2005-06-23 23:58:25

『神の火』心の奥で燃えたぎるもの

テーマ:読んで良かった本

今日は、演劇とはまったく関係ない本の話です。
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少年が家族を手にかけたり、通っている学校に爆弾を投げたりと、聞いて絶句するような事件が立て続けに起こっている。ニュースを聞きながら、ある作家の名前を思い浮かべていた。高村薫氏は、こんな事件が続く現在を、どう見ているだろう。

今日、原発の機密資料がウィルスによってネット上に流出したという報道を見て、高村氏の小説『神の火』が現実になったような身震いを覚えた。これは、かつて東西をまたぐスパイだった元・原発技術者の男を中心に、核開発の鍵を握る秘密資料をめぐって、国際諜報機関、政治家、運動家、チェルノブイリ事故の遺族、その周辺の人たちが翻弄される様を描いた長編。クライマックスは、主人公が幼なじみと二人で、原子力発電所を襲撃するシーンだ。

彼らが無謀な突入を図った動機を、一言で表すのはとても難しい。でも読み終わると、なぜか想像できるのだ。もの言わぬ圧力によって長年がまんを強いられてきた、やり場のない憤怒が、無名の個人を社会への復讐へと突き動かしたのではなかろうか。


その姿が、「おとなしい」「事件を起こすようには見えなかった」と言われる少年たちと、重なる。

普段は平穏な社会生活を営みながら、面の皮一枚はがしたところでは、激しい情念が爆発寸前で沸騰している…。程度の差はあれ、どんな人にも、たぶん思い当たるところがあるだろう。着火するのは、あっという間のことだ。


いうまでもなく、実際に起きた原発資料の流出と、少年たちの事件は直接関係していない。だけど、日常生活の死角で、知らないうちに、惨劇の種が育っているという点は、共通している。

高村氏の小説は、市井の人のさまざまな心情に、同じ目の高さで寄り添っている。そして、身近にあるけれど見えない何か、聞こえない声の存在に気が付いているかと、読む者に問い掛けてくる。


神の火  『神の火』上・下 高村薫・著 新潮文庫

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2005-06-07 23:49:44

「愛と哀しみのルフラン」想いはいま、客席をめぐる

テーマ:読んで良かった本

(読んだ本)

「愛と哀しみのルフラン」 著:岩谷時子

講談社文庫 1986年


(感想ここから)
「愛と哀しみのルフラン」は、作詞家・岩谷時子氏による随筆。「ルフラン」とは、詩または音楽で、同じ言葉やメロディーを繰り返すことをいう。リフレインとも呼ばれる。


「舞台と本の日記」と題するblogを立ち上げたのに、いままで本の話を取り上げてこなかったのは、この本を最初に紹介したかったから。当初は5月末にでも感想を書こうと思っていたのだけど、きれいな優しい文章を急いで読むのがもったいなくて、毎日ゆっくり数ページずつめくっていった。やっと今日、最後までたどりついた。


このblogを読んでくださっている方の多くがおそらく親しんでいるであろう、「レ・ミゼラブル」や「ミス・サイゴン」などの訳詞を手掛けた岩谷氏。両親の愛情を一身に浴びながら宝塚歌劇を観て育った子ども時代、宝塚歌劇団に就職したのち越路吹雪さんのマネージャー・親友として苦楽を共にした日々、そして越路さん亡きあとの心の風景や、芸能界で交流のある人々の話などがつづられている。


ミュージカルの訳詩についても、少し触れられている。演出家がどんな歌詞を求めたか、新しい作品に向かうときの心境はどんなものか。具体的な作品名は出てこないが、きっとレミゼの仕事もこんな厳しさだったのだろうと思わせる。日本のミュージカル黎明期に、質の高い舞台を求めて努力し続けた越路吹雪さんや岩谷氏の存在があってこそ、今日の水準がある。


「人生とはしょせん、『愛と哀しみのルフラン』ではないだろうか」と岩谷氏。文学少女、編集者、マネージャー、作詞家という歩みの中で、たくさんのよろこびが訪れたであろう反面、心を痛めることも何度となくあったことがこのエッセイから読み取れる。そうした想いはいま、ミュージカルの歌詞となって客席をめぐり、観客の心に響き続けている。岩谷氏の美しい歌詞が生まれた背景を知りたい方には、ぜひお勧めしたい1冊。


つぶやき:
現在、この本の新品を手に入れるのは難しいようです。私はアマゾンのマーケットプレイス(古書の個人売買コーナー)で買いました。


るふらん
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