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新規事項とは別の切り口から、「四捨五入や五捨五入、英語では?」との関連です。
 

明細書の翻訳で「四捨五入」を厳密に英訳しなければならない場合に、どういう方法が可能かを考えるために、日本語→外国語の辞書で「四捨五入」を引いてみました。
これらの語を、その言語から英語への辞書で引くことで、何か出てくるかもしれないと思ったからです。

あらかじめお断りしておくと、辞書はあくまで「きっかけ」です。
英語でも、和英で「四捨五入」の見出しがある辞書は、ほぼ例外なくround (off)を掲載しています。

いまのところ『カレッジライトハウス和英辞典』の1冊だけ、切り上げ(round up)、切り捨て(round down)に加えて、英語には四捨五入相当の表現がないと付記した上で「(細かい端数を切り捨てる)round (off)、[副] (端数をなくして)in round numbers [figures]」と掲載していましたが、ほかはround (off)ばかりでした。

英語ですらこういう状態ですので、他の言語は手がかりのさらに手がかりだととらえています。
その上で、たとえば次のような訳が、出てきました。

 

コンサイス和仏辞典 (ISBN: 4-385-12156-7): arrondir

小学館和西辞典 : 日本語-スペイン語 (ISBN: 978-4-09-515531-9): redondear

小学館和伊中辞典 (ISBN: 978-4-09-515452-7):
   arrotondare un numero (◆イタリアでは五捨六入する) p. 646

白水社 和伊辞典 (ISBN: 4-560-00088-3): 
   arrontondare [[イタリアでは五捨六入にする]] p. 443

大学書林 和伊辞典 (昭和62.1110初版発行): arrotondamento; arrotondare

イタリア書房和伊辞典 (昭和57.1.20初版発行):  
   arrotondare una cifra; togliere i decimali e farlo diventare un numero intero

現代和独辞典 (ISBN: 4-384-00032-4): bis 4 abund ab 5 aufrunden

新コンサイス和独辞典 (ISBN: 4-385-12073-0):
   Zehnerbruchstelle (Dezimalstelle)  aufrunden (abrunden)

南洋協会 日蘭辞典 (昭9.12.10初版発行):
   afroden tot heele getallen; 1/2 en hooger voor heel rekenen en lagere breuken verwaarloozen 

大学書林 和西大辞典 (昭49.4.15初版発行):
   cálculo redondo contar la fracción de como una unidad y desatender el resto

新日韓辞典 : 例解 日本三省堂版 (ISBN: 4-385-15442-2): 사사오입

民衆日韓辭典 (昭和48.11.15初版発行): 사사오입;반올림

日中辞典 (ISBN: 978-4-09-515653-8): 四舍五入


収穫は、イタリアでは五捨六入らしいと知ったことです。
伊英辞典を引くと「to round (off), to supplement」とあり、他の言語同様にroundになってしまうのですが、同じroundでも、かたや五捨六入から訳し、かたや四捨五入

ついでなので、arrotondareをイタリア語-イタリア語辞典で引いてみました。
使用したのは『Grande Dizionario Italiano』で、定義は次のとおりです。
 

[ar-ro-ton-dà-re]
(arrotóndo) A v. tr.

1 Dare a qualcosa una forma rotonda o più rotonda: a. uno spigolo

2 fig. Tornire, rendere più armonioso: a. una frase

3 MAT Sostituire un numero con un altro numero più semplice, togliendo o aggiungendo valori frazionari, per semplificare il calcoloa. una cifra, una somma, un totale
‖ Arrotondare lo stipendio, accrescerlo con guadagni straordinari
 

B v. intr. pronom. arrotondàrsi

Diventare rotondo
‖ estens. Ingrassare

 

ハイライト部分が、「計算を単純化するために、端数(valori frazionari)を切り捨てまたは切り上げることによって、数字を他の数字でおきかえる」というような意味になっています。

定義の中に、「5以下」「6以上」は出てきません。

日本の国語辞典で四捨五入を引いても「4以下」「5以上」が説明されていないのと似ていますね。
ようするに、暗黙の了解なのでしょう。

 

 

新規事項と四捨五入」で書いたように、英語のround (off)を四捨五入と翻訳した特許明細書は、かなり多くあります。
翻訳者が四捨五入をイメージした結果だと思いますが、英和・和英辞典を含めて、そのくらい四捨五入とround (off)が結び付いています。
ところがイタリアだと、五捨六入・・・・・・。


ここで、たとえば日本からのPCT出願で、指定国にイタリアを含むとします。
各国段階に移行する際の翻訳は、多くの場合は日英翻訳した英文で現地に任せることになるでしょう。

 

和文明細書に四捨五入とあり、roundを使って日英訳されたとして、おそらくイタリアではarrotondareを使って英伊訳がなされます。
そうすると、そのイタリア語明細書は、現地で「五捨六入」のつもりで読まれる「かもしれない」わけです。
他にも、日本とは違う○捨○入が当たり前になっている国が存在する可能性もありますね。

 

PCTの場合、日本語の明細書を作る時点で、四捨五入とはこういう処理で・・・という一文を明細書に入れておいてもらえると安心してroundを使用できるのですが、現実には、なかなかそうもいかないだろうと思います。

新規事項云々とは別に、こうした国による文化の違いに根ざした差があることまで考えると、やはり「四捨五入」が意味をなす場面では、roundとは別に何か英語表現を考えたいですね。


最後に余談ですが、日本語の「四捨五入」がいつから使われているのかということも、調べてみました。

現時点で判明している最古は、1794年の『地方凡例録(じかたはんれいろく)』という地方書の中に、「毛ヨリ末ハ五ト出レバ、五入ニテ一毛ニイタシ、縦令ハ一毛五才ト出ル時ハ二毛内ト記シヌ、一毛四ナド出タル時ハ、捨テ一毛余ト記シ、是ヲ四捨五入トイフテ、不蓋ハ石附ケ毛ヨリ末ハ・・・」とある記述です。

10巻のうち巻3に出てくる記述で、ときは江戸時代(1794年)。
こんなに昔から使われていたのであれば、おそらく、莫大な数で英語訳もなされてきたでしょう。

たかが四捨五入、されど四捨五入。ことばひとつでも、奥が深いですね。

 

■関連記事 (連載です)
四捨五入や五捨五入、英語では?
     ┗新規事項と四捨五入
イタリアは、五捨六入 ←現在地。
「端数」とは、何を意味するか
米国も、五捨六入?それとも・・・
江戸の和算家は、世界トップレベル
韓国の四捨五入事情
 


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