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2016-12-05

誤誘導の社説

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 朝日新聞に「配偶者控除 働く『壁』を残す罪深さ」という見出しの社説があって、この内容があまりにも読者に誤解を与える恐れがあるので驚いた。「103万円の壁」と聞くとなんとなく、年収103万円以上働くと税金が増えてかえって損をする=手取りが逆転する、というイメージを持ってしまうが、これはすでにあちこちで指摘されているように、そのような制度の不備は今はもうない。もし税控除の点だけを気にしてパート主婦が労働時間を抑えているのであれば、それは誤解に基づくものだから、もっと周知しないといけないだろう。問題の社説も、手取り逆転はないことを前提に書かれているようだが、今回、配偶者控除を受けられる要件を年収150万円以下に拡大する方向が打ち出された点について、妙にかみついている。「安倍政権が言う『だれもが活躍できる社会』は、『パートがもう少し働ける社会』なのか」とまでいって締めくくっている。おかしい点をまとめよう。
 ・配偶者控除を受けていることが、企業の家族手当支給の要件となっていることが多く、この点で「壁」が存在することは確かだが、それは税制度の問題ではない。
 ・「女性活躍」を表向きの理由にして、配偶者控除を廃止して税金をもっと取り立てようとしたことが、今回の議論の本質である。にもかかわらず、朝日はその表向きの理由の土俵の上に乗っかってしまっている。だから説得力がない。税制を変えたからといって、女性が急に活躍したくなるのか。そんなことはありえない。常識を疑う。
 ・この社説を書いた人は、「正社員になってもっと活躍したいのに103万円の壁が立ちはだかってできないんですぅ」というパート女性の声を聞いたことがあるのだろうか。まあないだろう。なぜならそんな実態はないから。正社員にするかどうかはふつう雇用主のほうが決めることだし、仮に活躍して年収がぐっと上がれば配偶者控除の有無など関係なくなるからである。
 日経でも、この朝日の社説のような、女性活躍と配偶者控除を結びつけたような記事がしばしばみられる。読者を誤解させるこのような記事は慎んでほしい。


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2013-10-25

国家戦略特区ワーキンググループの座長のこと

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 八田達夫という大阪大学の先生がいて、この人が安倍政権の国家戦略特区ワーキンググループで座長を務めている。この教授がよく口にする言葉のひとつに、「岩盤規制」という言葉があって、その岩盤のようなカタいカタい規制のひとつが、雇用法制のことなのだそうである。したがってこの雇用法制を打ち破れば、日本は経済成長するのだそうである。

 八田教授の持論がまとめられている記事を、八田教授のブログの中に見つけた( http://tatsuohatta.blogspot.jp/p/blog-page_20.html )。ちょっとつまみ食いしてコメントしてみたい。

 「【八田教授いわく】(打破すべき岩盤のひとつとして)第二は、労働の流動性を極端に下げている日本の雇用法制である。年功序列と終身雇用の組み合わせという戦後日本に独特の雇用制度の下では、若い人は自身の生産性よりも低い賃金をもらい、年配者は自身の生産性よりもはるかに高い賃金をもらう。若い人には、賃金が生産性を超える年齢に達するまで企業を去るインセンティブがない。一方で年配者をその賃金水準で雇おうとする他社はない。このため日本では労働の流動性が低く、自社にしがみつく。そのような従業員を抱えた日本企業には、競争的な新企業が参入することを防ごうとする強い動機が発生する。」

 最初の数行ですでに論理のすり替えが行われているのではないだろうか。「労働の流動性を極端に下げている日本の雇用『法制』」を批判しているように見えて、実は「年功序列と終身雇用の組み合わせという戦後日本に独特の雇用『制度』」を批判している。年功序列も終身雇用も、法律で「そうしなさい」とはどこにも書いていない。もちろんそのような実情を前提とした別の法制はあるが、賃金や昇進に関して年功序列にせよとか、一度雇ったら定年まで雇い続けなさいとか、日本の法制はそこまで労働契約に口出ししていない。年功序列も終身雇用も、日本の労使双方とも、そのほうが利点があると考えてきた結果なのであり、打破したい企業があれば勝手にそれぞれ打破すればよいだけのことである。もちろん、労使で交渉したうえでだが。それに、年功序列と終身雇用が、今の日本の大多数の企業の象徴なのだろうか。

