国家を解体する国際協定TPP

 

 比較優位説の描く世界観は、アメリカがデトロイトを犠牲にしてでも自由競争の体制を守ろうとし話と良く似ています。

 そして、日本が率先して制定した、農業やその他の内需型中小企業を犠牲にして、大企業(輸出企業)その株主(国際投資家グループ)ばかりを儲けさせる国際協定TPPと良く似ています。

 比較優位論は、関税や非関税障壁を撤廃し、自由貿易を行えば、自然な競争が起こり、勝つ企業と負ける企業が生まれるが、それはあくまで効率を求める国際的な「分業」にすぎないので我慢すべきであると、負け組を説得しています。しかし、その真意は、負け組に対して国民は何もする必要がないというところにあります。

 富裕層はどこの国でも生きていけるでしょうが、低所得者や貧困層は自分の国家の支えがなければ生きていけません。

 ゆえに、低所得者や貧困層にとって国家は大事なものです。

 TPPはまさに富裕層がより一層儲けるために、その国家を解体しようとするものです。

 その理論的な支柱が、リカードの比較優位というインチキ理論です。

 TPPは新しいタイプの国際協定と言われています。TPPの特徴は、(1)ネガティブリスト方式、(2)ISD条項、(3)ラチェット条項の3点に存在します。

 まず、ネガティブリスト方式で非関税対象を決めようとする行為です。これまでの貿易協定ではポジティブリスト方式で非関税化する対象をピックアップして決めるものが主流でしたが、ネガティブリスト方式では、締結国は特に守りたい少数のものを除外出来るだけで、他の産業や分野をすべて無差別に非関税化し、あるいは、非関税障壁を撤廃しなければならなくなります。つまり、これは国家の役割の放棄です。

 ネガティブな部分にどのような規制があるかを網羅することは不可能であり、また、多数の対象を挙げることは許されていませんから、必ず、後で、重要な部分で支障が出てきます。

 加えて、TPPには外国資本の参入の自由化という項目がありますが、その意味は、医薬品、健康被害、農業、漁業、林業、エネルギー産業、製造業、保険業、金融業、住宅、社会保障などの、国民を守るための必須の分野において、国家が構築してきた規制や慣習を外国企業のために変えるというものです。

 これらの国内の規制や慣習は、既得権益であり悪いもののように言われていますが、ほとんどが国内産業、労働者、国民生活を守るためのものです。

 だから、それらの非関税障壁(農薬の種類、農薬の量、遺伝子組み換え作物の禁止、制度的保護、補助金、競争の規制、その他)を解除することは、国内産業と国民生活を守ることをめるということでもあります。

 あるいは、TPPは、そのように危険なものではないと言うでしょうが、それでは、なぜ、そういう不安が満載されたネガティブリスト方式にこだわるのでしょうか。その都度品目ごとに話し合えば良いのではないでしょうか。

 全部ひっくるめて規則を決めようとするのは、経団連の投資家たちが、このときとばかりに、意を決して、国家が創って来た規制や慣習を解体しようとしているからです。

 経団連は自分たちの輸出競争力を高めるために、政府に、出来るだけ多くの規制の解除を実行させようとしていす。

 消費税でデフレにさせ、雇用の規制緩和をさせ、輸出の価格競争力を創り出させていますが、それだけでは飽き足らず、今度は、国内産業を外国企業からも国内の大企業からも守って来た関税および非関税障壁(農薬の種類、農薬の量、遺伝子組み換え作物の禁止、制度的保護、補助金、競争の規制、その他)を破壊しようとしているのです。これらの規制が解除されれば、国内は外国資本だけでなく、外国資本と手を組んでいる国内の大企業のやりたい放題になります。

 大企業は効率化が得意です。無駄な費用や、労働を削り、いままで大事にされて来た人や動物までも大量破棄の対象にされてしまいます。実際に、もともと日本では動物は物として扱われる恥ずべき伝統がありますが近年において効率化が叫ばれる中、それは全く改善されることはありませんでした

 経団連は、国際競争力を持っている自分たち以外の産業はどうなっても良いと考えていす。すなわち経団連は自由貿易主義の神髄である比較優位権化のような存在です。

 すなわち、貿易相手国との非関税品目を決めるときに、特定の少数者が、農業や中小企業などの他の生産者の犠牲と引き換えに、比較優位理論で有利な条件を得ようとすることがネガティブリスト方式にこだわる理由です。

