バレンタイン・ケーキ 2 | ひより軒・恋愛茶漬け

バレンタイン・ケーキ 2

「バレンタイン・ケーキ 2 」


― ピンポーン。

玄関のチャイムが鳴った。
ナツミができ上がったチョコレートケーキを
冷蔵庫に入れてから1時間がたっている。

「こんにちは。少し早めに来ちゃった。」
ドアをあけると、
高校のクラスメートのエツコが笑顔で立っていた。
たぶん今日のデートために買ったのだろう。
ふわふわした白いコートが
エツコの華奢な身体を優しく包んでいる。
ピンクのグロスのきいた唇も
いつもよりずっと可憐で可愛く見える。

ダレダッテ オンナノコ ラシク
ナリタイ ヒ。 ダモン。ネ。

「いらっしゃい。ケーキできてるよ。」
エツコを台所に案内しながら
ナツミは廊下の鏡をチラッとのぞく。

ワタシハ フツウ ノ カオ シテル?

友達のエツコと
付き合いだしたばかりのカレシが
トオルだとナツミが聞いたのは
バレンタイン・ケーキを料理音痴のエツコの代わりに
作ってあげると約束してしまった後だった。

女子高に進んだナツミと都立の進学高校に進んだトオル。
2人とも別々の学校にはなったが
電車通学で利用する駅が同じなので
月に1度か2度は帰宅途中に駅で偶然会い
一緒に話をしながら家に帰った。

ナツミがトオルを異性として意識しだしたのは
早くも2度目の遭遇の時からだった。
幼なじみの気安さから
くだけた感じで話かけてくるトオルは
気がつけばとっくにナツミの知っている
幼いトオルではなくなっている。
その広い肩幅も
そのかすれた低い声も
見上げるようにしなければうかがえない横顔も
ナツミの胸をドキドキさせるには十分だった。

「ナツミちゃんも一応、ジョシコーセーだから
僕が家まで無事にお送りしましょうね。」
「なによ。一応って失礼ね。」
「だって、ナツミちゃんは
空手をたしなんでいらっしゃるから
僕が守って欲しいぐらいだし。」
「嫌なやつ。それって小学校の1、2年の時じゃない。」
「あれ、じゃあ、柔道だったっけ。」
「それは4年。」
「じゃあ…」
「剣道は5年で合気道は6年。」
「すごい…。ナツミ姫は格闘家と結婚すると良いよ。
そうしたら夫婦喧嘩でカネ取れるし。」

ムシンケイナ ヤツ ヒトノ キモ シラナイデ。

ナツミの両親が一人娘の安全を気にして
あらゆる武道系のものを習わせたこと、
そしていずれも長続きせずに止めてしまったことは
幼なじみのトオルだからこそ知っていることだった。

からかうように笑っているトオルの背中を
ナツミはわざとらしくフクレッツラを作って
学生かばんでたたく。
もちろんトオルも学生かばんで応戦してくる。
たたいたり笑ったり。
お互いの家の前に着く頃には
ふざけすぎて息を切らせながら
小学生のようにアカンベーと舌をだして別れるのだった。

こんな他愛もない関係でナツミは満足していた。
告白なんて今更、絶対にできないと思っていた。
こんな友達関係が続けばいつかトオルも
自分に恋愛感情を抱いてくれるかもしれない。
家が近いということは運命的なことだと思っていた。
トオルが告白してくれるその日を
気長に待つつもりだった。


「すごい。ナツミってお菓子作りも上手なんだね。
これ、本当にもらって良いの?」
「いいよ。でも、トオル君は私の幼なじみなんだから
絶対に私が作ったこと秘密にしてね。
へんに誤解されたくないし。」
「わかってる。友達にバレンタインのケーキを
作ってもらったなんてカッコ悪くて言えないよ。」

エツコは大きなチョコレートケーキを
キレイな箱に入れてもらうと
大事そうに胸元に抱えた。
しかしエツコを笑顔で玄関まで送り出すナツミの胸元には
冷たい氷の塊が
ぎっしりと詰まっているかのようだった。

タメイキも凍るような冷たい空気の中で
一生懸命に叫ぼうとし
かえって喉の奥まで凍らせてしまって
喘いでいるような息苦しさだった。

ワタシハ シット シテイル

ドアの向こうで
何度も振り返って手を振り、
去っていくエツコを黙って見送りながら
嫉妬ってホントは冷たいものなんだ、と
その時初めてナツミは思った。


        ― つづく ―




インフルエンザが流行っていますね。
やっと冬休みが終わったのに
息子が学級閉鎖で家にいるなんて計算外でした。

本が読みたいのに、朝からゲームのピコピコ音…。
DVDがみたいのに、
気がついたらドラクエの攻略本が私の手に。
ドラクエのセリフの漢字にカナ振ってください。
親がみんな読まされます。
仕方がないので女優気分で読んでいますが…。