 八田教授は、「若い人は自身の生産性よりも低い賃金をもらい、年配者は自身の生産性よりもはるかに高い賃金をもらう」ことを嘆いているようだが、そうならないように、どう法律を改正すればよいと考えているのだろうか。差別規制ならともかく、給与の配分に法律で口出しするとは、それこそネオリベ族の毛嫌いする大規制なのではないだろうか。

 「【八田教授いわく】しかし終身雇用と年功序列の組み合わせは、若い労働者が少なく年配の労働者が多い現在では持続しようがない。このため、有期雇用の比率が急速に増加しつつある。それにもかかわらず、人的資本を蓄積した労働者の流動性は低いままだ。」

 有期雇用の比率が急速に増加してきているということは、労働法制の規制緩和と相まって、労働者の流動性が高まってきたということではないのか? 八田教授の立場からすれば喜ばしいということではないのか?

 「【八田教授いわく】これは有期労働者が終身雇用労働者に比べて極めて不利に扱われているからである。すなわち、企業は、有期雇用で5年間雇った人を終身雇用に切り替えない限り、雇い止めしなければならないという雇用法制になっているためだ。これでは企業は人に投資しない。十数年の間、有期雇用を繰り返すことができるようになれば、企業は人的な投資を大々的に行うから、給与が大幅に高まるだろう。有期雇用に雇い止めを強制していることは、人的資本蓄積を生まず、結果として有期雇用の賃金を不当に低くしている。これが、有能な人材の流動性を妨げている主因である。」

 …ここまでくるともうわけがわからなくなってしまう。

 まず「【八田教授いわく】有期労働者が終身雇用労働者に比べて極めて不利に扱われている」。終身雇用労働者なんていうのはこの世の中になくて(そんなのがあったらどれだけハッピーか)、終身雇用ではなく無期雇用(正社員)のことを揶揄的に言っていると思われるが、正社員と有期雇用労働者の間に格差があるのはその通り。

 「【八田教授いわく】企業は、有期雇用で5年間雇った人を終身雇用に切り替えない限り、雇い止めしなければならないという雇用法制になっているためだ」。このねじ曲がった解釈は、いくら煽動を狙っているとしても、あまりにもひどいのではないか。法律が専門でなくても、厚労省が出している法改正のポイントを読めば、こんな解釈にならないだろう。法制としては、5年以上雇っているのに有期雇用で雇い続けるのは合理性がないから、あくまで労働者の申し出によって、無期に転換できるというものである。無期というのは解雇権濫用がなければいつでも契約終了するのであり、決して終身雇用に転換するものではない。しかも、有期雇用を無期雇用に転換したからといって、いわゆる正社員と待遇を同じにせよとは、法律のどこにも書いていない。

 「【八田教授いわく】(無期転換ルールがあると)これでは企業は人に投資しない。十数年の間、有期雇用を繰り返すことができるようになれば、企業は人的な投資を大々的に行うから、給与が大幅に高まるだろう」。…八田教授は日本のどこのどういう実例を見てこのように考えるのだろうか。さて、この文章には2通りの解釈があって、「企業が人的投資を大々的に行う」対象は無期雇用者なのか有期雇用者なのかはっきりしない。

 人的投資を有期雇用者に行うことは普通考えられないだろう。流動性の高い労働者に人的投資をしても企業にとって無駄だし、労働者本人もいつ解雇してくるかわからない会社に対して投資に見合った努力をするわけがない。だいたい経団連自身が、その当否はともかくとして、コア人材は長期雇用、業績に連動してクビを切るのは有期雇用労働者、と使い分けを考えているのではないのか。

 八田教授は、有期雇用を繰り返すことができるようになれば、企業は(そういう有期労働者とは別の)いわゆる正社員に対し、人的投資を行うようになる、と言いたいのだろうか。ものすごく論理の飛躍はあるが考えられないでもない。つまり、労働者のほとんどは有期雇用にしてしまっていつでも採用/クビ切りできるようにする、そして、企業にとってのコア人材だけを長期雇用すべく人的投資をする、と。しかしこんな社会が明るい未来だろうか? 少なくとも有期雇用者について「給与が大幅に高まるだろう」なんていうことはありえない。

