山本清風のリハビログ

神様のエロ本


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 小説家の猫はナイーヴで好もしかった。

 小柄な、茶虎のなめらかな毛なみキャリーバッグの隅に寄せ、額に飼い主の手のひらあてがっている。室内飼いの男の子だそうであるが、こちらからはややぶちの混じるちいさな鼻しかみえない。小説家と猫の話だけを二、三して、それがよかった。

 私は静謐なこころになって動物病院を出ると、坂を下り、保育園を左折して、木陰のカーブを抜けて神社を通ると、川に出た。整備された河川には桜が植わり、ベンチが据えられ、走るひとがあり、空模様の機嫌はすこぶるよかった。

 私は少しだけ家事を放擲することにして、ひらはらあえか落下する花弁のなかを、ベンチに座った。野菜の名前の愛猫を撫でながら風が、川面の上空を花をちりばめて渡ってゆく様子を、可視的に眺めた。アイコス噛みながら、みた。

 上京して幾年、いまやゆく春を惜しんでいたずらにこころ痛めることもなくなった。春はまた来るのだ。強度を得たのと同時に鈍麻したのだともいえる。平和を信じるというよりも、希望が習慣づけられたというべきだろうか。ともあれ齢の数程度には前進しているようで、何より。

 雪国から上京した私は生まれてはじめて桜をみた。胸を打ったのはどちらかというと、その美しさよりも、落ちた花弁が足蹴にされ茶色く朽ちてゆくことだった。足を停めて、落ちたばかりのひとひらひらうと読みさしの文庫本に、そっと閉じた。

 帰宅すれば細君と子供の自転車がなくて、自転車置場には『櫻の園』のピアノ曲修練している音色が微かに届く。いま暫し私は静謐なこころのまま猫を解放すると、猫背にひとひらぽつり、花びらが名残ってなかなかに風情がした。




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