 日本の場合は、貿易に強い集団である経団連が利益を得る比較優位業者になります。経団連などの大企業に競争で負けても、負けた者にも比較優位な仕事(大企業がマネできないきつい労働など)があるので、気にしなくて良いということです。

 安倍政権は、2012年の総選挙において、TPP交渉参加の条件として6項目の公約を行いました。

①聖域なき関税撤廃を前提にする限り交渉参加に反対する

②自由貿易の理念に反する自動車等の工業製品の数値目標は受け入れない

③国民皆保険制度を守る

④食の安全基準を守る

⑤国の主権を損なうようなISD条項は合意しない

⑥政府調達・金融サービス等はわが国の特性を踏まえる

というものです。

 驚くべきことに、安倍政権は、①については、農作物の一つでも保護するなら、聖域がないとは言えないという詭弁を言い出しました。

 まるで、子供の言い草で、到底通用するものではないと思われますが、ところが、野党の誰も非難せずに、すんなり通用してしまいました。日本では、野党の質が悪いので、こういう詭弁が通用するのです。(日本の野党は大企業にやさしい。)

 普通に読解するならば、「①聖域なき関税撤廃を前提にする限り交渉参加に反対する」という文言は、「TPPが聖域なき関税撤廃を目指す性質を持っているからには、TPPがその姿勢を変えない限り交渉参加に反対する」という意味に受け取ります。

 おそらく、国民のほとんどは、安倍晋三氏がこう言ったときに、安倍晋三氏はTPP参入に消極的だと理解したのではないでしょうか。

 ところが、安倍政権に言わせると、これらの読解は、日常的表現の常識を覆して、一つでも例外があれば聖域は有るので、「聖域なき関税撤廃を前提にしているとは言えない」ということになるようです。いつの間にか理数的論理の話にすり替わりました。典型的な言葉のトリックです。

 ところが、正面からそういう開き直りをされても、誰も、まさかそんな意味とは思わなかったと批判しないのですから、それも驚きです。

 安倍晋三氏は「瑞穂の国の資本主義」という真っ赤なウソも言えば、このような屁理屈も使い、世界で最も従順な国民を騙します

 ネガティブリスト方式による関税の撤廃と非関税障壁の撤廃を推進する最大のエンジンが、ISD条項とラチェット条項です。

 ISD条項とは、日本政府が(それまで日本国民に害を及ぼす行為をしていた)外国企業に仕事を止めさせ、国民の安全を守るための法律を作った場合、ISD条項によって、(それまで日本国民に害を及ぼす行為をしていた)外国企業が損害を受ければ、外国企業はその国から損害賠償をしてもらえ、その上に、国民の安全を守るためにせっかく作った法律を廃止させることが出来るというものです。

 ラチェット条項とは、逆回転が出来ないラチェット歯車から付けられた名称で、一旦緩められた規制を再び強化することを禁じる条項です。これによって、ISD条項で徐々に国内の規制が解除され、後で後悔しても、再び規制を元に戻せなくなります。

 TPPで最も重大な脅威がISD条項です。平成27年10月に米国のアトランタで取り決められた大筋合意ではすでにISD条項が含まれています。

 これもまた、安倍政権の約束した「⑤国の主権を損なうようなISD条項は合意しない」を普通に読解すれば、「ISD条項は国の主権を損なうもので、よってISD条項には合意しない」となるはずなのですが、安倍政権は、「国の主権を損なわないISD条項なるものが存在し、そういうISD条なら合意する」という意味だったと言っているのです。

 国の主権を損なわないISD条項なるものが存在するのなら、それはもはやISD条項ではありません。

 それどころか、驚いたことに、安倍政権はTPP交渉に参加するや否や、安倍政権がTPP交渉の中で最も残しておきたい条項としてISD条項を押しているのです。開いた口が塞がらないとはこのことです。詭弁と言うだけではまだ足りません。詐欺と言うべきでしょう。

 ISD条項が「国の主権を損なわない」ような普通の条約に変わったのなら、ISD条項はもはや無くなったと宣言するはずです。

 それを言っていないということは、国の主権を損なうようなISD条項が残されているということです。

 日本がこれまでも他の国と締結して来た多くの二国間条約であるFTAにもISD条項が含まれていますが、それは、政情不安定な後進国との貿易ではいつ法律が変わり、企業に理不尽な損害が発生するかも分からず、おちおち投資出来ないために、後進国の法律の上位法つまり国際条約によって、投資が可能となる環境を作ろうとしたものです。