 「【八田教授いわく】有期雇用に雇い止めを強制していることは、人的資本蓄積を生まず、結果として有期雇用の賃金を不当に低くしている。これが、有能な人材の流動性を妨げている主因である」。法律は有期雇用の雇止めを「強制」などしていない。たしかに今の無期転換ルールは、雇止めを誘発するという欠陥はあるかもしれない。しかしそういうのは悪質な企業のやることだ。そんな脱法行為をしているブラック(まがい)企業があったら、労基署が指導や企業名公表などをできるようにすればよい。しかも、この無期転換ルールが実際に社会的影響を与え始めるのは施行から5年後の平成30年前後からであって、「有期雇用の賃金を不当に低くしている」という結果が、今の時点で表れているはずがない。無期転換ルールが、有期雇用労働者の賃金水準を押し下げてしかも有能な人材の流動性を妨げている主因なのだとすれば、無期転換という規制がなく、有期雇用を更新し続けることができたこれまでは、有期雇用労働者の賃金が上昇し、有能な人材が流動していたとでもいうのだろうか。

 八田教授は経済学者であり、物事を合理的に考えることのできる人であるはずなのだから、ここまで法律の解釈をねじ曲げて、しかも現実を無視した考えを披露しているところをみると、この教授の意見表明の背後に大きな利権が存在しているか、あるいは強烈に歪んだ人生観があると感じざるを得ない。

 つまりは、八田教授が言いたいのは、いつでもクビ切りができ、使い続けたいときは更新し続けられる有期雇用労働者の割合をもっと高めて、企業のコストを削減すれば、企業の収益は(短期的に)上がるということであろう。しかしこんなことでは企業の収益は高まっても、一部の富裕層と大多数の低所得層が構成する社会になって、国民全体の生活水準は低下してしまう。

 政治家は、この八田教授のような扇動的な意見を利用すべきではないと思う。

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2013-06-20

正社員の解雇を金銭で解決するか、正社員を限定正社員に格下げするか

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 最近の安倍首相と自民党議員の動きは度を越していると思う。事故を起こしたら国際紛争にも発展しかねない原発セールス、教科書会社の社長を呼び出して編集方針に圧力をかけるなど。外には「売国」しつつ、内では排外思想を煽るこのような手口は許しがたい。

 「アベノミクス」で一部の資産家が儲けただけだというのに、世論の醸成というのはいとも簡単なもののようで、安倍内閣の支持率は高水準のようだ。やっぱり、「世の中は金持ちが動かしているんだなあ」と実感する。2000年代、「いざなぎ越え」好景気でも賃金は下がり続けたというのに、未だ国民の多くは、「景気が良くなるとウチらにもおこぼれが回ってくるはずありがたや」と信じているのだろうか。

 「アベノミクス」に国民がだまされている間に、政府内では国民生活に打撃を与える大事なことが、着々と議論されているようだ。「なんとか会議」が色々あってややこしいのだが、安倍政権の主要な「会議」としては下記の3つがある。

 産業競争力会議と、経済財政諮問会議と、規制改革会議である。

 産業競争力会議の議員は下記の通り。
 山本一太 内閣府特命担当大臣(科学技術政策)
 稲田朋美 内閣府特命担当大臣(規制改革)
 秋山咲恵 株式会社サキコーポレーション代表取締役社長
 岡 素之 住友商事株式会社 相談役
 榊原定征 東レ株式会社代表取締役 取締役会長
 坂根正弘 コマツ取締役会長
 佐藤康博 株式会社みずほフィナンシャルグループ取締役社長 グループCEO
 竹中平蔵 慶應義塾大学総合政策学部教授
 新浪剛史 株式会社ローソン代表取締役社長CEO
 橋本和仁 東京大学大学院工学系研究科教授
 長谷川閑史 武田薬品工業株式会社代表取締役社長
 三木谷浩史 楽天株式会社代表取締役会長兼社長

 経済財政諮問会議の議員は下記の通り。
 麻生太郎 副総理 兼 財務大臣
 菅 義偉 内閣官
 甘利 明 内閣府特命担当大臣(経済財政策)兼 経済再生担当大臣
 新藤義孝 総務大臣
 茂木敏充 経済産業大臣
 黒田東彦 日本銀行総裁
 伊藤元重 東京大学院経済研究科教授
 小林喜光 三菱ケミカルホーディングス代表取締役社長
 佐々木則夫 株式会社 東芝取締役、代表執行社長
 高橋 進 日本総合研究所理事長

