夢を見るほど若くないが、何かができると思っている青春の“痛み”


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 浅野いにおさんが05~06年、「週刊ヤングサンデー」(小学館、08年休刊)で連載していたマンガが、宮崎あおいさん主演で映画化された。生きる目的が「彼」にしかなかった普通の女性会社員と、バンドへの夢をあきらめ切れないフリーター男。先の見えない同居生活を続けながらの恋愛物語を軸に、どう生きるか岐路に立った若者の姿を描き出す。 

【別の写真】宮崎あおいさんらが登場したプレミア試写の様子

 女性会社員の芽衣子(宮崎さん)は、大学の軽音サークルで知り合った恋人の種田(高良健吾さん)と小さなアパートに住んでいる。単調な仕事にやりがいが見いだせない芽衣子は、ある日突然会社を退社、ますます将来が見えなくなってしまう。種田は元大学の仲間とバンド練習をしながら、生活のためにバイトに精を出す。そんな彼の姿を見て、「夢から逃げないように」とあおってしまう芽衣子。デモCDを作ってレコード会社に売り込むが、待っていたのは厳しい現実だった。いつしか種田は芽衣子の言動にプレッシャーを感じて、2人の仲はギクシャクしていく……。

 ストーリーは、はっきりいってよくある感じだ。社会(現実)の代表として描かれたレコード会社の人間もステレオタイプだし、2人の関係がギクシャクした後の展開にも目新しさはない。でも、この作品はそれでいいのだ。

 この映画の良さは、若者のもがきが丁寧に描かれている点にある。それは、自由な時代に生まれてしまったがゆえのもがきかもしれない。現実を無視するほど、夢を見るほど若くもないが、まだ何かができると思っている青春の「痛み」なのだ。

 芽衣子をはじめ、バンドのメンバーたちはズルく生きることができない。サンボマスターの近藤洋一さんが演じるベースの加藤にいたっては、大学を2年も留年しているという不器用さだ。平均寿命が延びたお陰で、モラトリアム期は長くなっているとはいえ、先の見えない時代に、好きなことをして純粋に生きることは難しい。しかし、いつの時代も若者はなぜか答えを急いでしまう。その不安を、5人の俳優が実に丁寧に演じている。仲間の温かさがさわやかな余韻を残した。3日から新宿ピカデリー(東京都新宿区)ほか全国で公開。

 「ソラニン」公式サイト
 http://solanin-movie.jp