★1953年トヨペット・スーパー 神風タクシー黎明期のトヨペット ~自動車カタログ棚から 180 | ポルシェ356Aカレラ

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★戦後GHQにより禁止されていた日本の乗用車生産が1947年(昭和22年)に再開され、同年トヨタは戦時中のAC型を少量追加生産すると共に意欲的な新型車トヨペットSA型(本シリーズ第145回記事参照)を発表した。
SA型は1952年(昭和27年)5月までの5年に亘り計215台が生産されたが、SA型と平行して、1948年(昭和23年)6月にSC型、1949年(昭和24年)3月にSBP型・SB型、1950年(昭和25年)にSBX型・SDX型・SD型・SDY型・プリウスの祖先とも言える電気自動車のデンソーSDEX型、1951年(昭和26年)3月にSEY型・SBY型、同8月にSFK-Ⅰ型・SDYコンバーチブル、1952年(昭和27年)にはSGK-Ⅰ型・SF型・SGK-Ⅱ型・SFN型・SDK型・SFK-Ⅱ型と夥しい種類の乗用車を生産した。何れも多くても数百台といったレベルの少量生産であり、この時期の車両は殆ど現存していないだろう。少量生産であった上に、この時代はまだトヨタがボディを自社製造していなかったために外注したボディメーカー毎にエクステリアデザインが異なったこと、複数のシャシーに同一ボディが載せられる例まであったことなどから車種体系が非常に複雑で判りにくい。車種型式の初めのSは995cc27psのS型エンジン搭載を示すもので、2文字目が基本的には開発順のシャシー型式、3文字目が外注したボディメーカーを示すというのが原則ではあった。SAの次のSBというのは小型トラック用のシャシーに乗用ボディを載せたものであり、その後のSC・SD・SE・SFは乗用車専用シャシーであった。戦後1952年までのトヨタ製乗用車は全てが僅か27psのS型995ccエンジン搭載であり、シャシーおよびボディだけは目まぐるしい変遷をみせたのである。

★1945年(昭和20年)の終戦時、日本の小型車の規格は僅か排気量750cc以下であったのをトヨタ自動車社長の豊田喜一郎が世界情勢を関係各方面に説明して1000ccまでを小型車枠とすることに成功した。その後、1952年(昭和27年)には1500ccまでを小型車枠とすることになり、トヨタでは水冷4気筒OHVのR型エンジンを新規開発し、それを搭載したトヨペット・スーパーRH型を1953年(昭和28年)9月に発売した。当時の主要な購買層であったタクシー業界からはS型エンジンのパワーアップを求める声が高まっていた中での待ちに待った発売であり、東京・京橋のブリジストンビルで開催されたトヨペット・スーパーの発表会は大盛況となった。4輪リーフリジットサスの頑丈なシャシーに従来より20ps以上もパワーアップしたR型エンジン搭載のスーパーは、非力だった国産車へのコンプレックスが解消されたタクシードライバーが水を得た魚の如く猛烈かつ強引な走りを見せたことから「神風タクシー」の異名をとり、1950年代前半(昭和20年代後半)のタクシーキャブとして歴史に名を残すクルマとなった。

★トヨペット・スーパーの時代も尚まだトヨタではボディの自社製造が出来ず2社に外注された。関東自動車工業製ボディのRHK型と新三菱重工製ボディのRHN型である。RHK型はS型エンジンを搭載した従来のSFK型のデザインをそのまま引き継ぎ、RHN型はSFN型を発展させ、グリルは荒川鈑金製のフォード・コンサルを範としたコンサル型トヨペットSF型のデザインを引き継いだものが付けられた。スーパーの製造は、1955年(昭和30年)1月にクラウンRS型およびマスターRR型が登場する直前の1954年(昭和29年)12月までの僅か1年4ヵ月という短期間であったが、RHK型が約3600台、RHN型が2015台製造された。当時はクルマを造る端から売れる時代で製造が間に合わなかったための苦肉の策として外観は同じまま従来の非力なS型エンジンを搭載したSHK型130台、SHN型約100台も製造された。


●1954年トヨタカレンダーより 「トヨペット・スーパーRHK型」 (縦54×横43cm)
右下に「KAZU」のサインがあるが画家不詳。この絵柄のポストカードも発行されている。
$ポルシェ356Aカレラ-カレンダー


