日本・デンマーク外交関係樹立150周年記念
スケーエン 〜デンマークの芸術家村

国立西洋美術館 新館展示室

会期:   2017.2.10(金)〜5.28(日)

※常設展、もしくはシャセリオー展のチケットで入場することができます。

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今年は、日本とデンマークが外交関係樹立150周年記念の年です。

デンマーク大使館のページを拝見すると、今回の展覧会を含めて、色々なイベントが開催されているようですね。



ところで、5月に初めてのデンマーク旅行を控えている私ですが、なんとなく忙しさに追われて、デンマークについてのリサーチ不足気味。あせる

スケーエンって、地図で見るとどの辺りにある街なんだろう?

・・という極めて初歩的なところからスタートしました。

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Googleマップで調べると、
本当にデンマークの最北端
ユトランド半島の突先にありますね。

海をはさんで、向かい側には、スウェーデンのイエテボリがみえます。

デンマークの首都のコペンハーゲンは、地図の右端。
北欧最大級の都市コペンハーゲンとスウェーデンのマルメとは、鉄道車道併設の橋&トンネルで繋がっています。
(ちなみに、今回の旅行では、コペンハーゲンとオーデンセを訪れます。残念ながらスケーエンには行きません。)


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少し広域で表示しました。

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ヨーロッパ全体から見ると、
デンマークは、ここなのですね。

さて、デンマークの地理が、多少なりともつかめたところで、スケーエン展についてです。

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デンマーク最北端の地、スケーエンは、バルト海と北海の2つの海にはさまれた半島の突端にある漁村です。

青い海と白い砂浜、潮の香り、広漠とした自然は、19世紀の後半以降、多くの芸術家達を魅了しました。波

スケーエンは、19世紀末から20世紀初頭にかけて、北欧の国々から画家や詩人、作曲家などが集まる国際的な芸術家村として知られるようになりました。

スケーエンを制作の拠点とした画家達は、
自然主義の立場で、漁師達の労働や海辺の風景、素朴な村人達の生活を描きました。
自然と人間の本質を追求した彼らはスケーエン派とよばれています。

今回の展覧会は、外交樹立150周年を祝う事業として、スケーエン美術館に所蔵されているスケーエン派の絵画が展示されています。

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スケーエン派の画家達と芸術家コロニーの活動において、重要な役割を果たしたのが、ブロンドゥム・ホテルです。

当時は、ブロンドゥム・ゲストハウスという下宿でした。
寝所と食事を必要とするスケーエン来訪者のほとんどが、このブロンドゥム・ゲストハウスに滞在したそうです。

あのアンデルセンも、1859年8月にスケーエンを訪れ、ここブロンドゥム・ゲストハウスに滞在しています。

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ブロンドゥム・ホテルの食堂での集い(1890年代)

ブロンドゥム・ゲストハウスは、1891年に大改築を経て、ホテルになり、現在に至っています。 

古い街並みの一角に立つ赤レンガ造りの建物のホテルです。
ホテルで使用される食器は、すべてロイヤル・コペンハーゲンのものだそう。

いつか行ってみたいです。


波波波

スケーエン派の絵は、漁師達の日常や、荒れる海での危険な救助活動を描いた英雄的なものや、風景、村人たちの室内での生活を主な題材としています。

スケーエン派の絵画の特徴として、
描かれている人々と、絵を見る側とは、決して目が合わないのです
絵の中の人々は、彼らの世界の中で真摯に生きる姿がありのままに、自然に描かれていました。

波波

心に残った作品をいくつかご紹介します。
(図録から写真を撮りました)

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ペーター・セヴェリン・クロヤー『浜辺の白いボート、明るい夏の夕べ』

青い時 (the  blue hour) 」と呼ばれる、
夕暮れの光が静かに視界を覆い、物の輪郭が青い色調の中に溶けていく時間帯を描いた作品

図録ではわかりにくいのですが、ぽつぽつと灯り始めた明かりが、青い色調で包み込まれたような風景に浮かび上がっています。

画面左の家に帰ろうとする母子の姿に、自分の子供時代のお稽古事の帰り道を思い出して、懐かしく感じました。



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ミカエル・アンカー『海辺の散歩』

ミカエル・アンカーの作品は、厳しい自然と闘う漁師達の姿を描いたものが多かったのですが、その中で、富裕層の海岸散策を描いた作品もありました。

興味深いのは、裕福な市民は、決して漁師達と同じ画面に描かれることがない、ということ。
彼らは別々の世界を生きていたからだそうです。

輝くばかりの明るい色調で描かれた女性達は、明るい海の青、白い砂浜の中で浮かび上がり、非常に美しかったです。




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アンナ・アンカー『明かりのついたランプの前の若い娘』

灯りを点したランプの光、鉢植えの花々。背を向けた若い女性。
黄昏時、静かで瞑想的な雰囲気の絵。
光の描き方、表現が印象的で引きつけられました。

作者のアンナ・アンカーは、上記のブロンドゥム・ゲストハウスを営むブロンドゥム家の娘で、ミカエル・アンカーの妻となりました。



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ペーター・セヴェリン・クロヤー『ばら』

P.S.クロヤーの代表作。
モネを思わせるような構図の絵です。
光の描写は、フランスの印象派と類似していますが、白い薔薇の枝から漏れる眩しい光と爽やかな緑がとても美しい作品です。

この薔薇は、「アルマ・マキシマ」という品種で、今日、スケーエン美術館の庭園でも鑑賞することができるのだそうです。

波波波

偶然、ではないと思うのですが、心に残った絵は、どれも光を描いた作品でした
スケーエン派の画家達は、フランス印象派の画家と同じように、光を描くことに長けていたようです。


今回の展示されているスケーエン派の作品ですが、スケーエン派の画家達が使用した白い絵の具が非常にもろくて繊細なので、今後、デンマーク国外に貸し出される予定はないそうです。

ということで、とても貴重な展覧会です。



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図録を購入しました。
表紙の海の絵の装丁がとても素敵。波

ミカエル・アンカーの『スケーエンの南海岸、9月のある日』という絵が表紙を飾っています。




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【スケーエン展を見終えての感想】

自然主義、というと、真っ先に文学が浮かびます。

自然主義文学は、客観的かつ写実的で細やかな描写が特徴ですが、多くは悲劇的な結末で、読む者の心に重くのしかかります。

けれども、その深刻なストーリーよりも、むしろ美しい情景の描写や細部が印象的だったりしますよね。

この展覧会も、美しい海辺の景色や、人々の素朴な生活を見て、素直に、美しく懐かしいと感じれば、それでいいのではと思いました。

大自然の前には、人間の喜怒哀楽などちっぽけなものかもしれません。波

そして、この展覧会全体に感じるノスタルジー。
ゲゼルシャフト(利益社会)に生きる私たちが、懐かしくて郷愁を感じる前近代的なゲマインシャフト(共同生活)がそこにありました。

素朴に真摯に生きる人々の姿にノスタルジーを感じる展覧会、それが、今回のスケーエン展の見どころだと思います。波