冷たいコンクリートの上に倒れている俊憲は重い体を立ち上がらせ、モニターを見つめる。
その視線は全員を睨んでいるかのようにも見える。

「俺を侮るな!」

自分より若い祐作に得意の拳闘で負け、プライドを深く傷付けられ憤慨する。
モニター画面の下にある赤いボタンを強く、乱暴に押す。

「無様に死ぬがいい・・・・・」


エリア内全体に、震度7強ほどの揺れが襲う。
地盤が崩れ、天井から瓦礫が雨のように無数に降り注ぐ。

祐作たちは素早く通常道に入り込むべく、走っていた。
しかし途中、ホノカが立ち止まる。

「本当に・・・・・・大丈夫なの? 先生」


ホノカの命の恩人である高校時代の先生、古瀬京助を心配する。
それは先ほどのことである。

京助は暫の居る森林道で食い止めていた。
最初は全員反対した、だが京助は折れず、強く言う。

「俺はこの世に未練なんてない! 最高の人生だった!
 お前らはこんな血臭いところで死ぬわけにはいかないんだ! 早く行け!」

その強い意志に、祐作は歩き出す。

「祐!」

「俺らが止めるところじゃない、あの人の意思は強すぎる
 信じよう、必ず生還することを」
 
「・・・・・・・」

ホノカの口から言葉が出なかった、出せなかった。
亮もそれに賛成し、祐と行く。ホノカも重い足を動かせ、行く。

「絶対に・・・・・戻ってきてください」


全員は通常道の、祐作が居た部屋の前で止まる。
この通常道は実はまだ全部の部屋を回っていないのである。

つまり(あくまで感であるが)、この通常道全部のどこかの部屋に出口があるのかもしれない。
大会の参加者がここを入ってきた出入り口を全員は手分けして探し出す。

祐作はエリア1、亮はエリア2、ホノカはエリア3を担当する。
細かな作業であるが、生還するためにはこれを成し遂げないといけなかった。
刻々と迫る、時間、いつこの全エリアが崩れるかもしれない恐怖に耐え、実行する。


日本刀と鉈が再び悲鳴を高々と上げる。
一般人なら一度は聴いた事があるであろう黒板を爪で引っかく音。
通常なら反射的に鳥肌が立つ、だが彼らにはそんな余裕すらなかった。

「(こいつ・・・・・本当に人間か)」

身は生々しい傷で埋まり、肌色は濁った赤色で染まっていた。
白目を向き、言葉一つ発さない(これは元々であるが)。

一瞬、昔見たB級ゾンビ映画を思いだす。
今の状況は、主人公がボスゾンビを倒し、ヒロインを助け出すシーンである。
主人公の勇ましい姿、かっこよかった。

「(世の中そんな甘くなんてねぇーか)」

もしこいつが不死身だとしても、それはあり得ないことである。
そんな人間なんていない、脳や心臓を突けば死ぬであろう。

「(久々に、暴れるかな)」

京助は鉈を強く握り締め、暫の背後へ向かう。
しかし、そう簡単なことではない。下手をすれば自分が背後に回られてしまう。

地面を蹴り上げ、暫の元へ急接近する。しかし暫も手を緩めず日本刀を構える。
京助は暫に近づいたところで、足をかける。

「!!」

暫は大きく地面に倒れこむ。京助は颯爽と立ち上がり、暫に鉈を向ける。

「くたばれゾンビ野朗!」

その瞬間だった。

一瞬何が起こったかわからなかった。自分の腹部に冷たい刃が刺さっていた。
そこから夥しいほど流血しだした。

京助はその場に倒れこんだと同時に、暫が立ち上がる。
京助を持ち上げ、首に日本刀の刃を当てる。

首から血が滲み出し、京助は決行した。腹部に鉈を力強く刺し込む。

「ぐうっ!!」

苦痛の声を上げながらも、鉈は京助の体を貫通させ、暫の体へと突き刺さる。

「がぁぁぁぁぁぁぁ!!」

唇の間から泡と血の混じったものを噴き出す。
京助は最後の力を振り絞り、暫を大木へと無理やり押す。これは暫を動けなくするためであった。
暫は茂垣(もがき)ながら日本刀を振り回し、京助に傷をつくる。しかし負けずと強く鉈を押し込む。

暫は衰弱し始め、ついには動かなくなった。死んだのである。
恐ろしいほどの執念と、気合いで動いていたとしか考えられない。

京助の視野が狭ばっていく。死を覚悟していた。
妻と出会い、子供に恵まれなく、悲しかった。ホノカは実の娘のように、思えたこともあった。
最高の人生だった、悔いなんてなかった。

「こんな死に様も・・・・・・かっこいいのかな」

京助は誰もいない森林道でそうぼやき、息絶えた。



祐作たちは懸命に出口を探す。

30分程時間が過ぎるも、一向にそれらしきものが見つからなかった。
祐作は探し終え、自分が居た部屋の扉の前で座り込む。

「どこにあるん・・・・・・あ」

脳裏に浮かんだのはエリア4、まだちゃんと探していないエリアである。
祐作は独り、エリア4へと向かう。

亮はエリア2の最後の扉を開けようとしていた。心で出口があってくれと、願うばかりであった。
そして扉は開かれ、瞳に映ったのは金色の扉だった。

「あっ! あったー!」

独りドアノブを回すものの、鍵がかかっていた。
亮はエリア3にいるホノカへ伝えるべく、向かう。