 規制改革会議の委員は下記の通り。
 岡 素之 住友商事株式会社相談役
 大田弘子 政策研究大学院大学教授
 安念潤司 中央大学法科大学院教授
 浦野光人 株式会社ニチレイ代表取締役会長
 大崎貞和 株式会社野村総合研究所主席研究員
 翁 百合 株式会社日本総合研究所理事
 金丸恭文 フューチャーアーキテクト株式会社代表取締役会長兼社長
 佐久間総一郎 新日鐵住金株式会社常務取締役
 佐々木かをり 株式会社イー・ウーマン代表取締役社長
 滝 久雄 株式会社ぐるなび代表取締役会長
 鶴 光太郎 慶応義塾大学大学院商学研究科教授
 長谷川幸洋 東京新聞・中日新聞論説副主幹
 林いづみ 永代総合法律事務所弁護士
 松村敏弘 東京大学社会科学研究所教授
 森下竜一 大阪大学大学院医学系研究科教授

 いったいどの会議にどんな人が参画しているのか頭の中がごちゃごちゃしていたので、上記のようにまとめてみた。大学教授が入っているのは珍しくないが、企業役員もずいぶん多く参加している。何か自分の企業・経済団体に利益になることを引き出したい、という思惑をもって参加しているのだろう。そうでなければ役員としての任務を果たしていることにならないからだ。もし何か公益を考えて参加しているのであれば、よほど役員の仕事はヒマだということなのだろうか。

 話題の「解雇の金銭解決」が議題に上がったのは産業競争力会議と、規制改革会議のようであり、「限定正社員」が議題に上がったのは規制改革会議のようである。これら2つの考え方については、もうすでにあちこちで話題になっており、新聞等の媒体で取り上げられたり、専門家の人々もあれこれ意見を表明しているようなので、それらを整理したりはしないことにする。

 「金銭解決」「限定正社員」については様々な意見があるが、いずれにしてもいえるのは、とにかく経営側は「いつでも労働者をクビ切りできるようになることを望んでいる」ということである。この執念は驚くべきことだ。「金銭解決・限定社員は労働者にとってもメリットがある」などという意見は聞くに値しない。「高給取りの年配労働者をクビにすれば若者の雇用が増えますよ」もウソ。「雇用流動化を進めれば=クビ切り自由にすれば成長産業に人材がシフトして経済成長します」もウソ。団塊の世代が大量退職しても若年層の非正規率は高いし、そもそも解雇自由にしなくても成長産業がよりよい労働条件を出せば人はそこへ流れる。というか、日本で「解雇規制が厳しい」というのがそもそものウソ。中小企業の多くは解雇規制など気にしていないところが多いし、大企業でもリストラが次々行われているのは見ての通りである。

 結局は、解雇規制の緩和を唱えるというのは、経営層が自らの能力不足を棚に上げて、「働いているヤツが悪い」と責任転嫁している姿だ。自分の報酬や退職金や株価など目先の利益だけを考えているだけだ。就労支援や社会保障も乏しく、失業すれば一気に人生転落、子を大学にやるのも難しくなるという危うい社会で、クビ切り自由が蔓延すれば、社会不安が一気に増大して、景気回復どころではなくなる。

 「限定正社員」は、いまはやりの「ジョブ型」の働き方であり、転勤・残業など一方的な人事権に従わなくてもよい理想的な考えだ、と評価する向きもあるようだ。その代わり事業所閉鎖などの場合に解雇されるなど、雇用保障は弱まる、と。つまり、雇用保障が弱まることを覚悟すれば強力な人事権に対抗できるという働き方は「アリ」ということなのだろうが、冷静に考えればそんなに都合よく物事は回らない。雇用保障だけが弱まって、解雇をチラつかせてより厳しい労働条件が労働者に突きつけられるのがオチである。

 また、「限定正社員」は、先般改正のあった労働契約法により、有期雇用労働者が無期雇用労働者に転換した場合のひとつの姿だとして肯定的な評価をする向きもある。「限定正社員」は、雇用不安定な有期雇用労働者よりまだマシだろう、というわけである。しかし企業は、いかに改正労働契約法を潜脱して、無期転換をしなくて済むようになるかということを必死で考えている。したがって、有期雇用労働者が限定正社員になることはめったにない。実際、6月5日の規制改革会議答申を見ると、「同一企業で無限定正社員がジョブ型正社員に転換する場合は、労働条件決定の合意原則を踏まえる必要がある」とだけ書かれていて、旧来の正社員を(雇用保障)限定正社員に転換する想定(発想)しか書かれていないのである。

