特許翻訳 A to Z

特許翻訳歴25年、業界改善を目指した情報発信歴22年。
自らの試行錯誤に加え、参加者数のべ1000名を超えるセミナーや講座、年間50名前後の個別相談などを通して得たスキルアップのヒントをお届けします。

羊歯は江戸時代の翻訳語?」との関連です。

 

特許明細書の中にある「歯朶」と「羊歯」を、調べてみました。

公報全文検索をすると、現時点で「歯朶」はヒットなし、かたや「羊歯」のほうは公開・公表に絞って45件あります。

 

多くは植物(羊歯類、羊歯植物門など)そのものですが、まったく違うものがいくつか混じっていました。

いくつか、例をあげてみます。

 

放熱部12は、図7に示すように、基体10の他端(背面)側から見た平面視において、雪の結晶形状の一種であるところの樹枝状ないし羊歯状に類似した形状をなしている。
(特開2013-077401)

排卵日頃に唾液のシアル酸の結晶が羊歯類の形状にて形成される
(特開2005-257439)

この不規則な流動模様は、枝葉模様、羊歯模様、珊瑚模様などに類似した複雑な模様であり
(特開2000-343553)

視覚を撹乱するほこり又は汚れ吸引パターン(例えば、羊歯状のマークが生じる
(特表2007-517107)

【請求項1】 唾液塗布用平面板と、光学的拡大手段と、羊歯状の模様が表された妊娠可能期間の拡大見本図、羊歯状の模様と点状の模様とが混在して表された中間期間の拡大見本図及び点状の模様が表された非妊娠期間の拡大見本図を並べて表記した表示対照図とを用いるものであって、前記平面板に対し女性の唾液を薄く塗布して乾燥させ、次いで平面板上の乾燥させた薄膜状の唾液を光学的拡大手段で観察し、光学的拡大手段を通じて観察された唾液の模様を表示対照図の模様と対比して妊娠可能期間、中間期間及び非妊娠期間の別を判別することを特徴とする唾液による妊娠可能期間の検査方法。
(特開平08-145992)


これらの「羊歯」を英訳するとしたら
 

上記のうち4件目は翻訳公報で、原文は「visually disturbing dust or dirt attraction patterns e. g. fernlike marks arise」です。
それでは、他も同じようにfernlike pattern、fernlike shapeと訳せるでしょうか。

日本語の「羊歯」はシダ植物を総称する表現で、約1万種が含まれるとされています。
こうした中、明細書で羊歯類の形状といったとき、1万種のうち「どのシダの」形を示すか特定することは、非常に困難だと思います。
 

英語のfernは、Websterの定義によれば
any of a division (Filicophyta) or class (Filicopsida) of flowerless spore-producing vascular plants having alternating sporophyte and gametophyte generations;

ですので、仮にFilicopsidaまで限定して考えたとしても、形状は、まちまちですよね。

 

百歩譲って・・・さらに絞り込みます。

日本では和服などに使われる伝統的な「羊歯模様」が、ウラジロの葉の模様です。
家紋にある羊歯紋も、ウラジロを模した形をしています。
これらの伝統模様から類推して、ウラジロのような模様を「羊歯状の模様」と呼ぶとしますよね。
そういう前提をおけば、日本語なら、羊歯状の模様を理解できなくもありません。

ただ、その羊歯をfernで表現したとして、果たして正しく伝わるでしょうか?

たとえば下の画像は、英語でbird nest fernと呼ばれている植物です。
英語圏の人々にとっては立派な「シダ」ですが、ウラジロやワラビの葉とは、全然違います。


こうして考えていくと、「羊歯状の模様」は、非常に難しいのではないかなと。
かたやたとえば特開平08-145992のパテントファミリであるCN1142349では、「羊齿状图形 (羊歯状図形)」と1:1に翻訳されています。


参考までに、上記の請求項にある羊歯状の模様を明細書に添付された図面で見ると、伝統的な羊歯模様のようなウラジロ形でも何でもありません。

むしろ、この類のギザギザした葉が何枚も乱雑に重なっているとも言えなくもない、という図です。
これで羊歯状の模様?とも思います。

そもそも、なぜ請求項で「羊歯状の模様」に限定したのか、という疑問もあるでしょう。
従属項なしの独立項1項だけで出ているのですが、請求項を読むかぎり、羊歯である必然性は・・・?

市販の妊娠検査薬にも「シダ模様」が出るとして販売されている商品がいくつかありますが、明細書では、こういうものが最も翻訳が難しいのではないかと思います。

■関連記事
「~状」という言葉と、明細書の翻訳
羊歯は江戸時代の翻訳語?
 


インデックスへ
 

いいね!した人  |  コメント(2)  |  リブログ(0)

水野麻子さんの読者になろう

ブログの更新情報が受け取れて、アクセスが簡単になります