特許翻訳 A to Z

特許翻訳歴25年、業界改善を目指した情報発信歴22年。
自らの試行錯誤に加え、参加者数のべ1000名を超えるセミナーや講座、年間50名前後の個別相談などを通して得たスキルアップのヒントをお届けします。


テーマ:

米国も、五捨六入?それとも・・・」からの続きです。

諸外国における「四捨五入」を調べる過程で、日本語以外には、今のところ中国語と韓国語に対応する単語が見つかりました。

ただ、少なくとも韓国は、1954年の四捨五入改憲(사사오입 개헌)で半ば強引に日本の四捨五入の仕組みが適用されるまで、四捨五入という概念自体が存在していなかったという説があります。

中国は中国で、「四舍五入」という語の説明でありながら、実際には切り上げがなされている例があり、日本の四捨五入と完全に等価なのか否かは、調査中です。

よって、もともと日本独自の手法だったのではないかという可能性を念頭におき、昔の数学を調べたところ・・・・
江戸時代には数学が大流行し、欧米の数学者を上回る和算家が何人もいたことが、わかりました。

当時は庶民ですら、あたりまえに8次方程式を解いていたとか。
どのくらいブームだったか伺い知れるくだりを、『江戸の数学教科書』という書籍から、抜粋します。

 

 江戸時代の日本では、1000タイトルを超える数学の本が出版された。これは当時の世界各国と比べてダントツに多い。
 その中でも一番よく売れたのが、吉田光由の『塵劫記』である。なにしろ、これは算術の教科書であるにもかかわらず、井原西鶴や十返舎一九といった人気作家の文学作品をはるかに凌駕する部数を売り上げたというのだから凄い。
 解説本や海賊版もあちこちから出版され、『塵劫記』と名のつく本をすべて合わせると、300年間で400タイトルになったと言われている。武士から庶民にいたるまで、ほとんど「一家に一冊」という状態だったのではないだろうか。まさに「算術のバイブル」である。 
  桜井進 著 『江戸の数学教科書』 (p. 23~24)


塵劫記については、海賊版の流通を防ぐために多色印刷の「トンボ」が考え出され、日本で最初の多色刷りがなされたほか、この技術が浮世絵の誕生を促したことなど、数学のみならず別の技術にも影響を与えた旨が説明されています。

ほかにも、ベルヌーイの公式をタッチの差で先に発見し、13万1072角形を使って円周率を10桁まで求めた関孝和の逸話など、読み物として非常におもしろいです。
関は、1683年に世界で初めて行列式の理論を提示しましたが、これは欧米よりはるかに早い。
同じく関の「加速法」も、欧米より200年も早いとか。

和算の術式自体、欧米の洋算とは全く異なる、日本独自のものでした。

明治維新によって洋算が導入され、和算は衰退の一途をたどりますが、これがなければ世界のどの数学大系とも異なる体系として名を知らしめることになったのではないかと言われるほど、世界中どこを探しても、他に例がないユニークな体系のようです。

この『江戸の数学教科書』に、「不尽」という言葉が出てきます。
「尽」というのは割り切れるという意味で、割り切れる世界から割り切れない世界を追い求めるようになったことで、和算が飛躍的に進歩したようです。

・・・ということは。ここに、四捨五入が絡んでいる可能性がありますね。
よって、周辺をあたった結果、国立科学博物館の「江戸の科学技術は世界水準!」に、

  関も同じようなやり方で正13万1072角形から小数点以下10桁まで正確に
  求めることに成功(求めたのは11桁で、正確を期すために最後を四捨五入した)


と、説明されていました。

 

*      *      *

 

今まで判明していた四捨五入の文献記録の最古は、1794年の『地方凡例録(じかたはんれいろく)』でしたが、『地方凡例録』より100年以上前に、四捨五入がすでにあったことになります。

かたや英語では、ネイティブの友人知人に何人も聞いてみたものの、いまのところround (off)より適した表現は思いつかないという回答ばかりです。
まだ回答が来ていない人たちがいますので断言はしませんが、おそらく英語には「ない」語でしょう。

鎖国下で諸外国からほぼ完全に切り離されていながら、江戸の和算が欧米の数学とは全く異なる秀逸かつユニークなものであったことに照らしても、四捨五入は本当に日本生まれ・・・?

それにしても。
辞書もないのに数々の翻訳書を生み出した蘭学者にしろ、誰にも教わることなくピタゴラスの定理や円周率などを見つけ出した和算家にしろ、江戸時代の日本人は本当にすごいですね。

 


(2の平方根、3の平方根などが小数点以下まで示された、『塵劫記』の図と説明。)

 


■関連記事 (連載です)
四捨五入や五捨五入、英語では?
     ┗新規事項と四捨五入
イタリアは、五捨六入

「端数」とは、何を意味するか

米国も、五捨六入?それとも・・・
江戸の和算家は、世界トップレベル ←現在地。

韓国の四捨五入事情
 


インデックスへ

いいね!した人  |  コメント(0)  |  リブログ(0)

水野麻子さんの読者になろう

ブログの更新情報が受け取れて、アクセスが簡単になります