第15回選手権の棋譜がCSAのHPで公開されたようなので、私的に面白そうな棋譜を見つけたら逐一感想を書きたいと思う。
早速、序盤戦術考察シリーズで一本。第15回選手権二次予選謎的電棋-丸山将棋戦と丸山将棋-磯部将棋戦から。

今回丸山将棋は一次予選から10組枠ギリギリながらも二次へ進出。謎電から見れば過去の対戦成績は悪くない。逆に言えば丸山将棋には作戦を練る必要があったわけで、本局には意表を突かれた。

丸山将棋は全く歩を突いてこないのである、しかも飛先すら。自陣内のみで駒を動かし、ただひたすら敵の攻めを待つ戦法である(左図[*1])。これには謎電の序中盤の弱点を露呈した形となり、結局引き分けになった。実際引き分けでなければ謎電が時間切れ負けを起こしていた。121手目の千日手引き分けが成立した段階での消費時間(謎電側の記録)は、謎電12分51秒、丸山将棋1分00秒と約13倍の違いがあり、千日手を回避しつつ無意味な手を繰り返せば、いずれ負けていたわけだ。

この心配がそのまま当たったのが磯部将棋戦(右図[*2])である。最後には実に1057手まで進み、正確には「審判の判断による後手磯部将棋負け」となった。恐らく時間切れ負け[*3]なのだが、磯部将棋側のプログラムが終了[*4]し棋譜がないために、正確な累積時間が判らないからだ。

敵のプログラムに異常終了を起こさせ「戦わずして勝つ」戦法。まるで昔の日本海軍的思想を継承したような戦法である。結局のところ勝負は結果だ。相手がどんな戦法であろうとルールに従っている以上、決して責めることはできない。現代の計算機将棋においては正直言ってお粗末ではあるが、完全に丸山将棋の作戦勝ちである。スウェーイングを繰り返す相手に一発入れらない方が(引き分けの謎電を含めて)反省する必要がある。


[*1] 謎的電棋-丸山将棋戦初手から32手までの棋譜:
▲76歩▽32金▲68銀▽62玉▲66歩▽42銀▲77銀▽51銀▲58金右▽52銀▲56歩▽31角▲48銀▽42角▲78金▽51角▲69玉▽41銀▲36歩▽42銀▲79角▽31銀▲67金右▽22銀▲68角▽52玉▲79玉▽62銀▲16歩▽72金▲37銀▽42角
[*2] 丸山将棋-磯部将棋戦初手から35手までの棋譜:
▲78金▽84歩▲48玉▽62銀▲68銀▽42玉▲59銀▽32玉▲58銀▽34歩▲79角▽85歩▲68角▽74歩▲59角▽73桂▲69銀▽51金右▲68銀▽75歩▲79銀▽42金右▲88銀▽14歩▲58玉▽54歩▲48銀▽86歩▲同歩▽同飛▲87歩▽81飛▲38金▽52金上▲68角
[*3] 丸山将棋側の棋譜でみると、926手目▽43金寄で後手時間切れ負け。謎電で調べた限り、同一局面2回目が全く存在しない。即ち、磯部将棋側が完全に千日手を回避していることになる。詳細についてはCSAのHPで公開されている棋譜を参照のこと。
[*4] その昔、選手権には300手ルールというのがあり、それ以上長い棋譜をプログラム内部に保持する必要がなく謎電は当初512手分の固定的な領域しか確保してなかった。しかしミクロコスモスの詰手順を保持できるように5年ほど前にとりあえず2048手分にサイズを変更していたのだが、磯部将棋では1024手分の領域しか内部に確保していなかったらしい。
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計算機将棋の序盤戦術考察第4弾は、第14回選手権本戦KCC将棋-TACOS戦から。
対局が始まって一瞬で左図まで進行[*1]した。記録上は各手1秒となっているが、現選手権のルールは1秒未満であっても「0秒」ではなく「1秒」扱いとなるためだ。お互いに同じ定跡データを持っている対局では、このようなことがよく起きる。従ってこの将棋は、39手進んだ時点でKCC将棋20秒、TACOS19秒しか消費していないことになる。
ここで注目すべき点は、戦法やその駒組ではなく「持時間の使い方」である。先にも書いたが、持時間各25分(秒単位で積算)切れ負け[*2]なので、持っている時間をいかに巧く配分するかもポイントになる。
プロの将棋でも時間配分は人によって様々で、場合によっては棋風と言えるかもしれない。間合い・仕掛けの時点で時間を費やすことが多いが、計算機将棋の場合、このあたりあまり考慮されていないように思われる。序盤は、相手が明らかな悪手を指さない限り、多少深く読んだくらいでは良くも悪くもならないので、多くの時間を費やすのは得策ではない、と考えていることが多いからだろう。全体の配分は、概ね、序盤:中盤:終盤=1:4:5くらいだろうか。殆どが終盤重視型と思われる。
つまりは、「序盤は定跡を使って無難に進めて、中盤から読みを競いましょう」というわけで、これも一つの「序盤戦術」になる。

