今年の2月、お気に入りの東京都写真美術館を訪れた。閉館間際だけれど、何か行かなくちゃ行けない!そんな思いに駆られ、写真美術館に入った。今回は、予定に無かった行動なので、何をやっているのかは、まったく知らなかった。ところが、ホールに入って、チラシをあれこれ見ていたら、「文学の触覚」と言う文字が目に飛び込んできた。文学?写真美術館で?と疑問に思っていたら、穂村弘と言う文字が目に止まった。ん?んん?穂村・・・弘・・・?え?穂村さん?チラシを1枚つかむと、文学の触覚と題された会場のある地下へ向かった。

 入り口を入ると、ゲーム機のDSが数台並び、DSで読む文学が公開されていた。また、白壁には、小説や詩が投影されていた。その中に混じって、穂村さんの短歌が白壁に黒の文字で描かれていた。
 それは、まさに描かれていたと呼ぶにふさわしい。書かれたと言うより、文字がひとつのグラフィック作品のように描かれた文字として作品が壁から浮き出ているかのように感じられた。もちろん、それは、白壁に黒文字と言うマジックなのかも知れないが。
 それぞれの作品を見ながら、面白い試みだと思った。文学という”読むもの”と言う意識を”見せる”ものにしている点では、斬新な企画だと思った。だが、逆に、文学をアートとしている点は、賛否が分かれるだろうとも思った。特に小説や詩は、読むものであると言う意識が強い。読みにくいものは、やはり、文学としてのジャンル分けには入りにくい。読んでもらってナンボのところがあると思うからだ。ネット詩などは、ネットと言う特殊な空間でこその部分はある。文字が回ったり、消えたり伸びたり縮んだりするのは、ネットならのものでもある。それは、紙の上では難しい。だが、この企画は、この会場の作品そのものが、ひとつの大きなネット詩のような空間の広がりを作り出そうとしたのではないかと感じられた。そう言う意味ではとても面白く斬新な企画だと思う。しかし、これが、これ一回きりで終わってしまっているように思える。賞を取ったから終わりではなく、ここから更に高みを目指し、文学の触覚を伸ばしていって欲しいと思う。それでこそ、文学の触覚なのだから。

 さて、穂村さんの作品「火よ、さわれるの」と題された13首。実に、興味深い。火は、触れない。いや、触っても構わないが、火傷を閣議せねばあるまい。しかし、文学と言うフィールドの上では、実にたやすく触れるのである。本物の火と同じように、時によっては、火傷をしてしまうこともあるのだが。
 文学の触覚は、触れそうで触れない部分に触れていると思う。逆を言えば、文学そのものが、触れそうで触れられないものに触れることが出来るのだと言っているようにも思えるのだ。穂村さんの作品も、その意図を受けるように作られているように感じた。その題材が「火」であったことが挙げられる。「火」の発見によって人類は、大きく進歩したと言われている。だから、作品の題材に「火」を持ってきたことで、この企画そのものが文学の進化だと言いたかったのではないかと思ったのだ。

 呼吸する色の不思議を見ていたら「火よ」と貴方は教えてくれる

 冒頭の1首であるが、火が呼吸している様子をうまく取られていて、それがまるで不思議な生き物のように感じている主体がいる。それに対し、それは「火である」と教える貴方がいる。人類が火を発見して行く過程のようにも思える。そして、最後の一首、

 一千九百八十一年冬の微笑がエスペラントの「火」のごとく燃ゆ

エスペラントは、希望する人と言う意味がある。文学と言う火は、人々の希望のように燃えているとも受け取れるのだ。まさに、この企画が今後の文学の希望の火でもあるかのように。
 一度燃やした火は、誰かが燃やし続けなければ、いつかは消えてしまう。文学と言う火を燃やしたなら、燃やし続けていって欲しいと思う。それが自分自身なのか、まったく違う他者なのかは分からない。しかし、この企画が、その小さな火種を起こそうとしたことは、間違いない事実だと思う。そして、それを象徴する穂村さんの作品だったと思うのだ。
 いささか、深読み、はたまた思い込みかも知れないのだが・・・・・文学が人々にとっての希望の火であって欲しい、と、そんなことを思いながら、閉館の時間を迎えたのであった。


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2008/12月

テーマ:
      おじさんたち
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