「足の治療ありがとうございました」
トキは、軽く頭を下げ微笑む。
「いえ、こちらこそ。本当にもう大丈夫?」
「はい、もう全然痛くないです」
「そう、それはよかった。是非また遊びに来てちょうだいね」
その言葉は心からのものであることに違いはなかったが、少し違和感のあるものだった。
支度を終えたトキたちは、リザに案内されるまま出口に繋がるという場所へと連れられて来た。
やはりそこは四方が白で囲まれた空間で閑散としている場所だった。そして、先の見えないほど長く続く階段が目の前に聳え立っている。
「この階段を上って行けばいいんだよな」
「えぇ、そうよ。一番上に着いたら、薔薇の模様の入った扉を開れば外に繋がっているわ。
少し重いと思うから頑張ってね」
彼女には不似合いな爽快な笑顔で言って、クラウドの肩をポンと叩く。
「お、おぅ!任しとけ」
また、開かなかったらどうしようか、と一瞬不安に思いながらも威勢よく返事をした。
「じゃあ、僕たちはそろそろ行きます。本当にありがとうございました」
「ありがとね」
「お世話になりました」
みんなでお礼を言って、お別れの言葉とともにその場を後にした。
「君ならきっと大丈夫よね…」
3人が見えなくなるまでその場に立ち尽くしていたリザは、そう呟いてから静寂に包まれた白の中へと吸い込まれるように戻って行った。
微かに薔薇の香りを落としながら―――
「この階段いつまで続くんだ。もう結構のぼった気するぜ」
もうかれこれ30分は上り続けているが全く以って先が見えない。
そこまで深くに落ちた感じはなかったのだが、そうでもなかったらしい。
ドォン!!!
「うわぁ、なんだぁ?」
遠くの方で轟音が鳴り響き足元が揺れる。
「きゃっ!」
トキの肩に掴まっていたキラが転げ落ちそうになり声を上げた。
同時にトキも足元を掬われそうになったが、クラウドに支えられて倒ける事は免れた。
「すいません」
「いや、それより何だったんだ今の」
「わかりません。けど、何かが途轍もない圧力で壁にぶつかったようなそんな感じの音でした」
「あぁ。とにかく速く階段を上りきった方がよそうだな」
「はい」
やっとのことで薔薇の印の刻まれた扉の前まで辿り着いた。上ってくる間に3,4回同じような
轟音が響いていたので、少しリザのことが心配だったが彼女なら大丈夫だろうと先を急いだ。
「あ゛ー、疲れた」
「あんまり速く走るから目が回っちゃったわよぉ~」
走っている間、必死でトキの肩にしがみついていたキラがよろめきながらも
なんとか肩にぶら下がっている。少し休憩してから、クラウドは徐ろに立ち上がり
よしっ、と一声上げて勢いよく扉を押した。
「うわぁっ!!」
リザに重いと言われていたので、勢いよく押したのはよかったが、重いなんて以ての外で、
まるで空気のように軽かったことでクラウドはそのまま外へと飛び出し、砂の上に盛大に転げ込んでしまった。
「うぅ~」
「…何やってんのよ、アンタ」
馬鹿にしたような冷ややかな声でキラが言った。
「いや、だってその扉軽っ…」
砂まみれになりながらクラウドが答えた。
「…大丈夫ですか」
そう言いながら扉を抜け、クラウドに手を差し出す。
「あぁ、なんとか」
全員が通り抜けると扉は自然に閉まり、それは影も形も見えなくなってしまった。
しかし、触れるとそこに確かに扉は存在していた。風景と同化しているので肉眼では見えないはしないが。
「確かにこれじゃあ、外からは見えないわね」
「なぁ、俺最近こんなんばっかじゃねぇ。すっげぇ、かっこわりぃ~」
一人情けない声を上げているクラウドを余所目にトキたちは次の国へと歩き出していた。
「ちょ、ちょっと待ってくれよ~」
by 沙粋