インド生まれ、イギリス在住の現代彫刻家アニッシュ・カプーア。個展が6月19日まで、東京・谷中のギャラリーSCAI THE BATHHOUSEで開催中だ。

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 アニッシュ・カプーアは、1954年、インドのムンバイ生まれ。1970年代にイギリスに留学し、現在はロンドンに在住している。1980年代からイギリスを中心に彫刻作品やパブリックアート作品を多く発表し、1990年のヴェニス・ビエンナーレの英国館の代表になり世界中から注目を集め、イギリスを代表するアーティストとなり現在も活動を続けている。

 カプーアは、ステンレスや石、アクリル、ファイバーグラスなどさまざまな素材を用いて彫刻作品を作るが、造形的には抽象的で非常にシンプルな形が多い。しかし、それがひとたび空間に置かれると、光の反射や吸収、写り込みなどの効果で、空間の概念そのものが揺るがされてしまう。

 金沢21世紀美術館の展示室にぼっこりと開いた大きな穴の作品「世界の起源」や、2002年にロンドンのテートモダンで行った巨大な朝顔のようなインスタレーション「Marsyas」といった、大規模な美術館でのコミッションワークで、彼の作品を見たことがある人も多いのではないだろうか。今回の展示では、新作を含めてカプーアが扱う多彩な素材による作品が堪能できる。

 上は1979-80年の作品「1000 Names」。非常に粒子が細かい顔料(Chalk Powder)が山のようになっており、そこにぽっこりと穴が開いている。これは、彼の作品アーカイブを見ると、アーティスト活動を始めた初期の頃、80年代に多く作られている作品で、白のほか、原色の赤、シアン、イエロー、黒などの顔料も使用されている。

 この作品を見て、日本の「香道」を思い出した。香道では、灰手前といって、聞香をする際に小さな灰の山を作り、そこに炭団をくべて香を聞くのだが、精神統一をして心を空にしていないとなかなか美しい灰の山は作れない。

 ところ変わって、インドでは顔料や砂を用いて曼荼羅(まんだら)を描く。思いの対象は違えど、1つの非常に繊細な所作を通して、自身の内側へ入っていく、その根底にある気持ちは変わらないのではないだろうか。

 この作品も、非常に繊細な粒子を用いて緊張感のある造形を形作る。どんな思いで作られたのかは想像するしかないが、このシンプルなかたちの中には「祈り」の気持ちがあるように感じられた。

 展示室の全景。写真左と奥の作品が、今回の展覧会で初めてお披露目となった新作である。左の作品「Untitled」は、三角形でできたステンレススチールを幾何学状に並べて円形にした作品。遠くから見ても迫力のある彫刻だが、ぜひいろいろな場所に立って作品を眺めていただきたい。

 目の前に立って動いてみるとよく分かるが、球面に敷き詰められた三角形の鏡は、1枚1枚が違う風景を写し出す。作品の前を横切ったり、近づいたり離れたり、いろんな動き方をしてみてほしい。作品はその度に表情を変えるし、新しい視覚体験が味わえる。酔いやすい人は注意が必要かもしれない。

 奥の作品「Untitled」も新作だ。これは石川県の「戸室石」で作られており、重さは3トン。そして、この美しい朱塗りは、同じく石川県の職人によるものだ。つるんとした漆塗りの肌は、触れたくなる艶やかさと、触ったらそのまま吸い込まれて、どこか違った世界へ行ってしまうような、なんだか危険な匂いも感じる。

 手前のアクリル作品「Untitled」は2007年に制作されたもの。一点の濁りもないアクリルの円柱の中にまるで内臓のような気泡が閉じこめられている。これも見る角度によって中にあるものの形が変わるし、このアクリルを通してその奥にある漆やステンレスの作品を見るとまた違った作品に見えてくる。

 もちろん、作品を見て宇宙を感じてもいいし、日々の自省の念に浸ってもいい。だが、ひとまずはあんまりいろいろと考えずに作品を体験してみてほしい。ただ作品の前に行くだけで、胃のあたりがぞわぞわっとするちょっと不思議な視覚体験ができるだろう。6月19日まで。

●アニッシュ・カプーア展

開催中~6月19日(土)

SCAI THE BATHHOUSE 東京都台東区谷中6-1-23柏湯跡

Open.12:00~19:00、日月祝休

【上條桂子,エキサイトイズム】
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