●トヨタ広報誌「流線型」1953年10月号 表紙
発売されたばかりのトヨペット・スーパーに若い女性客2人が今しも乗り込もうとする写真が表紙だが、よく見ると車両にはナンバーが付いていない。「タクシーのりば」の看板からすると、どこかの駅前?
$ポルシェ356Aカレラ-流線型


【主要スペック】 1953年 トヨペット・スーパー(RHK/RHN型) 
全長4280㎜・全幅1590㎜・全高1600㎜・ホイールベース2500㎜・車重1590kg・FR・R型水冷4気筒OHV1453cc・最高出力48ps/4000rpm・最大トルク10kgm/2400rpm・乗車定員5名・変速機3速MT・最高速100km/h・販売価格98万円(現在の貨幣価値では3000万円前後?)


●1950年8月発行? トヨペット・セダン 総合本カタログ (B5判・4つ折8面)
トヨタカタログNo: 印字なし。裏面にシャシー型式はSD型の記載があるが、カタログのどこを見ても車両型式の記載は全くなし。昭和20年代の黎明期のトヨペットについては、自動車史研究の第一人者だった五十嵐平達氏の著書「トヨタ」(二玄社1972年発行)が最も詳しく、後に出た書籍では五十嵐氏の著書からの引用が多いが、それらを参照してもこの時期の車両型式は複雑でよく判らない。SD型シャシーデビューに際してSB型シャシーの車両も含めて扱った過渡期のカタログ?表紙は1949年から関東自工がSB型トラックシャシーにタクシー用ボディを載せたSB型が発展したSDX型だろうか。
$ポルシェ356Aカレラ-50表紙
中頁から
関東自工製のSBYもしくはSDK型?丸いドアミラーが付いている。この時期は昭和30年代に普及したフェンダーミラーではなくドアミラーが一般的だった。
$ポルシェ356Aカレラ-50中(1)SD絵
$ポルシェ356Aカレラ-50中(2)SD写真
$ポルシェ356Aカレラ-50中(3)SD説明
三菱製SBY型?通称、関西型と呼ばれた弧を描いたアーチ型グリルが特徴
$ポルシェ356Aカレラ-50中(4)関西写真
$ポルシェ356Aカレラ-50中(5)関西説明
表紙の絵と同じSDX型?
$ポルシェ356Aカレラ-50中(6)SB写真
$ポルシェ356Aカレラ-50中(7)SB説明
SDXベースの4ドアワゴン(型式不詳)。この時代の小型ワゴンで既に3列シート。
$ポルシェ356Aカレラ-50中(8)ワゴン写真
$ポルシェ356Aカレラ-50中(9)ワゴン説明
裏面スペック: シャシー型式はSD型と記載されている。
$ポルシェ356Aカレラ-50中(10)スペックSD型


●1951年8月発行 トヨペット・セダン SF型 本カタログ (A4判・4つ折8面)
トヨタカタログNo: 154。ホイールベースが若干伸びて2500㎜となった。表紙はフォード・コンサルに良く似た、トヨタ自社デザインで荒川鈑金製のコンサル型トヨペットSF型。
$ポルシェ356Aカレラ-51表紙
中頁から
SF型(荒川鈑金製だが設計はトヨタ自工のため、形式名は2文字のSF)
$ポルシェ356Aカレラ-51中(1)SF
SFN型(中日本重工 名古屋製作所製)、当時のシボレーに範をとったと言われるスタイル。3文字目のNはボディメーカー中日本重工のイニシャル。
$ポルシェ356Aカレラ-51中(2)SFN
SFK型(関東自動車工業製)、当時のデソートに似たグリルから通称デソート型トヨペットと言われたモデル。3文字目のKはボディメーカー関東自工のイニシャル。
$ポルシェ356Aカレラ-51中(3)SFK
リアスタイルの絵は珍しい。
$ポルシェ356Aカレラ-51中(4)リアスタイル
室内
$ポルシェ356Aカレラ-51中(5)室内
裏面スペック
$ポルシェ356Aカレラ-51中(6)スペック