[*1] この将棋の39手までの棋譜は次の通り。
▲76歩▽34歩▲26歩▽44歩▲48銀▽42飛▲68玉▽62玉▲78玉▽72玉▲56歩▽82玉▲58金右▽32銀▲96歩▽92香▲77角▽43銀▲88玉▽91玉▲78銀▽82銀▲57銀▽52金左▲86歩▽71金▲87銀▽64歩▲78金▽63金▲25歩▽33角▲66歩▽45歩▲85歩▽44銀▲67金右▽54歩▲48飛
[*2] 例え敵玉を詰め上げていても、指した時点で25分00秒なら負けとなる。
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計算機将棋の序盤戦術考察第3弾は、第14回選手権謎電-葵戦から2局。
結果を先に書くと、どちらも謎電の完敗である。なお、この対局は日を改めて行われている。


この2局の序盤の滑り出しの手順を次に示す。
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一次予選(1日目):▲76歩▽34歩▲66歩▽84歩▲68銀▽32銀▲77銀▽42飛▲58金右▽62玉(上左図)
二次予選(2日目):▲76歩▽34歩▲66歩▽84歩▲68銀▽32銀▲77銀▽74歩▲58金右▽42飛▲56歩▽72銀▲48銀▽62玉(上右図)
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さて、▲76歩▽34歩に対する▲66歩は、振飛車を目指すならば「ある手」だが、自ら角道を止めて消極的と言える。謎電は、その直後の▽84歩を見て「後手は居飛車」と決め付け、▲68銀~▲77銀と自分勝手に矢倉を目指し始める。
一次と二次で▽42飛のタイミングが異なるが、これは葵の作者の作戦だろう。巧くやられたな、と思った。なお、選手権は計算機同士の対局だが、対局前の調整はルール違反ではない。人間が介入できる戦術としてフェアである。このような指し廻しに、どう工夫しどう対処しているかを実戦で問うことができるわけだ。
何の工夫も対処もしてない、序盤に疎い将棋プログラムにとっては「感覚を破壊された一手」となって自滅するのである。
私自身に猛省を要する対局だった。
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計算機将棋の序盤戦術考察第2弾は、第14回選手権二次予選うさぴょん-謎電戦[*1]から。
この将棋は、初手から、▲26歩▽84歩▲25歩▽32金▲24歩▽同歩▲同飛▽23歩▲26飛▽34歩▲78金▽42銀▲16歩▽62銀▲17桂と進む。
左図は、計算機将棋20年の歴史には勿論、将棋400年の歴史にも無い序盤だろう。
この一局は、選手権において次回予選シード権をかけたうさぴょんのだんな[*2]と私の真剣勝負である。お互いに虎視眈々と相手に失着が出るのを待っているかのようであった。その模様は、サイエンスZERO(NHK教育テレビ)において、1度ならず2度までも(数秒のカットだが)放映されている。実に対局姿が不気味だ。
因みにうさぴょんは、13手目を指した時点で持っている定跡DBから外れ、指将棋思考に入ったようである。そこからうさぴょんの少考が始まった。
更に、▽41玉▲96歩▽54歩▲97角▽52金▲24歩▽同歩▲同飛▽33銀▲28飛▽24歩▲95歩▽31角▲同角成▽同玉▲26飛▽74歩▲15歩▽73銀▲96飛▽44歩▲25歩▽14歩▲24歩▽15歩(左図)と、なにがなんだか、わけがわからない。
計算機将棋の序盤は、定跡から外れ戦形認識が出来ない形になると、まさに「壊れ」てしまうのである。
この40手まで(互いに各20手指した時点)の総消費時間が、うさぴょん6分40秒、謎電45秒となっていた。現在の選手権の持時間は各25分なので、既に残時間で謎電がアドバンテージを持つことができた。
左図は、この将棋の終盤局面。ここから謎電は▽58金▲79玉▽68金▲同玉▽28竜▲79玉▽87角成までの7手必至を読み切った。
98手目▽58金の考慮時間は5秒。100手目の▽68金には12秒かかっているが、これは以前の反省から頓死チェックを強化していた為だ。
謎電が▽87角成のトドメを指した時、私はうさぴょんのだんなに「これで後手玉が詰めば、私の負け」と、暗に勝ちを宣言した[*3]。
なお、▽87角成に▲同金は、▽78銀▲88玉▽87銀成▲同玉▽86香▲同玉▽88竜▲96玉▽86金までの9手詰がある。
闘い終わって日が暮れて[*4]:
以上の2局から導き出される結論は、「YSS<うさぴょん<謎的電棋」という力関係である[*5]。

