またアイツだ。きっとそうだ。
朝、窓を開けると屋根をうろうろ、臭いをたどっているぎんちゃんがいた。
(何してるの?)
ベランダにいるはずの赤ちゃんの姿が見えない。
(もしかしてアイツに捕られたのかな・?
でも隅に隠れてるのかも・・・。)
しばらくしてぎんちゃんが見えなくなり、またカサっという音。
覗いてみると、アイツがベランダまで侵入して赤ちゃんの後ろ足を
もてあそぶようにくわえていた。
「こらっ!」
思わず声を出すと、慌てて飛んでいった。
(危ないな・・・。)
そんな考えが頭をよぎったけど、数分後には現実のものとなってしまった。
朝食を食べてる最中に、赤ちゃんのかん高い声ー。
(ぎんちゃん、帰ってきたかな・・・。)
かじりかけのバナナを左手に窓まで歩く。
外の光景は真っ白な毛がやっとふさふさになっている赤ちゃんの
宙に浮いている姿だった。
屋根の瓦と、カラスと、首根っこをくわえられ、懸命に鳴いている赤ちゃん。
悲鳴はカラスとともに遠くなった。
息をのみ、バナナを放り出して、はじかれたように玄関を出た。
玄関には朝ごはんを待っている何も知らないぎんちゃんがいた。
(赤ちゃんが大変だよ!)
鳴き声のするほうへ走る。パジャマも紫外線もシカトして、空を仰ぐ。
一戸建ての家が並ぶ、どこかの屋根から赤ちゃんの悲鳴が聞こえる。
あたり一面に「助けて!!お母さん!!」って叫んでる。
見たくなかった。聞きたくなかった。
悲鳴が聞こえるのに何も出来なかった。
赤ちゃんの最後の声を、ただもどかしく感じることしかできない。
どうせなら、苦しめないで。
いとも簡単に、静寂が朝日を包んだ。何ごともなかったような朝の町。
立ち尽くす頬に涙が溢れた。
動くことができなかった。