55  そして・・・

テーマ:

試合開始直前という土壇場での、キャプテンを始めとする三年生部員の反乱によって

ジャイの指揮下から開放された状態で大会を戦う事になった我が野球部。


元々が弱小野球部でございますので、一回戦敗退でも何の不思議もなかったのですが、

若干ラッキーな組み合わせもあり、一回戦、二回戦と勝ち進んでいきました。


その間、部員とジャイの関係は今までにも増して冷え切った最悪の状況。

ジャイは、この年のチームを服従させる事は諦めた様子で

事務的な連絡事項以外は部員に話しかける事すらありません。

一方で部員同士は逆に今までにないくらいの気持ち的なつながりを見せ、

毎日異様な盛り上がりでございました。




そんな中迎えた三回戦。


決して最初から試合を諦めていたわけではございませんが。

対戦相手と実力を比較すると、

これが、このチームでの最後の試合になるであろう事は覚悟しての一戦でございました。






試合に出場しているメンバーは、もちろん必死で戦いました。





マネージャーもスタンドでの応援組も声を枯らして、必死で応援をいたしました。





そして・・・ 



・・・ 



・・・ 



・・・。







試合終了後、ジャイは部員たちに声をかけることはありませんでした。

この時の部員との冷え切った関係を考えれば当然の事かもしれませんが・・・。


そんな中、一年間チームをまとめ

後半はジャイとの攻防の中で常に矢面に立ったキャプテンの沼田さんが部員たちに挨拶。

ほとんどの部員が泣いておりました。



その後の事、球場から学校へ帰る準備を整え車に乗り込もうとしていた時

私に近づいてきたのは大田さんでございました。

そして涙で目を真っ赤にさせた大田さんは私にこう言いました。


「ごめんな畑中。俺じゃなくてお前が試合に出てれば、もしかしたら今日も勝ててたかもしれないのに・・・。」


大田さんはこの大会の3試合でノーヒット、守備では4つのエラーを記録という結果でございました。


もちろん、チーム内にはその成績に対して何か不満を漏らす者など誰もいませんでしたし、

私も大田さんに謝られることなど予想もしておりませんでした。


ただ私は、もしかしたら大田さんは私のことを気にして

余計なプレッシャーがかかっていたのかもしれないと思っておりました。


私のことなど気にすることないのに・・・。


私には大田さんにかける言葉が見つかりませんでした。




車が学校に到着すると、ジャイは早々と姿を消しておりました。


沼田さんをはじめとする三年生は、後片付けを済ませた全部員を集めてその前でひとりずつ最後の挨拶。







この年の我が野球部の夏が終わりました。








そして、それは新たな戦いの日々の始まりでもあったのでございます。




                                                       (つづく)


                                                      1話からの方はこちら

 




ポチっと応援ありがとうございます



にほんブログ村 小説ブログ 現代小説へ ←こちらもポチっとクリックして頂けると励みになります




チビ鷹軍団  ←こっちは子供とホークスの話を中心に


AD

54  覚悟

テーマ:

「ワシの指示には従わん言うが、試合中の作戦やらはどうするつもりなんじゃぁ?」


もちろんジャイは

キャプテン沼田さんの申し入れをすんなり聞き入れる訳がありません。


「それも、僕らでやらせてもらいます。」


沼田さんは強気でございます。

まぁ試合中の作戦と言っても、そもそもジャイはこれまで

試合中に細かいサインプレーの指示など出した事がなかったので、

何の問題もないと思うのですが・・・。


「そんなもんが通るとでも思うとるんかぁ。」


いつものジャイならば

すでに張り手の一発くらいは繰り出しているところでございましょうが、

ここは甲子園大会の予選が行われている試合会場。

保護者もそばにいますし、

他のチームや大会関係者の目があるのはもちろんのこと、

地方大会の一回戦とはいえテレビや新聞などの取材陣の姿も多少は見られます。

いくらジャイでも、そんな場所での揉め事しかも暴力交じりのいざこざは避けたいのは当然。

沼田さんは、そこまで計算していたのでございましょう。


「もちろん無茶を言っているのは承知ですが、

 僕らはもう監督に従うつもりはないんです。」


「お前なぁ、そんな事言うて

 監督のワシがベンチ入りせんかったら試合も出来んのじゃぞ。

 お前らは棄権で不戦敗じゃぁ。」


「もし言う通りにさせてもらえないのなら、僕らは棄権する覚悟です。」


「・・・。」



いつになく強気な沼田さんの態度に、言葉を失ったジャイ。

その表情を見れば、沼田さんのを豪快に張り倒したいのであろうということは

これでもかと言わんばかりに伝わってまいりましたが、周りの目があるばかりにそれも出来ず。

もちろん、ジャイにしても立場を考えれば棄権など出来るわけがありません。

怒りで顔を真っ赤にさせたままのジャイは、黙ってその場を立ち去りました。



かくして、我が野球部はジャイをベンチのお飾りにした状態で

大会に挑む事になったのでございます。



                                                (つづく)


                                                1話からの方はこちら

 




ポチっと応援ありがとうございます



にほんブログ村 小説ブログ 現代小説へ ←こちらもポチっとクリックして頂けると励みになります




チビ鷹軍団  ←こっちは子供とホークスの話を中心に


AD

53  決意表明

テーマ:

我が野球部が試合会場である球場に到着したのは、試合開始時間のおよそ2時間前。

車から降りた私たちは、いそいそと球場近くの広場でウォーミングアップを始めました。


そして体を動かし始めて30分程が経った頃でございましょうか、

キャプテンの沼田さんがジャイに申し付けられ、

大会本部に一旦メンバー記入用紙を取りに行って戻ってまいりました。

本来ならば、その用紙をジャイに渡して

ジャイがメンバーを書き込んで本部へ提出するという流れなのですが・・・、

メンバー表を手にジャイの横へ立った沼田さんは、

何やら意を決した様子でジャイを見つめたままでございます。

腕組みをしたまま部員のウォーミングアップの様子を見ていたジャイも、

沼田さんのいつもと違った雰囲気に気づいた様子。

部員たちも同様で、皆練習を中断して状況を見守ります。


「どうしたんじゃぁお前は、はようメンバー表を渡さんかぁ。」


ジャイにそう言われても、沼田さんはメンバー表を渡そうとしません。


そして、


「監督。・・・この大会のメンバーは僕たちに決めさせてください。」


えっ!?


ジャイはもちろんの事、私たち部員も沼田さんの発言には驚かされました。

しかし、沼田さん以外の3年生の先輩方の様子を見ると、

恐らくあらかじめ3年生だけで話し合って決めていた事なのだろうという事は

すぐに見当がつきました。


「お前は何を言うとるんじゃぁ。」


もちろんジャイはすんなり納得するはずもありません。

しかし、この日ばかりは沼田さんも一歩も引く気はない様子。


「監督。僕たちは監督と畑中の会話が録音されたテープで、

 監督が“今年のチームはどうでもいい”と言われているのを聞いてしまいました。

 僕たちは、高校生活最後の大会をそんな監督の指示に従って戦いたくはないんです。」


キャプテン沼田さんの、思いがけない決意表明。


それを受けて、ジャイの顔は見る見るうちに紅潮してまいりました。



                                                 (つづく)


                                                1話からの方はこちら

 




ポチっと応援ありがとうございます



にほんブログ村 小説ブログ 現代小説へ ←こちらもポチっとクリックして頂けると励みになります




チビ鷹軍団  ←こっちは子供とホークスの話を中心に

AD

52  いざ球場へ!

テーマ:

ジャイとの関係を修復できず、最悪のチーム状態のまま迎えた大会の試合当日。

前回の大会では、ベンチ入りメンバー以外は球場にも行けないという仕打ちを受けたものの、

今回は私たち2年生部員が結果的に


“チームの応援のために修学旅行不参加”


という建前を打ち出した都合上、晴れて野球部全員で球場に乗り込む事に!

