テレビ朝日のドラマ「家族」の番宣で、「ドラマは金9」とキャッチフレーズが流れる。このように、曜日を接頭語にした愛称を用いたのは、僕の記憶ではフジテレビの「月9」が最初ではなかろうか。その他、今では水10(すいじゅう)とか、土スペとか、或いは火サスなんて言葉がテレビ業界にある。

最初の、その「月9」はご存知フジのドラマ枠だが、この月9がひとり立ちするまでは相当力がが入っていた。確か、視聴率の3冠を獲得して勢いのあった時代、他にも「ハッチャンネル」などの愛称を使って局そのものをアピールしており、(時期は前後するかもしれないが)ドラマをフジテレビとしてどういう位置付けでやるか、とひとつの賭けに出たもののはずだ。昔々は「ドラマのTBS」という言葉が強く、寺内貫太郎だとか久世光彦氏(故人)の活躍や、向田邦子(こちらも故人)のドラマなど、TBSの独壇場だった。

で、フジがやったのは、他局と同様の作品を作ったところでそれは猿まねや二番煎じだから、思い切って若手を起用したちゃらちゃらしたドラマを作った。ちゃらちゃらという言い方は決して悪い意味ではない。言葉が見つからないが、力不足の役者を敢えて起用し、企画力や広告戦略や、イメージを一新したオシャレな作品を手掛けたのだ。これは出演者と同年代の若者に大いに受け、はっきり言って経験不足のアイドルや歌手などが次々と役者デビューを果たし、それはやがてトレンディドラマと呼ばれるようになった。バブル景気にうまく乗っかった事も追い風となった、と思う。他局はそれを「ふんっ、芝居のいろはも知らないガキの学芸会だよ」などと冷めた目で見ていたはずだが、数字(視聴率)を取ったらしめたもの。今では他局も似たようなことをやっているし、各期のドラマ編成時にはフジの「月9」の動向は欠かせないものになっているようだ。


で、今の「月9」の「のだめカンタービレ」はやはり強いらしい。この枠には木村拓也だとか松嶋菜々子だとかのいわゆる大御所が出るから、主演の上野樹里では弱い印象があったかもしれない。ただ、僕はもう上野の主演と見た時点でヒットは固いと思った。いいところに目をつけている。「スイングすっぞ! 」で前に書いているが、この上野樹里はかなりいい女優だ。映画「スイングガール」で主演してから、こりゃどんどん出てくると思いきや、意外にもそれほどテレビへの露出がなかった。もっと使えばいいのにぃと残念に思っていたら、やっとここで登場したわけだ。育てる側としては、将来性があるからこそ作品を選んだということなのかもしれない。


この「のだめ」を考えてみよう。

原作のマンガは読んでいないから、どういう展開かなと期待しながら見ていた。「題材の音楽」と「競演の竹中直人」の時点で、やはり映画「スイングガール」を想起する。で、今回はクラシックだ。だが、固い話では全く無い。

この主人公「のだめ」のキャラクターが秀逸で、上野はそれを見事に忠実に演じてくれている。クラシックを学びながら保母さんになる夢を持つのだめ。譜面を見ない破天荒な音楽をやりながら、天才的なピアノのセンスに自分で気づいていないという潜在能力。一方で、ゴミの山と共に暮らす、掃除の出来ないガサツさや、千秋に片思いしつつ可愛い押しかけ女房になるずうずうしさとの同居。涙を流す繊細さと、怒りが込み上げると出身地の方言が飛び出す喜怒哀楽。全く、人間としての魅力に溢れたキャラクター。いったいどんな育ち方をしたらそんな人間が出来上がるのかと僕は問いたい。


のだめの持つあらゆる面は、それぞれが『人としての素の部分』だと思う。それを包み隠さず、また隠す芸当が出来ないとも言えるが、彼女は人間らしさに溢れている。そんなのだめに困惑しながら、少しずつ影響されていく千秋の姿がとても愛しく思える。ストーリーの方向性だとか、展開を僕としては特に気にしていない。みな大学生なのだから、いずれは自分の生き方を模索しながらそれぞれの道に進んでいくのだろう。やはり見たいのはのだめの一挙手一頭足なのだ。


僕が目をつけたのは、彼女が自分の事を「のだめ」と呼んでいることだ。「私」ではない。「私は」ではなく「のだめは」と言うのは、一見すると単なる幼稚さにも映るが、僕はそうは思わなかった。自分はどうしたいのか?を逆に問うているのではないかと思う。今のところ、力なく問う場面が多いが、それはやはり彼女自身の迷いを表わしていると思う。「私はやる」ではなく「のだめはやる」のだ。人にはそれぞれの得手不得手や、考えや、欲求がある。誰あろう自分の人生において、意思決定の最終権者は自分にしかないはずだ。そして、そこにはもちろん責任も伴う。人は人で、自分は自分。彼女が常に口にする「のだめは・・・」は、自分自身に問いかけているものだ。

人がどうあれ、自分はどうするのか?自分に何が出来るのか?どうしたいのか?そのためには何をやる必要があるのか?ぼそぼそと頼りない「のだめは・・・」という上野の表情に自分を重ねる。

たぶん最終回では、きっと力強く「のだめは○○しますっ!」と宣言してくれる事と思う。