幽霊列車(1949) | 日本映画ブログー日本映画と時代の大切な記憶のために

日本映画ブログー日本映画と時代の大切な記憶のために

日本映画をひとりの男が見続けます。映画はタイムマシンです。そういう観点も含め多様な映画を解説していきます。範疇は作られた日本映画全てです。

幽霊列車
1949年 大映
監督:野淵昶 主演:柳家金語楼、花菱アチャコ、横山エンタツ、藤井貢、藤代鮎子

出演者を見て、この題名を見ると、納涼コメディかと思うが、結果的には事件もののサスペンス映画?という感じではある。まあ、この出演者でシリアスな緊張感はまったくないのだが・・・。円谷英二が特撮を担当してたり、助監督で加藤泰がついていたりする珍品に属するフィルムである。だが、この映画で特筆すべきは、金語楼のアクションである。このおやじ、チャップリンかエノケンかというような動きをみせる。カンカン帽をかぶっているところを見ても、そういう外国の喜劇俳優を意識しているのかもしれない。

温泉町のある、とある駅。台風が近づき雨が降る中、結構な客が夜のホームに降りる。客は、ひとくせもふたくせもある男女が十数名。街に向かうバスが途中でトラブって、駅に戻る事に。しかたなく駅に泊まろうというと、駅長(伊達三郎)はだめだという。皆が何故だと聴くと、昔、女優を乗せた列車事故があって、その幽霊がでるのだという。毎晩10時45分に幽霊列車が走るのだとか。皆は騒ぐが、いくところもなくその場に。そして問題の時間、シグナルが鳴り、電気が消え、伊達が倒れて入ってくる。金語楼が自分が医者だと言って診るが、死んでいた。そしてバスの車掌(藤代)は狂って駅で踊りだす。そんな中、昔の彼女がどうしたかなどという声が聴こえ、痴話げんかで人が死ぬ。そこでバスの運転手(小柴幹治)に手錠をかける男(藤井)がいた。そして、いつのまにか生き返っていた伊達にも手錠がかけられるのだった。藤井は自分は刑事だと名乗り、「こいつらは隠された軍事物資を運ぶために幽霊列車を走らせていた」というのだった。皆は一件落着と見る中、藤井は列車を動かしていた。そう、藤井も物資を狙っていたのだ。それを追う金語楼とエンタツ、アチャコ。彼らこそ刑事だった。追いかけ、藤井をつかまえるころには朝になった。台風一過の中、小柴が運転する列車で帰路につ男女たちだった。

さびしい駅に、数名の男女がのこされ、そこで幽霊話が語られるというのはよくある話ではある。そして、当時の映画にはこういうシチュエーションは少なくない。そして、こういう話ではその残された人間たちのキャラが大事である。そのあたりはこの映画は良くできている。金語楼、やエンタツアチャコのちょっととぼけた感じはあたりまえに目立つが、派手な服をきた姉ちゃんや、ちょっといかがわしい男、不倫のような男女、ろうそくを持ち歩く目の見えない男など、ただ、温泉に来たとは思えない人たちばかりで、まあ、事件がおきないほうがおかしいという感じではある。全員、あやしくしとくのがミソである。

で、この人たち、ラストでは温泉につからずに皆、帰路に就くのはちょっとおかしくないか?まあ、気持ち悪いというのはわかるが、みんな何をにきたのかよくわからない、変な連中たちである。

そんな中で、最終的に刑事だったのが、金語楼とエンタツアチャコなのだが、金語楼はカンカン帽を飛ばされる、変な客であり、途中では医者と名乗ったりする、かなり適当な刑事である。ある意味、最後まで刑事にはみえないところがよいともいえるが・・。エンタツアチャコにしても、どっちが社長だなどといつもいいあっていて、どちらかといえば泥棒に見える。このあたりがこの映画を最終的にはおもしろくしている。観客が役者に紋切的なものをイメージするのを逆に利用しているのだ。

そう考えると、他の役者の小芝居はそれなりにおもしろいが、これだけだと退屈なのは確かだ。でも、そんな中でもバスの車掌で途中で気がふれる藤代鮎子がラジオから流れる「東京ブギウギ」にのせて、みんなが踊り出す場面は、結構楽しかった。フルコーラスではないが、かなりの時間をダンスシーンに使っている。ある意味、ミュージカル的。この歌、1947年の者だが、まだまだ人気があったのだろう。

前半はつまらぬ幽霊話の映画というテーストだが、金語楼が刑事として活躍しだすところで、ギアチェンジ、突然のアクション映画になる。走っている列車の屋根から追って、運転室に飛び乗り、犯人を倒す場面はなかなかのアクションスターぶりである。しかし、彼は汽車の運転の仕方を知らず、その運転に翻弄されるところは喜劇役者なりのオチではある。エンタツアチャコはそこについてくだけで、あまりおもしろみはないが、さしみのつまという感じでは必要なのだろう。

円谷英二の特撮はというと、幽霊列車の説明の部分で、列車が崖から落ちるところのミニチュアを作っている。たいそうに細かく作られたミニチュアは彼らしいものである。観客的には幽霊シーンの創造とかで、特撮がほしかったが、それはない。

今観ると、たいした話ではないが、フィルム全体が暗いので、今でも、部屋の電気を消してひとりでみていると、前半部は結構怖い映画ではある。最初と最後にはジャズ調の主題歌が流れる。そう、全体の映画の雰囲気はハリウッドのパクリではないかと思われる部分が多い。たぶん底本の映画がありそうだが、私のそのへんの知識はとぼしいので、誰か知っている方あれば教えてください!


幽霊列車 [VHS]/柳家金語楼
¥3,990
Amazon.co.jp

柳家金語樓―泣き笑い五十年 (人間の記録 (120))/柳家 金語楼
¥1,890
Amazon.co.jp