REMOVE 彼女が手にしているのは「ヴィオラ・ダ・ガンバ」という楽器である。”人の声”が理想だったルネッサンス、そしてバロック時代の貴族の愛器だ。

ルネッサンスの舞曲を演奏する時には必要な楽器。


この頃、ドイツには高名な楽器職人「ヨアヒム・ティールケ」がいた。ヨーロッパの美術館にも展示されている、ヨアヒム・ティールケの作品 は、この絵のヴィオラ・ダ・ガンバよりも優美で装飾性が華やかである。


特に「ヴィオラ・ダ・ガンバのハンドルヘッド 」は女神を想像させる。一時衰退したヴィオラ・ダ・ガンバは、19世紀~20世紀初めに復活し、このヘッドには一角獣などの獣頭も施されているものがある。


オランダの画家、ハブリエル・メツー(Gabriel Metsu 1629-1667)の作品からは、この部分の装飾が描かれていないようだ。ヨアヒム・ティールケは、1641年生-1719年没だから、彼の製作するヴィオラ・ダ・ガンバだと想像したい。その名器を持つ女性の表情が不思議である。何かにハッと気がついたような表情。足元には、たぶんパピヨンと思われる子犬。パピヨンは、エルミタージュ美術館所蔵されている、メツー晩年の作品「往診 The Doctor's Visit 」にも、女性の足元にも描かれている。


オランダでは、「寓意的風俗画」がよく描かれている。ベッドをはじめ、動物(犬、オウム)は性的なものをあらわし、花は繁栄(裸の真実 ではタンポポが生命力を表現)、髑髏は儚さ(マグダラのマリア など)の意を含む。


ピカソやマネの時代には黒猫がよく描かれているが、この猫の尾や片足の靴なども性的表現のひとつである。


さて、ハブリエル・メツーだが、38歳で夭折しているが、レンブラントと同世代であるが、このハブリエル・メツーの最高傑作は、セットで描かれた「手紙を書く男」と「手紙を読む女」ではないか。



REMOVE 開かれた窓の扉からみえる地球儀。バロック調の絵画に、市松模様のような床の部屋。裕福な中流市民である若い男性である。


このゆったりとした寛ぎのなかで、男性は手紙を書いている。穏やかなまなざしの表情を察すると、相手に対する愛情のこもった内容であることをうかがえる。

「Man Writing a Letter」


Gabriel Metsu 1662-65


National Gallery of Ireland, Dublin





この「手紙を書く男」は、「A Woman Seated at a Table and a Man Tuning a ViolinNational Gallery, London )」のテーブルの向き、窓の位置、テーブルにかけられたクロスが非常によく似ている。

1660年に描かれた「The Letter Writer Surprised 」では、女性が机で手紙を書いているのだが、次の「手紙を読む女」のコスチュームが非常に似ている。


この時代の画家は何度も同じ登場人物を他の作品にも登場させているのだろうか。フェルメールもそうだし。


REMOVE 召使がカーテンを開け、絵を見ている。手紙をもらった女性は熱心に読んでいる。足元には子犬。「ヴィオラ・ダ・ガンバを弾く女」でも同様の犬が描かれている。16世紀からヨーロッパ宮廷貴族たちに愛玩されたパピヨンという子犬は、肖像画の時代には、「小さなスパニエル犬」とよばれていた。フランス革命後は、スピッツやチワワ、マルチーズがよく登場する。マリー・アントワネットにも愛されたパピヨンは、革命後に「ヴィオラ・ダ・ガンバ」と同様に、市民に葬られる。


「Woman Reading a Letter」


Gabriel Metsu 1662-65


National Gallery of Ireland, Dublin




ハブリエル・メツーが描いたこの作品の右側にいる召使を、フェルメールは現在アイルランド国立美術館所蔵の「手紙を書く女と召使」(1670)の作品に見事にコピーしている。


個人的に、レンブラントやフェルメールよりも、ハブリエル・メツーが好きである。というより、光と影のレンブラントやフェルメールの技法、技巧には納得するものの、あまり興味をそそられるものがないのだ。示唆しているものへの関心が、まだ稚拙な僕には理解できないからだろう。





REMOVE

Gabriel Metsu(1629-1667)Man and Woman Sitting at the Virginal 1658
ヴァージナルの前に座る男女 写真画像なのでやや暗いかも


この作品はフェルメールの英国王室コレクションである「音楽のレッスン」(1662)よりはやく描かれている。フェルメールがこの作品からインスピレーションを得たのは確かだとご存知の方が多いと思う。床においてある白い陶器の瓶はフェルメールの「音楽のレッスン」でテーブルに描かれている。


このヴァージナルはラッカース・ファミリーの制作のよるもので、現存しているものが多い。アンドレア・ラッカース(親もしくは子)の制作したものかと思われる。


フェルメールのヴァージナルの蓋に書かれている言葉とは違う。



REMOVE-Le déjeuner de harengs

Le déjeuner de harengs 1659 Gabriel Metsu Musée du Louvre

このハブリエル・メツーの静物画に描かれている中央の白磁器の瓶が、メツーの「ヴァージナルの前に座る男女」とフェルメールの「音楽のレッスン」に描かれているものではないかと思った。


この静物画より先にメツーは「ヴァージナルの前に座る男女」に描いている。




ハブリエル・メツーの作品

「死んだ雄鶏」 プラド美術館

僕的に、物体の質感が写真より感じられる作品で、子供の頃に覗いた美術書をパタンと閉めたくらいにリアル。


「料理する女」 アルテ・ピナコテー美術館

ここには死んだ小豚がつられている。さきの「死んだ雄鶏」同様に、料理されるのを待っている。現代の女性なら卒倒するようなこの時代の料理風景。


「宴」 アルテ・ピナコテー美術館

子供の頃は知らなかった。食卓を囲んだ普通の市民が王冠をかぶっている。とても不思議だった。だが、ようやくわかった。そうそう、「ガレット・デ・ロア Galette des Rois」だ。テーブルには、「王様の菓子」らしきものがある。12月上旬から約1か月間クリスマスを祝う。主顕節、公現節である「エピファニー(キリスト誕生を東方の三賢者が祝福に訪れた日)」に食べるケーキだ。金の紙で作った王冠が添えられ、ケーキの中には、古代ギリシャで王を選ぶ際使われていた「フェーブ(そら豆の意)」とよばれる小さな人形が入っている。それがあたった人が、その日の王様になれるというわけだ。ただし柊や樅が飾られていないところを見ると、階級の差か。



ハブリエル・メツー 作品リンク先

Hermitage Museum


メトロポリタン美術館

A Musical Party 」 1659

The Visit to the Nursery ,」 1661

Woman Seated at a Window, probably ca .」 1661


Gabriel Metsu at the Rijksmuseum, Amsterdam


National Gallery of Art, Washington, The Intruder, c. 1660


Museum of Fine Arts, Boston,Usurer with a Tearful Woman


ルーブル美術館

「The Greens Market (or Vegetable Market) in Amsterdam 」ほか


The Wallace Collection, London, UK

切手「手紙を読む女」 / 切手「手紙を書く男」


ちなみに日本は鎖国の時代がはじまり、ハブリエル・メツーと新井白石とほぼ同世代。狩野探幽1(602~1674)から江戸狩野派が発展するときでもあった。

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