ALOHA STAR MUSIC DIARY ディレクターズ・カット

80年代の湘南・・・アノ頃 ボクたちは煌めく太陽のなかで 風と歌い 波と踊った。


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3月の卒業記念ライブに出演予定のバンドでは、唯一学校OBとして、僕が「イトコの兄貴」やら「隣の兄貴」だのと呼ぶ従兄率いる高校生バンド、『なんとかウィザード』のゲスト参加が決まった。

けどヴォーカルの人は、春休みに予定があるらしく、早々と辞退を申し入れたらしい。

そういう訳で、アロハスターのステージだけじゃなく、ライブ当日、僕は兄貴のバンドのヴォーカルも兼務しなくちゃならなくなった。

まぁ、演奏曲次第じゃあ竹内カナエもサイドギターで参加することになるかもな――

一九八四年一月二十四日(火) 中学三年の三学期、午後九時少し前

「で? オメェはなにを演りたいんだ。もうセットリスト(曲順リスト)はつくってあんのけ?」

タバコの匂いの染み付いた10畳ばかりの部屋のなかは、相変わらず足の踏み場もないほどに散らかっていた。

フローリングの床の上、無造作に積み重なった音楽雑誌の隙間に木彫りの灰皿を探し出すと、あぐらをかいてリッケンのペグをひねるイトコの兄貴はチラッと視線を僕へと向けた。

「 うーん。とりあえず兄貴んトコとジョイントする曲は、多少ハードめなのをカヴァーしたいんだよ」

いかんせん今回、ウチらはオリジナルしかやらないもんで……、カーテンのない部屋の窓際、最近アニキが買ったばかりの洋楽アルバムのライナーノーツに目を落としながら僕は呟いた。

とはいえ、山小屋風のランプのひとつ吊り下がる、あまりにも薄暗すぎる室内じぁあ、細かい文字まではっきり読むことなどはできない。

僕はライナーノーツをしわにならぬよう、ゆっくりとLPジャケットにしまい込みつつ、「 まぁオープニングナンバーはさぁ……」と兄貴の横顔を見やった。

「やっぱ『サムボディ・ゲット・ミー・ア・ドクター(Somebody Get Me a Doctor)』あたりをド派手にブチかましたいねぇ」

すると兄貴はニヤッと笑い、「こんな感じかい?」と、膝の上でリッケンバッカーのスライド音を引きずりながら冒頭のイントロリフを自慢げに弾いてみせた――

一九八四年三月二十五日(日)卒業記念ライブ当日、午後三時過ぎ

――体育館の窓ガラスがビリビリ激しく振動する。

《もし、このアンプをフルにぶんまわしたら、こんな体育館の窓なんて簡単に吹っ飛ぶぞ》

たしかに、こないだGENのいってたとおりだ。ステージの後方、横並びに鎮座する巨大アンプ群が空気をつんざき、天井を軋(きし)ませている。

フッ……、でも今さら関係ないさ。

そんなことなんか気にして、こじんまりと慎(つつ)ましやかに演(や)ったところで、誰ひとり心が熱くなりゃしない。

ローポジションでイントロ序章を奏で終えると、長髪を団子に結んだイトコの兄貴が、右腰のあたりでノイジーなストロークの余韻をアームでヴィンヴィン揺さぶった。

―― ワン・ツー・スリ・ーフォー ――

機を見計らい、茶髪で小太りな『なんとかウィザード』のドラマーが4カウント入れると同時、サウンドは劇的に変貌していく。

そう。ここからが本番だ。

イトコの兄貴は長い指をグリッサンド(弦を指ですべらせスライド音を鳴らす奏法)気味に15フレットあたりから2フレット付近まで一気にスライドさせながら、バックビートを打ち込まない16ビートのリズム上、エッジの効いたヘヴィなリフを刻み込んでいく。

僕の左隣で、ブレザー姿の竹内カナエが、フレーズ・エンドを強調させつつコーラスリフをメインバートのうしろ側に重ね合わせる。

もしホンモノのエディなら、この程度の和音くらい、容易く独りで弾きこなせるんだろう。

でも、カナエのフォローがなければ、兄貴のソロだけじゃぁ、きっと「重さ」は出せなかったと思う。

僕はスタンドマイクに向かって激しくシャウトした。

タムが豪快に打ち鳴らされてから、強烈な8ビートへシフトしたリズムラインと、縦横無尽に2人の奏でるギタリフが見事なまでにシンクロしていく。

忘れもしない。去年、地元の中学のヤツらにリンチされ、背中を刃物で切り裂かれたあの日。

砂場にへたり込んで、おもむろにウォークマンのスイッチを押した途端、ズキズキうずく傷のうわべに響いたヘヴィなロックナンバー。

真剣にギターを演ってるヤツならば、誰もが必ず憧れるであろう究極リフ。

1979年リリースのセカンドアルバム『伝説の爆撃機(Van Halen 2)』に収録されたヴァン・ヘイレン初期の傑作「サムボディ・ゲット・ミー・ア・ドクター(Somebody Get Me a Doctor)」――