[*1] 計算機将棋の歴史においては突っ込みどころ満載と言える一局である。この棋譜を持ち出し、公的といえる場所において解説することは漫才行為と言える。
[*2] うさぴょんのだんなとは、うさぴょんの作者の池さんのこと。
[*3] 勿論、前述の謎電-高田将棋戦の教訓である。私はそう宣言してちょー偉そうに、ずいっと席を立って外に出たが、内心、逆転したらどうしようとビビっていた。
[*4] うさぴょんのだんなの決まり文句を参考にさせて頂いた。
[*5] と、YSSの山下さんにそう言ったら、笑い飛ばされました(泣) 真実は、書くまでもなく「YSS>うさぴょん>謎的電棋」である。
選手権の実戦譜の中からいくつかをピックアップし、計算機将棋の序盤戦術をシリーズで考察する。
まず第13回選手権二次予選YSS-うさぴょん戦[*1]から。
この将棋は、初手から、▲76歩▽34歩▲96歩▽42飛▲22角成▽同飛▲65角▽54角▲83角成と進んだ。5手目は手損覚悟の一手だが、6手目▽同飛も棋理的に変。▲65角から馬を作り先手が一本取った形である。
3手目の▲96歩は様子見の手で、つまりは後手に「居飛車ですか、それとも振飛車にしますか」と問うたわけだ。後手が振飛車を目指すなら▽44歩だが、現代の将棋では4手目は悪手と見なされない。ここで興味深いのは5手目である。
計算機将棋の場合、序盤早々手損を承知の上で角交換をするのは、定跡を外して強引に力戦形に誘導するのが主目的で、後手が序盤に工夫を怠っていれば、簡単に決着がつき易い。つまりYSSは序盤に自信を持っていることが暗に読み取れるわけだ。実際、馬を作って先手満足である。
ところが、将棋というゲームは単純ではない。左図は、34手進んだ中盤局面。後手の形だけを見ると、居玉のまま金は動いておらず、銀は2枚とも歩越しだ。しかしながら、7筋からの攻めの準備と、2筋の敵飛先を桂と角でキッチリ押えて守っている点は、「明らかな悪形」とは言えない。むしろ後手が主導権を持って積極的に攻める作戦を成功させた形である。
以下、蛇足になってしまうが、左図は、その終盤である。ここで後手の手番だが、先手玉に必至を掛ける手順がある。▽77角成▲86飛▽73銀▲75銀▽55馬までの5手必至。本譜もその通りに進む。
この手順部分の互いの考慮時間は最後に示す。
後手の思考時間が16→4→0秒[*2]と変化しているが、これは「この時うさぴょんは勝ちを読み切っていた」ことを意味している。
うさぴょんは終盤において、充分有段者である。決して侮ってはならない。この一局から学ぶことは「勝負に油断は禁物」ということだ。
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  72 : ▽7七角成           ( 0:00:16.000/ 0:18:46.000)
  73 : ▲8六飛             ( 0:00:01.000/ 0:05:18.000)
  74 : ▽7三銀             ( 0:00:04.000/ 0:18:50.000)
  75 : ▲7五銀             ( 0:00:01.000/ 0:05:19.000)
  76 : ▽5五馬             ( 0:00:00.000/ 0:18:51.000)
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[*1] 計算機将棋業界においてはタブーとも言える一局である。この棋譜を持ち出すことは、個人で楽しむ分にはまったく問題はないが、公的といえる場所において解説することは反社会的行為と言える。やって良いことと悪いことがあるわけだ。ですので、お願いですからYSSの山下さんにはチクらないでください見逃してください(笑)
[*2] これはYSSの棋譜の記録で、うさぴょんの棋譜では、15→4→1秒となっている。両者の名誉のために書くが、これは不正ではない。為念。