サービスと能率について
テーマ:ラテンアメリカ日本に戻るたびに驚くのは、日本でのいろいろな面におけるサービスの良さです。「早い」、「待たせない」、「正確」、「予定が立つ時間管理」等々、日本のサービスの良さは恐らく世界一でしょう。アメリカでも欧州でも日本ほどのサービスは提供できていないと思います。ましてや、日本のレベルから比べるとラテンアメリカにはサービスなどというものが存在するのかと思ってしまいます。そして、サービスを受ける方はありがたいが、サービスの良さを競って顧客を獲得する企業や商店は大変だろうと思います。ここまでやらんでもええのに、と思うこともしばしばです。
日本に戻る途中のヒューストン空港でのこと。空港内のスターバックス・コーヒーの店で女性店員が店員同志はスペイン語で会話していたので、いわゆるヒスパニック系なのでしょうが、コーヒーを買う客に対しては訛りのある英語で受け答えしていましたが、これが恐ろしく動作が速く、能率が良いのです。リカルドおじさんは、コーヒーともうひとつクッキーのようなものを買って$4.96でしたが、10ドル紙幣を出して、更に片手にいっぱいのコインを出すと、即座に意図を理解し、コインの中から正確に96セントを取り出し、おつりを6ドルくれました。その素早かったこと。
これがニカラグアのスーパーやコンビニだとどうなるか。まず店員は自分達の会話に夢中で、客は後回し。一度、マナグアのコンビニでこういうことがあった。
リカルド:カフェ・オレとクロワッサンをお願い。
店員:(それまでぺちゃくちゃ仲間と話していたが、ようやくこちらを向いて)マルボーロですか?
リカルド:あのなぁ、誰がそんなことゆうた?!何聞いてんねん!
そしてレシートをもって隣のコーヒーを作ってくれるカウンターに移動。カウンター前にリカルドおじさんが立っているのが店員全員に見えているのに、誰もアテンドしてくれない。自分はコーヒー・カウンターの担当ではないと思っているのでしょう。誰もアテンドしてくれる気配がないので、とうとう叫んでしまいました。「このカウンターの責任者は誰や?!」 怒鳴られると店員がひとりすっ飛んで来ました。
こういうサービスの悪さは、ラテンアメリカに住んだ日本人なら全員が経験しているはずです。しかし、前述のヒューストン空港での経験を見ると、能率が悪いとかサービスが悪いというのは、決してラテンアメリカ人のDNAにインプットされているのではなく、環境なんだと思います。ラテンアメリカ人でも、能率が必要とされる環境に置かれれば、能率よく働くのです。
そこでやはり、経済発展の話になってしまいます。良し悪しは別にして、経済発展と能率・効率が表裏一体であることは否定できません。能率・効率とは要するに時間の管理です。ラテンアメリカ人でも企業経営のトップなどには秘書がいて、来週何日の何時頃の予定はと尋ねるとだいたいその予定が分かりますが、一般の人に来週何日の予定は?と尋ねても、日本人のように手帳を出す奴などまずいません。明日の予定も分からんのに、何で来週の予定が分かるものかという程度の時間管理、つまり管理などしていないのがほとんどです。効率・能率を突き詰めると、逆に人間の方が時間に管理されてしまうという側面は確かにあるけれど、ある一定の水準で時間管理意識がないと、あるいは時間管理の文化がないと、経済発展のための離陸は難しいであろうと思います。
シドニー・ミンツという文化人類学者に「甘さと権力」(Sweetness and Power)という著作があります。これは主にカリブ海地域のサトウキビ産業の歴史やそれにまつわる文化、社会を扱ったものですが、それによればかつてラテンアメリカではサトウキビ産業地域に時間管理の意識が生まれる下地、従って経済発展の基盤になる意識が生まれる可能性があったと述べています。サトウキビはその糖度を高く保つために刈り取りのタイミング、また刈り取った後、糖度が落ちないうちに搾汁しなければならず、工程をかなり高度に時間管理しなければならない産業だそうで、ここに資本主義発展の芽があったようですが、いろいろな理由でサトウキビ産業自体が衰退してしまいました。
日本ですが、最近は「そこまでやるか」というようなサービス競争です。例えば、空港のチェックイン・カウンターに置いてあるパソコン画面で乗客がピッピッと画面に触れて入力する装置がありますが(日本だけでなく、外国の空港にもありますが)、あんなのは見ていると結局、係員が乗客の代わりにやってやっている光景ばかりです。リカルドおじさんなどは、使い方が分からないので、昔のように最初から対面する係員がやってくれる方がよほどサービスがいいと思いますけどね。
「カフェ・オレとクロワッサン」と注文して「マルボーロですか?」と問い返されるサービスも疲れるが、パソコンで本人があれこれやらないといけないサービスも疲れますなぁ。
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