●1952年8月発行 トヨペット・セダン SF(Ⅱ)型 本カタログ (A4判近似・4つ折8面)
トヨタカタログNo: 180。コンサル型のSF型がカタログから落ちてSFKとSFNの2種となった。表紙はSFK-Ⅱ型の正面。1951年はフロントグリルの縦向きナイアガラが7本だったのが9本に増えている。
$ポルシェ356Aカレラ-52年表紙
中頁から
緑のSFK-Ⅱ型はグリルが変った他、リアホイールアーチ手前にもモールディングが追加された。赤のSFN-Ⅱ型はフロントグリルの模様が前年より粗くなった。
$ポルシェ356Aカレラ-52中(1)2種類の絵
上:ダッシュボード、下:ボディカラー。ボディカラーはSFNがグレイ系、SFKがグリーン系の各1色のみの設定。
$ポルシェ356Aカレラ-52中(2)ダッシュボードとボディカラー
S型28馬力エンジン
$ポルシェ356Aカレラ-52中(3)28馬力エンジン
シャシー
$ポルシェ356Aカレラ-52中(4)シャシー
裏面スペック
$ポルシェ356Aカレラ-52中(5)スペック


●1953年9月発行 トヨペット・スーパー リーフレット (B5判・両面表裏1枚)
$ポルシェ356Aカレラ-スーパーペラ表
裏面
$ポルシェ356Aカレラ-スーパーペラ裏


●1953年9月発行 トヨペット・スーパー 本カタログ (A4判・4つ折8面)
トヨタカタログNo.210。表紙に描かれた「女性が自らハンドルを握っている姿」は当時としては相当に斬新だったはず。
$ポルシェ356Aカレラ-スーパー本表紙
中頁から
新三菱重工製ボディのRHN型
$ポルシェ356Aカレラ-スーパー1中RHN
関東自動車工業製ボディのRHK型
$ポルシェ356Aカレラ-スーパー2中RHK
シャシー
$ポルシェ356Aカレラ-スーパー3中シャシー
R型48馬力エンジン
$ポルシェ356Aカレラ-スーパー4中48馬力エンジン
裏面スペック
$ポルシェ356Aカレラ-スーパー5中スペック


●1955年9月発行? トヨペット再生車 専用カタログ (B5判・4つ折8面)
トヨタカタログNo.331。表紙はトヨペット・スーパーRHN型だが、1955年1月発売の初代クラウンRSのカタログNoが297なので、クラウン登場後に発行されたカタログ。1954年6月に設立されたトヨペット整備(株)が行なっていた老朽車・事故車を新車同様に再生する事業のカタログで、今回のオマケ動画で見られる通り当時は新車の絶対数が少なく途方もなく高価でもあったのでメーカー自らも大掛かりな再生をして販売していた。このカタログには新車としては販売されていないトヨペット・スーパーのライトバンやダブルピックアップなど非常に珍しいボディバリエーションが掲載されている。
$ポルシェ356Aカレラ-再生表紙
中頁から
$ポルシェ356Aカレラ-再生1中
$ポルシェ356Aカレラ-再生2中
トヨペット・スーパーベースのライトバンとダブルピックアップは珍車
$ポルシェ356Aカレラ-再生3中珍車



★オマケ(その1): トヨタ特注 1/18スケール 1952年 トヨペット SFN-Ⅱ型 シガレットケース
全長23cm。アンチモニー製。戦後各メーカーで連綿と製作された自社のクルマ型シガレットケースとしては極く初期のもの。フロントグリルに七宝焼きのトヨタエンブレムが奢られているのが特徴。フロントマスコット部分を押すとライターが飛び出るタイプのバリエーションあり。
$ポルシェ356Aカレラ-52(1)
$ポルシェ356Aカレラ-52(2)
$ポルシェ356Aカレラ-52(3)
$ポルシェ356Aカレラ-52(4)七宝焼


★オマケ(その2):  トヨタ特注 1/18スケール 1953年 トヨペット・スーパーRHK型 シガレットケース
全長23cm。アンチモニー製。
$ポルシェ356Aカレラ-スーパー(1)
$ポルシェ356Aカレラ-スーパー(2)
$ポルシェ356Aカレラ-スーパー(3)


★オマケ(その3): 1957年 日本の自動車事情 「自動車 ニッポン」
フジキャビンの記事でもアップした動画です。今回の記事内容より数年時代が新しいですが、貴重な再生車の姿もみられます(1:15位から)。