第941回「ドグラ・マグラ その1」(推理小説クラシック) | 新稀少堂日記

第941回「ドグラ・マグラ その1」(推理小説クラシック)

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 第941回は、「ドグラ・マグラ その1」(推理小説クラシック)です。中国で「四大奇書」と呼ばれるものがあります。三国志演義、水滸伝、西遊記、金瓶梅の四作です。それにちなんで、日本の推理小説にも四大奇書なるものがあります。小栗虫太郎の「黒死館殺人事件」、夢野久作の「ドグラ・マグラ」、中井英夫氏の「虚無への供物」、竹本健次さんの「匣の中の失楽」です。


 「黒死館殺人事件」と「ドグラ・マグラ」は、戦前の作品ですので、現代の読者には馴染めない文体かもしれません。そのため、全巻を通読した人は、ディープなミステリ・マニアでもさほど多くないと思います。「ドグラ・マグラ」をブログネタとして考えますと、全く無視するか、詳細に書くかのいずれかと思います。何度かに分けて書いていきたいと思います。


 巻頭歌として、「胎児よ  胎児よ  何故躍る  母親の心がわかって  おそろしいのか」が掲載されています。そして、本文は「・・・・・・ブウウ―――ンンン―――ンンンン―――。」で始まります。現代であれば、ボーンと表現すると思います。振子時計が時を打つ音です。「わたし」は、その音で目覚めます。しかし、自分の名前を含めて、過去の記憶が欠落しているのです。今日の日付さえ分りません。どうも、精神病院のようです。


 隣の部屋では、「お兄様~、お兄様~」と慟哭する少女の声が聞こえます。「わたし」は、騒ぎを聞きつけた看護師に、自分の名前と今日の日付などを聞きます。やがて、"若林博士"がやってきます。若林博士は、「わたし」の記憶が回復すれば、全てが明らかになると語ります。そして、隣室の少女を紹介します。見覚えがないのです、しかし、すごい美少女です。


 若林博士はさらに語ります。「わたし」の記憶喪失は、亡くなった"正木教授"の「解放治療」によるものであること。その解放治療が実証できれば、ダーウィン、アインシュタインの功績にも匹敵すると。「わたし」の記憶を回復させるために、正木教授の部屋に連れてきます。そこに、分厚な資料があります。そして、「ドグラ・マグナ」なる本があります。本を開きますと、巻頭歌につづき、「・・・・・ブウウ―――」で始まっています。入院患者である大学生が、一気呵成に書いた本であるとのことです。


 「わたし」は、その本には興味がありません。故(?)正木教授の分厚いファイルに興味をひかれます。夢中になって読み始めます。若林教授はいつしか、部屋を出ています。


文献1  「キチガイ地獄外道祭文(げどうさいもん)」・・・・辻説法を文書化したような内容です。当時の精神科治療に対する批判が繰り広げられます。歌うように語られたのではないでしょうか。

文献2  「地球表面は狂人の一大解放治療場」・・・・・正木教授の論文です。祭文の内容を受け、「解放治療」なるものの必要性を強調しています。

文献3  「胎児の夢」・・・・正木教授の卒業論文です。ヘッケルが「個体発生は系統発生を繰り返す」と主張した仮説は、科学的に立証されています。正木教授は胎児は、胎内で夢をみる。魚類・爬虫類・哺乳類へと発生段階でその形態を取るように、祖先の記憶も夢に見る。正木教授は、これを「心理遺伝」と呼びます。


 ここまでが、文庫本で630ページの本の4割の時点です。そして、さらに長い正木博士の「空前絶後の遺言書」へと続きます。次回、続きを書きます。