 つまり解雇の金銭解決も、限定正社員も、実質的に解雇規制は厳しくない中で、解雇したときに起こる紛争をできるだけ抑えたい・たとえ紛争が起きても短期間で処理したい、という思惑の表れといえるのではないか。訴訟コストを下げたいということなのだろうが、労働契約も契約のひとつであり、一方的にそれを解約しようとすれば紛争は避けられない。それは覚悟すべきことではないか。

 あらためて考えてみれば、「解雇規制」といわれているのは、労働契約法の下記の条文である。

(解雇)
第16条 解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。

 これに加えて、よく知られているように整理解雇の4要件(要素)が判例法理として定着しているということである。判例は個々の紛争を(その時々の事情に応じて)解決しているので、「判例法理を変えろ」といくら政府の会議で主張しても決めてみても無駄なことである。そうすると法律を変えるしかないということになるが、現行の上記条文をどう変えるというのだろうか。削除してみたって、そもそも上記条文は判例法理を明文化したと言われているのであるから、何も変わらない(もちろん、条文を削除したということは立法府のそれなりのメッセージであるから、解雇権濫用判断において労働者に不利な傾向が出るかもしれないが…)。削除しても判例法理を動かすことができないのであれば、明文で現在の解雇規制を緩めるしかない。

(解雇)
新第16条 解雇は、客観的に合理的な理由を欠いていても、社会通念上相当であると認められない場合でも、その権利を濫用したものではなく、有効とする。

 とすれば、いまの経営側は納得なのだろうか。解雇規制を緩めてほしいというのなら、批判を受けることを覚悟してこのように正直に主張すればよい。

 このようにみると、解雇規制の緩和も限定正社員も、何か法律で明文化できるものではなさそうだ。法律で明文化しようとすると、その意図が明らかになり、とても成立されられない代物になるのである。客観的に合理的な解雇は、今でも認められているし、勤務地限定の契約を結ぶことも決して禁じられていない。それを、何かお上に面倒をみてもらえると思って「なんとか会議」に集合するのは見苦しい。人材の流出や紛争多発を覚悟したうえで、解雇制度でも限定正社員でもそのしくみを各企業に作ればよいのだ。要するに解雇規制の緩和も限定正社員も、法律の問題ではなく、人事管理・労務管理の問題ということになる。

 私は決して、一度人を雇ったら、いくら不出来な人材でも定年まで面倒を見てやらなければならないなどと言いたいのではない。今の労働契約法と判例法理で、個別に紛争を解決すればよいと思う。裁判以外にも、紛争解決の道は今やたくさんある。衰退産業が出てくるのは避けられないだろうから、激変緩和・救済のための特別な立法もあり得ると思う。労働契約に細かく法律が介入しすぎるのも変だ。労働基準監督官を増やすなどして労基法違反の取り締まりを強くすること、労使委員会を組織させて労使対等に近付けること、失業しても生活に困らないだけの給付・就労支援をすること(とりわけ失業者の子が困窮しないようにすること)など、いわば労働契約の側面を支援するような政策が肝心だと思う。このようなことを議論するためには、特定の業界の代表者を入れるなどしてはいけないだろう。特定の業界から支援を受けた政治家を参加させることもいけないだろう。

 やや話は変わるが、先日、現在議論されている民法(債権法)改正に関して、経団連から、「『民法(債権関係)の改正に関する中間試案』に対する提言」が発表された。私的自治・合意原則を口実に、社会的弱者の保護を図る改正にことごとく反対するひどい内容だが、そこで共通しているのは、「暴利行為の明文化や、約款規制の明文化はやめて民法の一般条項たる公序良俗違反の解釈に委ねるべきだ」という主張である。解雇規制については、「濫用と判断されないために明文化してくれ」といい、都合の悪い債権法の明文化には反対する、けしからんご都合主義と言うほかない。

 アベノミクスの「規制改革」について、「参院選を意識して今一歩踏み込めなかった」というような批評をするマスコミが多い。何となくそれに乗せられて「もっと規制改革を!」という世論が盛り上がってしまいそうだが、「今一歩」ということは、より踏み込めということなのであり、それはつまり、雇用政策についていえば、もっと解雇自由な世の中にせよ、ということなのである。こういうマスコミの報じ方はいかがなものか。

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