 これは、むしろ、後進国にとって、先進国の信用を取り付けるために必要なものでした。

 しかし、先進国同士の条約にISD条項は必要ではありません。先進国間の条約では、国際的な常識に基づいて行われるという信用があるからです。

 その信頼を裏切るようなら、国際社会からあらゆる報復を受け、信用は失墜します。そうなれば、先進国は失うものが大きすぎるので、政権が変わっても条約を守り続けるであろうと思われているのです。それゆえ先進国たる権威があり、先進国同士の条約では国の主権を損なうようなISD条項の入った条約を結ばないで済む特権が存在するのです。

 あらゆる条約は、一定程度は相手国の主権を損なう目的を持っています。そして、それが激しいか緩やかかの程度によって、国家の主権を著しく損なうかどうかが判断されます。

 ISD条項は「国の主権を損なわない」どころか、国家解体と言えるほどに、国家の主権を損なう毒素条項であることが周知されています。

 TPPでは、ISD条項に違反しているかどうかの裁定は当該国同士の話し合いではなく、第三者の裁定機関に委ねられます。つまり、国の主権はここで完全に放棄させられます。

 第三者機関が国の主権に配慮しようがすまいが、第三者機関の判断に委ねるのですから、国家主権を放棄するという趣旨に変わりはありません。

 その上、この国際仲裁機関なるものは、国の主権に配慮するどころか、その国の規制が妥当なものであるかさえ審議することはなく、企業が被った損害を計算するだけなのです。

 企業はその国の都合を考えることなく、自分の損害を訴えさえすれば良いのです。

 結論はすでに決まっており、政府は企業に賠償金を支払うだけでなく、国民の安全を守るための法律も廃止しなければならなくなります。

 自民党は、ISD条項が施行されても、少しは国の意見も聞いてもらえると説明していますが、国の意見も聞いてもらえるから、国の主権を第三者に委ねても良いという理屈は通りません。

 今、日本が農業の補助金を削り続け、外国の危険であると警告されている作物を輸入し続けているのは、そして、諸外国と全くトラブルを起こしていないのは、TPPに逆らうことなく、完全にTPPに従っているからです。

 カナダでは、米加FTAのISD条項において、アメリカの自動車会社の排気ガスにカナダでは認められていない神経系ガスが使われていたため、カナダ政府がこれを規制すると、アメリカの自動車会社から国際仲裁機関に訴えられ、カナダ政府は莫大な損害賠償額を支払った上、安全排ガス規制を撤廃させられました。

 また、その上に、その他の自動車の安全基準や排ガス規制もアメリカと同じにさせられました。そうしなければ、再びISD条項で訴えられるからです。

 また、米韓FTAにもISD条項があります。もともと、韓国には大型自動車と小型自動車で税金のランクがあり、低所得者が小型自動車に乗るための救済的な制度だったのですが、アメリカの大型自動車の競争にハンディを与えるものとして撤廃させられ、大型自動車に有利な税制に変えられました。

 また、アメリカの保険会社が入りやすいように、各業協同組合の保険サービスを解体させられました。

 その上に、韓国では、アメリカの販売する薬価より低くすれば、アメリカの薬剤会社は韓国政府を訴えることが出来るようになっています。正真正銘の価格カルテルが成立してしまっているのです。

 TPPの目的は、その国民のあらゆる権利と引き換えに、国際的な投資家が最も優先して利益を得る体制、すなわち、お互いの国の投資家が、お互いの国の労働者を搾取する体制を作ることにあります。

 日本のTPP推進論者は、日本とアメリカの安全保障の一環だとか、アメリカの圧力で入らざるを得ないとか言い、否応なく入らざるを得ないかのように弁解していましたが、アメリカのトランプ大統領がTPPから離脱すると宣言しても、TPPへの参加を止めようとはしませんでした。

 国民に被害が及ぶのが判っていながら、止む無く国際ルールに歩調を合わせるためにTPPに加入せざるを得ないと言っていたくせに、その論拠が崩れてもTPPに加入しようという主張を変えないのは異様です。

 安倍総理は、トランプ大統領がTPPから離脱すると宣言したときに、むしろ、大急ぎで国会でTPPへの参加決議を行い、トランプ大統領にも考えを改めて、再び加入するよう勧誘したほどです。

 TPPの本当の推進者はいまやはっきりしました。蓋を開けて見れば、TPPの本当の推進者は、アメリカ政府ではなく日本政府であり、アメリカのウォール街ではなく日本の経団連だったというわけです。

 

 

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