バルジャンとジャベールが分かち合うもの | ■RED AND BLACK■レ・ミゼラブル2015日記

バルジャンとジャベールが分かち合うもの

今井バルジャンと岡ジャベールという、個人的に最も好きな組みあわせで始まった、2005年版観劇。
今回、バルジャンとジャベールの心が重なった瞬間というのが、はっきり感じられたのが、自分としては大発見だった。


瀕死のマリウスを担いで病院へと急ぐバルジャンと、それを捕らえるために下水道の出口で待ちかまえていたジャベールが、相対する。まったく反対側から距離を縮めてきた二人の気持ちは、このシーンでシンクロし、また別の方向へとすれ違っていくことになる。

「見ろ、ジャベール! 死にかけてる!」とバルジャンが凄むと、ジャベールがくるりと背を向けて「よし、バルジャン! すぐ行くのだ!」と道を明け渡す。

この日の今井バルジャンは、「見ろ、ジャベール!」という歌に「何としてもマリウスを助けなくてはいけない。時間がない」という切羽詰った想いをしっかり乗せて伝えてくれた。表情も違った。力強く前へ前へと迫っている。その気迫に、岡ジャベールが反応。外見は直立不動だけど、心の中では後ろに大きくのけぞって、足元もおぼつかなくなるほど混乱したのだろう。その姿が舞台上に見えた気がした。バルジャンに対する目線が揺れ、「よし、バルジャン! すぐ行くのだ!」という声がわずかに震えているようだった。でも、彼には先を見つめる勇気がなかった。「24653」と過去の言葉を吐いたあと、我を失う。

このシーンの前で、ジャベールは革命派の学生によってバリケードに捕らわれる。やがてバルジャンの手によって解放されるが、そのときは助けられた理由がうまく飲み込めない。そしてバリケードの陥落後、撃たれて死んだ学生アンジョルラスを見つけたジャベールは、思わず胸に手を当てる(岡ジャベールだけ)。たぶん、その時から自分でも経験のない感情が心に生まれ、どう御していいのか分からず苦しんでいたのだろう。
それにけりをつけてくれたのが、ほかでもない自分の敵、バルジャンだったことで、人生に逃げ場がなくなったのではないか。
「自分の信念の正しさを証明したい」という気持ちしか持っていなかったはずなのに、「だれかを助けたい」という衝動をバルジャンと共有してしまったジャベール。

だから余計に、自殺が悲しく感じられた。セーヌの橋の上で、「心が乱れる。信じていいか? あいつの罪まで許していいか?」と孤独な夜空に叫ぶ様子も、一層生々しい。