従事者の増加と健康被害を考えれば、もっと広く知らせて活用を勧めるべき制度です。

労働者健康保健福祉機構のホームページ を見てみましたら、まだこの事業が掲載されていたので、即時に廃止された訳ではないようなのにほっとしましたが、廃止が回避されたのかどうかは定かではありませんので注目する必要があると思います。



そもそも、日本の労働者の半数以上が中小企業で働いており、50人未満の小規模事業所は全事業所の99%、労働者数の58%を占めているそうです。

そうした中小企業において労働者の健康、労働安全衛生が配慮されているかというと、安全衛生推進者か衛生推進者が選任されている事業所の割合は19.6%であり、定期健康診断の受診率は30人未満の事業所では72%で定率で、定期健康診断の有所見率は1000人以上の事業所では39%であるのに対して、50人未満の事業所では51%と高率なのだそうです。(2001年度総務省統計局事業所企画統計調査)

中小企業が労働者の健康や労働安全衛生に対する配慮が不足している理由は、そうしたことに対する知識や関心が不足しているというだけでなく、経営的に余裕がないということもあるでしょう。ですから、産業保健推進センターのように、サポートをする機関が必要なのです。

産業保健推進センターの利用が十分にされていないと言っても、それは労働者が十分健康で必要ないという訳ではなく、労働者の健康状態がよくない、健康診断の有所見率が効率であるという実態があるのです。その実態に目を向けることなく、ただ事業を削減するだけなのだとしたら、それは国の予算の縮減のために国民の健康を犠牲にしているということに他なりません。

それは違うと言うならば、政府は中小企業で働く労働者の健康を守るためにどのような対策を行ない、どのような実績を挙げたかを示さなければなりません。ですが、私は寡聞にして、政府がそのような対策を行なったことも、そのような実績を挙げたことも存じ上げません。

このような私の考えが誤解だと言うならば、ぜひその対策や実績をわかりやすく示してほしいものだと思います。