山本清風のリハビログ

神様のエロ本


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 文学フリマ。正確に言えば、その打ち上げに赴いたのである。
「おや…清風さんではありませんか」
 秋山真琴である。考えるまえに、跳ぶ。着水するまえに、跳ぶ。書くまえに、語る。速きことにその真髄のある、陣形でいえばラピットストリームといった風情の人物である。ただかつてに比しても輪をかけて忙しいはずで、眼前にあるのは精神の五十年以前の肉体のようでもある。
「ない」
「じゃあ僕の葉巻をあげます。で、打ち上げに何しにきたんですか? 出展もせず」
「腐り姫、ひぐらし、車輪の国―――その次は?」
「………!」
 秋山真琴の表情に思考の色とも違う、張り詰めたものが、走る。
 が、それは一瞬で、すぐにまた鷹揚な声へ戻り、即答した。
「それは…『果て青』ですね」
「ほう」
 わからない。わからないが、わからないことを伝える必要は、いまない。人と人がわかりあえぬのは自明であり、確認せずに推し進めることで問題の起きるのが仕事や家庭などの人間関係だとすれば、この場に於いて既に私たちは人に非ず、というかそもそも、ゲームや小説などその場で瞬時に体験できぬものをまあ気持ちはわかるけれど、指先てきぱき走らせてウィキペディアなど速読したところで、なんの意味もない。わからない。そんな時にはただほう、うむ、なるほどなあ、かなんか相槌打ってあとはちんと座って静かにしておればいいだけであって、発言せんければええのであって語り得ぬこと、沈黙することそれ即ちが対象を知らぬ私の罪と罰なのだ。共有することのできぬ、惜しむべきとりかえしのつかない、過去なのだ。

「残忍だよ」

「それって残念の間違いじゃないですか?」

「てっきり秋山君は『CROSS†CHANNEL』と言うと思っていたが」
「それはですね……」
 と、これは彼が言い淀んだのではない。打ち上げの会場から不自然に乖離しているこの喫煙空間に闖入者が紛れこんだためだった。闖入者がゆらり口を開く。
「また、逢うたな……」
 猿川西瓜である。言下、てぃてぃてぃんてぃんと何やら口ずさんでいるのだが、つい先刻まで熱っぽく交渉していた一般参加の女性はどうしたのだろう。どうやら向こうで別の男性といやに盛り上がっているようだが………。
「まだ、果たされぬのだな」
「全部や、全部そらでうたえるわ、それくらい好きや腐り姫」
 なるほど『腐り姫』のオープニングを模しているわけだった。その割には口ずさんでいるメロディーがやけにキラキラしていてつまり違うようだが………。(おそらく同時期にプレイした純愛系のエロゲーと混同していると思われる)とまれ、彼とまだカラオケにいったことはないし決定的に音程の定まらないタイプなのかも知れない。てぃてぃてぃん。
 ちなみに説明すると、彼は私と秋山真琴のやりとりを聴いていたわけではなく、ということは、抜き身でエロゲーの話題を鼻先に突きつけてきたのである。このケダモノめ。
「猿川君」
「なんなんすか清風さん、今日大人しありません? いつもと違うわ。(女性器の名称)とか(関西地方で使われている女性器の名称)とかぜんぜん言えへんし」
「腐り姫、ひぐらし、車輪の国―――その次は?」
「………!」
 猿川西瓜の表情に思考の色とも違う、張り詰めたものが、走る。
 が、それは一瞬で、すぐにまた鷹揚な声へ戻り、即答した。
「『CROSS†CHANNEL』ですね」
「ほらな」
「なんやねん!」
 私の推理はあながち外れていなかった。だが、知らず矜持を傷つけられてというか矜持を傷つけられたことも知らず、薄々気づき始めている猿川西瓜を擁護するわけではないのだが、秋山真琴がすっと助け舟を差し込んできた。笹の葉。
「いやね、『CROSS†CHANNEL』は最強のエロゲーなんですよ。あのゲームで僕の中のエロゲーは終わったんです」
 まだだった。まだこれは、猿川西瓜の台詞だった。叙述トリックは地の文で行ってはならない、これは『車輪の国、向日葵の少女』の灯花の台詞だが、私はどう考えたって完全にさち派なのであり、三ツ廣と呼ばれているのさえ愛おしく第二章で号泣してしまったのだし、腐り姫の糜爛エンドもマスカラが流れ出てパニエがふやけるほどに、泣いた。

 まあウイスキーを舐め舐めプレイしていたというのもあろうがそれでも、松本清張原作『鬼畜』以上『ニューシネマパラダイス』以下というくらいには、泣いた。さち派である。
 そんなことはどうでもいいのである。地の文で叙述トリックを行うのは法律で禁止されているから先刻の演出はただのミスだとしておきたい。ゲームで言えばバグといったところ。つうか私は軽く発狂しているので、『さよならを教えて』式のあえて表示と背景が異なっている演出だと思ってくれればよろしい。

 私だって小学生のひとりやふたり殺しているのだ。
「確かに僕も『CROSS†CHANNEL』以降エロゲーをプレイしていません」
 今度こそ秋山真琴である。言の葉。
「いや、こう換言してもいいかも知れない──。エロゲーは『この世の果てで恋を唄う少女YU-NO』に始まり、『CROSS†CHANNEL』で終わった」
 何やら金言めいてはいるが、どうやら軽く発狂しているのは秋山君のほうらしかった。
「確かに………ほんまや!」
「こっちも狂っているのか」
 それでは『河原崎家の一族』からキャリアを始め、途中『野々村病院の人々』と『六ツ星きらり』を挟んだ私とはいったい、どこでエロゲーを終えればいいのだろう? 遺作?

 

 

 

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