【麗し大和】(11)

 “花の雲”とはこんな眺めをいうのだろう。芳(かんば)しい香りが漂う賀名生(あのう)梅林は、知る人ぞ知る梅の隠れ名所。かつて南北朝時代、南朝の行宮(あんぐう、天皇の仮宮)が置かれた歴史の舞台でもあった。

 匂(にお)いくる風をしるべに尋ねばや梅咲くやどの花のあるじを(前中納言実為)

 南朝方の歌を集めた「新葉和歌集」にはこんな歌も残っていて、当時も梅の咲く地。現在のような広大な梅林になったのは、梅の実の栽培が始まった明治以降という。

 変わった地名が気になった。もちろん、由緒がある。諸説あるが、もともと「穴生(あなふ)」と呼ばれていたのを南朝2代の後村上天皇が願いを込めて「加名生(かなう)」とし、さらに一時、南北朝が統一された際に「賀名生」と改めたと伝えられる。梅林のふもとには天皇の宮となった「堀家住宅(賀名生皇居跡)」(重要文化財)が今もあり、隣の歴史民俗資料館とともに観光スポットになっている。

 ぼんやり山を見ていると、白梅、紅梅咲き乱れる中でひときわかれんな淡紅色(うすべにいろ)が目を引いた。この地方独特の品種「林州(りんしゅう)」で、八重咲きの姿は華やか、気品ある香りは南朝の昔を彷彿(ほうふつ)させる。一時は全体の2割程度に減ったが、地元で増やす努力が続けられているそうだ。

 山を埋め尽くした一面の梅の花は、南朝の夢の跡を荘厳(しょうごん)するかのように美しい。(文 山上直子、撮影 飯田英男)

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