Spring has come(19) ~斯波&萌香番外編 | My sweet home ~恋のカタチ。

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そんなラブストーリーがいっぱいの小説書いてます(^^)

はじめてだ・・・



斯波は世田谷にある大きな家の前に立っていた。

表札は



『斯波』


父の

家だった。



母親と離婚して、ひとりでここに引っ越して行った父が暮らしてきた家だった。



自分の親権を持ちながらも祖母に養育を任せきりで

自分はひとりのうのうと暮らしているのかと

思うと


何度も

何度も

父を憎んだ。



病気の経過が良く、今は自宅療養をしている父の元を訪ねた。



初めて

父を訪ねていく。



「お久しぶりです、」



出迎えてくれたのは

今、父と一緒に棲む事務所のスタッフ

大森奈保子だった。



「・・どうも、」

彼女とうまく会話も交わせない。



「先生は今、リビングにいらっしゃいます。 どうぞ。」

と案内してくれた。



キレイに掃除をされた部屋。

きっとこの人が毎日甲斐甲斐しく父の面倒を見ているのだろう。



斯波は何だかドキドキしてきた。



ドアを開けると、日当たりのいいリビングの窓際で父は本を読んでいた。



治療で抜けてしまった髪を隠すようにニットの帽子を被り

やはり痩せてしまった身体で・・


父はふっと顔を上げた。



「・・・」

そして黙って本を閉じた。



何の挨拶も交わさず、斯波はそっと父に近づく。



「珍しいな。 どうした、」



珍しいというか

自分から父の元を訪れたのが初めてで。



「萌香に、子供ができて。」

斯波はボソっと口を利いた。



すると

「え、本当ですか? よかったですね。 おめでとうございます、」



父よりも先にお茶を淹れてきた奈保子が嬉しそうに言った。


彼女に会釈をして



「9月の終わり頃に生まれるから・・」

斯波はボソボソと話しはじめた。



「そうか、」

思ったとおり父の反応は薄いものだった。



一時のわだかまりは解けたものの

まだまだ軽く会話ができるほどは

お互いに打ち解けることはなく。



「おれには何もできないけれど、」

父は静かにそう言った。



「いちおう、報告を。  ばあちゃんにも、」

この家に祖母の仏壇もある。




子供の愛し方を知らずに

自分にしてきた仕打ちを

忘れたわけではない。


でも

その不幸な連鎖を断ち切るために

自分は生まれてくる子供を

彼女との命に感謝して・・・



奈保子は遠慮をしてお茶を置くとすぐに退室した。


「おやじも。 ケジメをつけたら?」

斯波はうつむきながら言った。


「え・・」

父は意外そうな顔で彼を見た。



「もう、長いことあの人には世話になっているんだろ。 男はよくても女性はやっぱり籍に入っていないと、いろいろ苦労が・・」

言いづらそうにごにょごにょと言う。



「おれは。 自分勝手だからな。 自由がいいって、佐妃子と別れた時にもう二度と結婚はしないって思っていたし。 だいたい、あいつとも籍を入れたことが間違いだったって思っていた、」

父はそっとお茶に口をつけた。




長年、確執のあった父と初めての静かなひとときでした・・・


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