「なんだ、騒がしくなってきたな」
駐車場が騒がしくなったとき、聖火たちはまだ会場の中にいた。
隣のスタッフがせわしなく動き、コスプレイヤーに感づかれないように会話をしているが、聖火にはお見通しだ。何か事件が起きている。
「・・・・・・電波が一つ小さくなったか」
聖火の隣で難しい顔をする十義がそんなことを言う。
「電波?」
「いや。独り言だ」
くすくすと笑う十義だが、ずっと近くで彼の笑みを見てきた聖火にとって、今の十義の笑顔はかすかな違いを感じる。
「ねえ、あなた本当に十義なの?」
口走ってしまった、聖火はそう思った。
いくら違和感を感じているとはいえ、目の前にいるのは間違いなく十義だ。
顔の下に薄いマスクをつけているわけがない。
十義は、笑った。
実に奇怪で、気づいてくれたことに歓喜しているかのような。
スタッフはもちろん、周囲にいるコスプレイヤーたちも十義をおかしな人として見ている。
「そうか! ハハハハハハ! こいつはいい! 貴様は俺を雲狩十義ではないと言う! ああ、こんな気持ちはいつぶりだ!? ああ、気が変わってしまった! 当初の計画からだいぶ外れるが、変更したくなった!」
「十義? なにを言ってるの?」
「聖火! この世はある法則により何億、何兆も地球そのものが『転生』を繰り返している! あぁん? なに恥ずかしいって面をしていやがる? 貴様も、その周りにいる愚民どももいずれわかるさ! この世は一度も『ある日の朝』を迎えることがなく、地球は零へ戻る。その原因はおまえにもある」
ゆるりと、そのてが延びた。
まるで闇の侵蝕。闇の侵略。
悪が忍び寄るような、闇の結晶体。
「俺はそれを阻止するためにやってきたのだが、まあいい。聖火、おまえをまだ『生かしてやる』。血と怨嗟の迷路を巡り、ゴールにはなにがあるか確かめろ!」
刹那、十義の右手が光った。
まるで電流が走ったかのような輝き。
光が消えたとき、その手にあったのは、『刀』だった。
なんとまっすぐで、なんとまばゆい輝きか。
この世のあらゆる者が切れる刀。この世のあらゆる法則が通じない刀。
見る者にはこんな印象を与えるだろう。
絶対的権力の尊重だと。
刀の剣先を聖火へ向け、くるりと回して柄を向ける。まるで掴んでほしいかのように。
「問う。俺はおまえの言う雲狩十義か?」
当たり前のようで、当たり前ではない質問。
聖火は、ためらわずに首を左右に振った。
「あなたは、『私の知る雲狩十義』ではない」
「すばらしき返答。ならばもう一つ。この世はもう時期おまえの知る友人どもが『約束の時間』を巡る戦争の序章を引き起こす。一人は少女の意志を知るために戦い、一人は予期もしない人物と剣を交え、そして・・・・・・おまえだ」
聖火は柄を掴もうとして、見えない何かに恐れて手を引き、触れなかった。
十義は触れない刀を床に突き立てる。
「雲狩十義はそれを望まない。が、おまえは剣を握るのを渇望するはず」
右手はあいた。
あいた右手を銃の形を作り、
「ぱぁん」
と、つぶやいた。
刹那、少女は世界を知る。