特許翻訳 A to Z

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事故防止のため、お立ちの方は、つり革・手すりなどにおつかまり下さい。


公共交通機関で、おなじみの車内放送です。

都心近郊のJR線では、If you are standing, please hold on to a hand strap or a railという、英語放送が流れることも。

 

この「つり革」。

正式には「吊り手」と呼ぶようですが、ここではつり革で話を進めます。

 

和英辞典で「つり革」を調べると、strapあるいはhand strapという訳語が出てきます。

日本から外国への特許出願や日本出願の英文抄録/発明の名称にも、これらの語が、普通に使われています。


ここで、たとえば下の画像のようなつり革は、まさにstrap
 


日本でも、昔はこういうタイプのstrapだったようです。
鉄道総合技術研究所の文献検索データベースで調べると「吊り手」という資料があり、ここに牛革を輪にしたつり革の画像が載っています。

かたや現代日本のつり革。ベルト+手掛けの「全体」を、strapで表現できるでしょうか。


もちろん、電車の車内放送程度なら、hand strapでも構わないだろうと思います。
聞いた側で意味がわからないということも、ないでしょう。


でも特許翻訳には、日常の英語とは異なる面が、確実に存在します
必ずしも牛乳→milkとは訳せないのと、同じですね。

 


つり革の不思議 なぜ○や△があるのか 」というウェブ上のコンテンツに、いくつか画像が載っています。

たしかにどれもstrapがついてはいるのですが、②の中央線快速のつり革のように二等辺三角形のつり革では、ストラップ部分はわずかです。

特に最近増えてきた、広告付きのつり革。
二等辺三角形とストラップとの間に広告が表示された長方形の部分があるため、ストラップは上の2~3センチです。残りはすべて、プラスチック。

 

これをstrapあるいはhand strapの概念に、含めることができるのかどうか・・・・・。


参考までに、英語圏の鉄道資料を調べると、プラスチックの手掛けがついているものに対しては、grab handlebus handletrain handleといった言葉が出てきます。


かたやつり革が属する国際特許分類「B60N 3/02 (hand grips or straps)」で乗り物用のhandleを検索すると、車体に固定されたhandleも多く出てきます。


ここで、つり革と単なるhandleの語義を天秤にかけると、同じではないですよね。
busあるいはtrainなどの語を補うことで、つり革に絞り込むことは可能かもしれませんが、特許明細書だということを考えると、不要な限定になりかねません。
それ以前に、grab handle自体、調べるとつり革とは形が違うものがいくつもあります。


そうすると、やはりつり革を英訳するなら、hand strap????
 

繰り返しますが、上の画像にあるような元祖つり革なら、strapで良いでしょう。
ベルトが長く、手掛けの輪が付いているだけの昔のつり革も、ぎりぎりstrapと言えるかもしれません。
それでは、ベルトが短いものは?
あるいは「BUS HANDLES AS FINE MUSIC POWER」にあるように、ベルトレスの「つり革」も。

ひとつだけ確実にいえるのは、技術や人々の生活が変化することで、「つり革」「吊り手」という語が示す内容が、明らかに変化しているということでしょう。

英語は単語自体を変えて変化に対応してきているようですが、日本語は、昔のまま。
結果として、昔と同じ英訳語が不自然になりつつあります。

strapとhandleの両方を含めて上位概念化する語があればよいですが、すぐには思いつきません。

個々の明細書で、つり革が何をどこまで含み得るのか、しっかり意識する必要があるかもしれませんね。



■関連記事 (連載です)
つり革←→strapと、特許翻訳 ←現在地。
辞書を使うと、誤訳になりやすい一例
 


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