特許翻訳 A to Z

特許翻訳歴25年、業界改善を目指した情報発信歴22年。
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翻訳会社からの指示として、「原文に記載のある単語を漏れなく翻訳する」といった内容を、ときどき耳にします。
翻訳会社と取引をしたことのある特許翻訳者なら、おそらく多かれ少なかれ経験があるでしょう。

この場合、たとえば英文明細書の「International Patent Application No. XXXXXX」という記載を「国際出願第○○号」と翻訳すると、Patent=特許が抜けている→漏れなく翻訳されていない→訳抜けになるのでしょうか

そもそも、国際出願が準拠している特許協力条約(Patent Cooperation Treaty)に、International Patent Applicationという表現は使われていません。
同条約第3条の見出し「The International Application」をはじめとして、PCTで使われる表現は「International Application」であって、International PATETN Applicationではないのです。

また、PCTの第2条で、次のように規定もされています。
 
(ii)  references to a "patent" shall be construed as references to patents for inventions, inventors' certificates, utility certificates, utility models, patents or certificates of addition, inventors' certificates of addition, and utility certificates of addition;

 
国際出願には、ざっくり言えば「国際段階」と「国内段階」の2つの段階があり、「特許」にするか否かつまり保護の対象を決めるのは、国内段階への移行時のはず。
国内移行の際に、それぞれの指定国の法規に従って、出願人自身が各指定国で保護の種類(日本であれば、「特許」や「実用新案」)を選択します。

もちろん保護の種類として特許しか存在しない指定国は特許になるのでしょうし、多くは「結果として」特許出願で良いのかもしれません。
でも、それは各国の制度依存であって、国際出願の時点で保護の種類を指定しているわけではない・・・ですよね。

(※注 厳密には、追加特許、追加証、追加発明者証、追加実用証、継続出願、一部継続出願は国際出願時に保護の種類を表示しますが、ここではひとまず除外して考えます。)


たしかに、「原文に記載のある単語を漏れなく翻訳する」という指示を字面どおりに解釈すると、「国際特許出願第○○号」になります。
そしてWIPOをはじめとして、各国特許庁も、制度の説明などの文章では「International Patent Application」という表現を多用しています

ただ、これは一般の人にも(商標出願などとの混同を生じることなく)わかりやすくするための対処のひとつだろうと思われますし、「番号と一緒に明細書に引用されているとき」は、必ずしも同列に考える必要はないのではないかなと。

番号があれば、それが商標なのかそうでないのかは一目瞭然ですし、それ以前に、特許明細書に先行技術文献の記載として商標が出てくる余地は・・・・ですし。

ようするに、「International Patent Application No. XXXXXX」を「国際出願第○号」と翻訳しても、それは訳抜けとは言えないのではないかと思うのです。
むしろ、原文が伝えようとしている情報を、正確に伝えているとも言えるかもしれません。
 

ここで、ためしに、JPlatPatの公報テキスト検索で書誌を除く全文に対して「国際特許出願第」を検索してみたところ、対象を公開・公表だけに絞って約7,600件、特許だけに絞ると3,000件近い数がヒットします。
これでは多すぎて中を確認できないため、特許対象で「請求の範囲+要約書」に「化合物」と掛け合わせたところ585件になりました。

内訳は、国内企業等による出願は片手で数えるほどしかなく、残りはすべて翻訳です。
 
「化合物」に代えて「システム」を掛け合わせると、515件。
やはり国内出願は1桁で、残りはすべて翻訳です。

日本が翻訳公報ばかりなので英語圏でもさぞかし多いのだろうと思ってGoogle Patentで検索してみたところ・・・・・

 "international patent application" 226件
 "International patent application Serial No." 193件
 "WIPO Patent Application"  78件
 "PCT Patent Application"  224件

思いつく表現をいろいろ試したのですが、米国、欧州、WIPO、カナダなど複数の特許庁のデータを横断検索しているGoogleで、この程度の件数でした。
それで無作為抽出・照合した結果、原文にPatentが「なくても」日本語が「国際特許出願」になっている例も、かなりあることが判明しました。
こちらは、「追加」訳です。

長くなりましたので、続きは次回に。


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