第8095回「江戸川乱歩中短編 その4、心理試験 ストーリー、ネタバレ」(1925年) | 新稀少堂日記

第8095回「江戸川乱歩中短編 その4、心理試験 ストーリー、ネタバレ」(1925年)

 第8095回は、「江戸川乱歩中短編 その4、心理試験 ストーリー、ネタバレ」(1925年)です。明智小五郎が取り組んだ第二の事件です。倒叙ミステリになっています。ストーリー的には、ドストエフスキーの「罪と罰」を連想させられます。


 ストーリーの紹介にあたりましては、便宜上、部とサブタイトルを付けさせていただきます。


「その4、心理試験」

『第一部 事件編』

 蕗屋(ふきや)清一郎と同級生の斎藤勇はともに苦学生でした。蕗屋が斎藤に出会ったことが、事件の発端になりました。斎藤は元武家の未亡人と知り合いだったのです。その未亡人は、借家から上がる賃貸料を、タンス預金で貯め込んでいると噂されていました。


 「ろくでもない金貸しのババアを殺して何故悪い。おれに多少の金があれば国家にとってもより有意義なはずだ」と考えた蕗屋は老婆殺害を決意します。しかし、捕まっては元も子もありません。犠牲者(犯人)として考えたのが、斎藤でした。「奴なら、尋問されたら犯してもいない罪を自白するだろう」


 計画を詳細に練り、実行は大胆に行います。斎藤からの又聞きにより、金の隠し場所は植木鉢の底だと分かっています。犯行二日前にばあさん宅の下見もしています。犯行当日、殺人を終えると、金を半分だけ盗み、悠々と逃げ出します・・・・。犯行に際して唯一気がかりだったのは、七福神の襖に血痕が飛び散ったことです。ですが、何の支障もないと考えます。


 後日、逮捕されたのは斎藤でした。斎藤は老婆が殺されているのを見て、植木鉢の底から残っていた半分の紙幣を盗み出していたのです。老婆殺しの証拠として、金は押収されます・・・・。


『第二部 心理試験編』

 事件を担当したのが、予審判事の笠森氏でした。笠森氏は心理試験を得意としていました。そのことは、広く世間に知れ渡っていました。検察庁に呼ばれたのは拘留中の斎藤と蕗屋のふたりだけでした。蕗屋は入念に事前準備をしています。「より自然体に」を心掛けたのです。


 蕗屋は、新聞報道の範囲内で正直に答えます。そして、想定問題を作り、反応時間も調整します・・・・。笠谷氏の心理試験も、斎藤犯人説の方向で結果が出ていました。ただ、笠井氏は結論を急ぎませんでした。明智小五郎に相談したのです・・・・。


 「事件は、斎藤による犯行ということで決した。きみには些細なことで聞きたいことがあるので、検察庁まで出頭されたい」と蕗屋に連絡しますます。笠森氏と同席したのが、襖の所有者から依頼を受けたと称する明智小五郎でした。以下、最後まで書きますので、ネタバレになります。


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 事件に関する差し障りのない会話が続きましたが、それも一段落します。最後に明智が話します。「襖の所有者と被害者の相続人の間で争いがあります。事件の二日前に被害者宅に行ったとお聞きしていますが、襖の状況はどうでしたか?依頼者は傷ひとつなかったと話しているんですが」


 蕗屋はこれまで事実のみを証言することを心がけてきました、今回もその線で推し通します。「ええ、覚えていますよ。七福神の図柄でしたな、私が行った時には、傷ひとつありませんでした」と答えます。にやりと笑ったのは、明智でした。


 「依頼者は、事件の一日前に持ち込んだと断言しています。蕗屋さんが事件二日前に行った時には、まだ届いていなかったんですよ」、勝ち誇った明智はたたみかけます。「心理試験で、キーとなる単語に対する反応時間が、他の単語よりもわずかに早いという結果が出ているんです。練習したんでしょう?」


 完全犯罪を期した蕗屋は、ついに落ちます・・・・。


(追記) 「江戸川乱歩中短編」につきましては順次ブログに取り上げていくつもりです。興味がありましたらお手数ですが、「乱歩中短編」と御入力ください。