この曲の場合、何よりもアンティシペーション(先行音)気味にイントロの小節手前で弦をすべらすグリッサンドのスライド音が最重要だ。

この唸(うな)りがリードギターの演奏アタマでキまらきゃ疾走感が得られない。

けど、そんな心配なんてカナエにはまったく不要だろう。

練習でも披露しなかったオリジナルにないアドリブが、わずかなリフのはざまにいくつも混じり込んでいる。

もはや彼女の『神の手』は、普通に弾きこなすのも「ままならない」この曲に、ありきたりな即興(インプロヴィゼーション)を入れる程度の演奏レベルじゃ満足できないのだろう。

初めて兄貴のバンドと、音楽準備室で音合わせしたとき、「なんだぁ? この『とんでもねぇ子』は、いったい」って兄貴を驚愕させたのも頷ける。

去年のクリスマス・ライブのときと比べても、この3ヶ月のあいだで、驚くほどにカナエのテクニックが上達してるのは、隣で聴いててはっきりわかる。

しかも彼女の場合、即興(インプロヴィゼーション)のメロディ・センスがハンパじゃない。

これは相当にギターの音階やポジションを知り尽くしてなければ、絶対に到達できない技術レベルなんだろうと思う。

まぁ、そもそも幼い頃からクラッシクギターをメインにしてた彼女であるが、僕に無理やりアロハへ引っ張られてからは完全にロックのリード・ギターとして、その才能を開花させてしまったようだ。

こういっちゃあ元も子もないが、兄貴とは、ちょっと器が違う気がするな……。

いずれにしたって去年の秋、兄貴のバンドの練習ヴォーカルでヴァン・ヘイレンの「ユー・リアリー・ガット・ミー(You Really Got  Me)」を歌わされたときもそうだったけど、僕にはデイヴィッド・リー・ロスが得意とする、悲鳴みたいに裏っ返るシャウトは出せない。

もちろん派手なステージアクションも、制服姿じゃあまり滑稽(こっけい)すぎるんで封印。とはいえ直立不動って訳にもいかず、多少オーバー気味にステップくらいは踏んでみる。

Aメロに入って、僕のヴォーカルのバッキングでリフを奏でる兄貴とカナエ。

兄貴のほうは、ほぼオリジナルに忠実な演奏だけど、どうやらカナエは遊ぶ気満々のようだ。

メインのリフは兄貴に任せてインプロヴァイゼーションのオブリガートを、スライドさせながら入れまくり、「これでもか!」ってくらいにヴィブラートやチョーキングを繰り返している。

(ちょっとカナエ! やり過ぎだよ! だんだん兄貴がイジけちまうだろ?)

心でそう呟くなり、ふと僕は、ステージから見て左の壁際、暗闇の中に強烈な視線を感じた。


――しっかしカミウの隣の女の子。オレにも思いつかないフレーズを、さも簡単に弾きやがるぜ。

スッと高い鼻先に垂れ落ちた前髪を、指の背で払うセンティナリスのギタリスト、希崎ユウトは感嘆しきりだった。

「なぁコウ。あの子のアレンジ、すごくねぇ?」と大声で希崎にふられ、彼の隣で腕を組み、神山コウは薄い唇の輪郭を嘲笑(ちょうしょう)のかたちになごませた。

けれど、心を映す目の色は、神山特有の誰かを見下す余裕めいたものとは違った。

(たしかに……カミュの歌声も、あの子のギターも同年代のなかじゃあズバ抜けている)

ついさっき、カミウらがステージに登場する前、その休憩時間に神山コウが、長身の霧島ヒロミを連れ立って体育館に姿を見せると、400人近い卒業生たちのざわめきはピークに達した。

とはいえ、容易くは近寄りがたいオーラを放つ神山に、誰ひとり握手を求める者などはなく、女生徒らは、ただ遠目に大理石の彫刻像でも眺める視線を送るばかりだった。

カミウらのステージが始まっても、ときめく視線の矛先(ほこさき)は、前方ではなく、センティナリスのふたりが陣取る体育館の壁際に向けられ続けた。

「手ぐらい振ってやりゃいいじゃん」

と希崎ユウトは鼻で笑った。けれど腕を組んだまま微動だにせず、カミウらのステージをジッと見つめる神山の横顔があまりに真剣だったので、もうそれ以上はからかわなかった。

(なぁコウよ。お前だって気付いてるだろ。もし『ホンモノ』ってヤツを無理やり否定しちまったら、もはやそれは敗北でしかねぇ。単なる負け惜しみにしかならねぇんだってことくらいはよぉ……)

だったら認めるしかねぇんだよ……もし本気でカミュに勝ちたいんならな……。高い鼻先をくすぐる前髪を指の背で払い除けると、希崎ユウトは、さも嬉しそうに目つきをやわらがせた。

いずれにしたって俺は幸せもんだよな。なんたって、今すぐにでも武道館のステージに立てるくれぇのヴォーカリストが、二人も身近にいるんだから……

そう思いながらに希崎は、スポットライトを浴びながら高音域のファルセットを放つカミウを自慢げに眺めた。
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