まぁ、普通の野球部では当たり前の事だと思うのですが、

この時期の我が野球部では、こういう当たり前の事が中々難しいものでございました。


しかし、全員で球場まで行くとなると

前回同様にジャイがどこぞから借りてきた定員20名のマイクロバスでは乗り切れません。

そこで、以前もそうしていたように

数名の保護者に送迎で協力を仰ぐことになったのでございます。

その保護者の中には、私の父親も含まれていたわけで・・・。


私はベンチ入りすら出来ないこの大会を迎えるにあたって、

父親にある程度の現状を話した上で、

ジャイに対しては、とえりあえず何も言わずに自分らに任せてくれと申しておりました。


それは他の部員も同じだったようでございまして。

まっとうな野球部であれば、

試合当日の朝、学校に集合した送迎担当の保護者たちは、

息子が世話になっている監督に対しては笑顔で挨拶を交わし、

野球部の話題なり、世間話なり、何かと会話を交わすもの。


ところが、皆恐らく息子から現状報告を受けた上での事でございましょう、

保護者は誰一人、監督であるジャイに話しかける気配すら見せません。

ジャイの方も、部員はもちろん保護者からも発せられる

殺伐とした空気を感じていたのかどうかは定かではありませんが、

積極的に保護者に話しかける事などあるはずもございません。


そんなこんなで、

ジャイを中心に険悪な雰囲気に包まれたまま、

我が野球部は、試合が行われる球場へ乗り込んだのでございます。


                                           

                                           (つづく)

                                          

                                           1話からの方はこちら

 




ポチっと応援ありがとうございます



にほんブログ村 小説ブログ 現代小説へ ←こちらもポチっとクリックして頂けると励みになります




チビ鷹軍団  ←こっちは子供とホークスの話を中心に


51  修復不可能

テーマ:

ジャイ失墜の決定的なチャンスを逃してしまった私たち。

その後は、ジャイの横暴ぶりも日常の風景とかしていく一方で

私たちは、他の先生方や校長に訴えかけたところで

学校側はそれ程有効な動きは見せてくれないと悟りを開くしかない日々でございました。

同時に、日ごと反抗の姿勢を隠す事もなくなった3年生、2年生部員とジャイは完全に対立。

もはやその関係は修復不可能。

ただ、1年生部員に関してはジャイいわく


「まだ入部したてで右も左も分からん1年生は

 出来の悪い3年生や2年生に妙な入れ知恵されとっただけじゃろう。」


という何の根拠もない理屈で、何かと練習では優遇される事になるのでございます。


大会を目前に控えた時期に、1年生主体の練習メニュー。

これは黙って従うわけにはいきません。

ジャイ本人が、


「文句があるなら直接言うてこいっ!」


と言っていた事もありまして、

3年生と2年生の部員は、キャプテンの沼田さんを中心に

ことあるごとに待遇改善を求めて抗議に打って出るのでございますが、

ジャイは、


「お前らの自業自得じゃろうがぁ。」


の一点張りで、予想通り聞く耳持たず。

我々部員とジャイの関係は険悪になるばかり。



そして、そうこうしているうちに

あっという間に大会の日を迎える事になるのでございます。


まさかこんな状態で大会に挑む事になろうとは・・・。


そもそもの事の始まりのきっかけは私自身という事で、

これが高校生活最後の大会になる3年生の方々に対しては

申し訳ないという気持ちでいっぱいでございました。


しかし、そんな最後の大会で3年生の諸先輩方は最後の意地を見せてくれたのでございます。



                                                   (つづく)


                                                 1話からの方はこちら

 




ポチっと応援ありがとうございます



にほんブログ村 小説ブログ 現代小説へ ←こちらもポチっとクリックして頂けると励みになります




チビ鷹軍団  ←こっちは子供とホークスの話を中心に