クィア理論入門連続講座@東大 第1回について思うこと | Daily Rero

クィア理論入門連続講座@東大 第1回について思うこと

 去る11月10日(水)、東京大学駒場キャンパスで行われた「<クィア理論入門連続講座>クィアって何?」第1回に顔を出してきた。
 この講座について、詳しくはこちらを参照願いたい。http://d.hatena.ne.jp/tummygirl/20101105/1288964871
 また、今後の予定はhttp://d.hatena.ne.jp/tummygirl/20101111/1289482026に掲載されている。

 講座開始前に、今回の連続講座のコーディネーターの1人である、東京大学大学院総合文化研究科清水晶子准教授(専門はクィア理論)から趣旨説明があり、これが非常に面白かった。
 今回の連続講座は、清水准教授と津田塾大学専任講師のクレア・マリィさんとが手を組み、「クィア性」と「教育」は両立しうるか、しうるとすればどのような形でか、といったことを研究しているプロジェクトの一環として行われるもの。
 特定のゼミで教えるだけでもなく、大学生・大学院生だけに教えるのでもなく、社会人や高校生にもクィア・スタディーズを教えられるかという一つの試みである。しかしそもそも「一方的に知識を伝達する」教育は、「クィア」という概念とは馴染みにくい。では、反クィア的にならない方法でクィア・スタディーズの視座を伝えるにはどうすれば良いのか。そのような方法は果たしてあるのか。それを探るための実験の場として、今回の講座が設けられたようだ。
 講座の講師は、東京大学大学院総合文化研究科博士後期課程の川坂和義さん。何かあった時のサポート役として清水准教授も同じ教室内にいらっしゃる。

 授業自体は、まず、「全くクィア・スタディーズに触れたことが無い高校生や社会人には絶対についていけないだろうと思うぐらい、入門講座にしては難しいものになってしまっているな」という印象。そして、「ああ、クィアという概念・視座を一から伝えるのはこんなにも大変なことなのか」ということを痛切に思い知らされた。また、それと同時に個人的にはクィア・スタディーズのスリリングさ、学問としての快楽を伴った面白さも、久々に味わうことになった。
 今回、第1回でオーディエンスのレベルや背景がわからなかったということもあって、川坂さんは「わからないことがあればいつでも手を挙げて質問してください」と逐次質問を受け付ける形式をおとりになった。そのため本当に様々な質問が次々と出てきて、それに逐一丁寧にお答えになっていたため、講義の流れが質問で遮られてしまうことになり、講義全体としてのまとまりは少し欠いたかなという印象がある。さらに、質問のレベルは総じて高く、例えばもしもオーディエンスの中にそもそも「ヘテロ規範」「性差」「性自認」といった言葉の正確な意味を知らずそれを知りたいと思った人がいたとしても、そうしたレベルの質問はしづらい雰囲気になってしまった。
 結局、クィア云々の前にまずその前提知識としてのジェンダー・セクシュアリティという概念・視点を伝えるだけでもとても大変なことなのだ。大学のジェンダー論の授業であればそのために数回の授業数を割くであろうし、丸一冊ジェンダー・セクシュアリティについて説明した入門書(加藤秀一 (2006) 『ジェンダー入門』朝日新聞社. 等)もあるぐらいなのだから。それを、知識ゼロの人もいるかもしれないという前提で、ジェンダー・セクシュアリティ概念について伝えてさらにそこからクィアという概念についても解説し、クィア・スタディーズの歴史の初めの方も見るというところまで1時間半で持っていくのは、やっぱりちょっと難しかったんじゃないかと思う。
 そして、当然と言えば当然だが、クィア概念を概説するところでは非常にハイコンテクストな説明が為された。それが私が久々にクィア・スタディーズにスリリングな学問的快楽を見出せた理由でもあったのだが、と同時にハイコンテクストな議論に慣れていない人にとってはとてもわかりにくかったのかもしれないなとも思った。

 それから、個人的には授業自体よりも良い経験になったかもしれないなと思うのが、授業後の検討会への参加。これは、いろんな立場から参加した参加者達が講師とコーディネーターに授業の内容や進行等についてフィードバックしていき、それに対する応答や議論を重ねていく中で今後の授業の在り方について考えるもの。そもそものプロジェクト全体の趣旨を考えたら、むしろこちらの方がメインであるとも言える。
 なんというか、学部1年生が大学の授業の組み立てに関われることなんてそうそうない。これは大学の世紀の授業ではなくあくまでも実験授業の一だが、それにせよ大学という場で行われる講座の創造過程に自分が少しでも参入したり影響を与えたりできるというのは不思議なそして面白い体験だった。また他の参加者や講師、コーディネーターの、今さっきまさに行われた授業に対する感想や意見が聞けるというのもなかなか無い経験で、貴重だった。

 この第1回全体を通して一番印象的だったのは、クィア・スタディーズを専門とする/していた大学院生や社会人の参加がとても多い、というかむしろほとんどそうした人達で会場が埋まっていたというオーディエンス構成の現実だ。質問のレベルが高かったのも、ハイコンテクストな説明に対して「わからない」という声が出なかったのも、ここに起因する。
 でも、本当はこれではあまり「特定のゼミで教えるだけでもなく、大学生・大学院生だけに教えるのでもなく、社会人や高校生にもクィア・スタディーズを教えられるかという一つの試み」として機能していない。清水准教授は、この授業の « メイン »ターゲットは平均的な学部1年生を想定していると言っていた。私が知り得る限り、1回目に「平均的な学部1年生」はほとんど来ていなかったと思う。
 まあそれで何が言いたいかと言えば、是非この文章を読んでくれているみなさんにもこの講座に参加してほしいなということだ。この講座の回し者ではないが、要は広報がしたくてこの記事を書いたみたいなところがある(笑)。特に学部生や高度な議論についていく意欲がある高校生に来てほしい。恐らく私の周りにはそうした人がいっぱいいると思うのだ。講座の趣旨としても、学部生や高校生が参加することには大きな意味があると思うし、何より個人的にもクィアについてあまり知らない学部生や高校生がこの講座に参加したらどんな感想を持つのか、その中でどんな質問をしてくれるのか、といったことにとても興味がある。

 とりあえず第2回は今日11月24日(水)なのだが、第3回は12月8日(水)にある。第4回は12月22日(水)、第5回は1月12日(水)、第6回は1月26日(水)に行われる。毎回19 :30~21 :00に東京大学駒場キャンパス18号館内18号館ホールでの開催だ。一回毎の単発参加でも何の問題も無いので、是非参加してみてほしい。