「よっしゃ! よう言った!」
南が一番に拍手をして、みんなも一斉に拍手をした。
斯波と萌香は顔を見合わせてからニッコリと微笑んで一礼した。
「で! これから婚姻届出しに行くんやろ?」
南の言葉に
なんでそれを知っているのかが、全くわからず二人は
「はあ、」
と曖昧に頷いた。
「貸して! 証人の欄にサインしてあげる!」
彼女は手を出した。
「アホ、そんなん自分から言うもんやないやろ、」
志藤がたしなめる。
「え~、おれもしてみたいなあ、」
真尋も言う。
「あたしも!」
夏希も手を上げたので、
「おまえのような社会的地位が低いヤツに証人のサインなんかできっか! そんならおれが!」
八神もずいっと前に出た。
「何を言うてるねん、一人はおれで決まりやろ。」
志藤が割り込んできた。
「ちょっと! あんたばっかりずるいやろ!」
南は彼の背中を叩いた。
「遊びじゃないんですから、」
常識人の玉田はみんなを止めた。
しかし、ヒートアップしたみんなには通じず、
「じゃあ、じゃんけんで決めよう!」
真尋が言い出した。
「アミダだろ、」
志藤が言う。
もう当事者の二人は呆然と見ているだけで・・・
結局、アミダで証人を誰にするか決めることになってしまった。
「斯波さん! 当人としてこれを見過ごしていいんですか?」
玉田は必死に言う。
「もう・・止められないって、」
斯波は他人事のようにボソっと言った。
「よっしゃーっ!! やっぱあたしには運がある~~!」
ひとりは南が当たり、もうひとりは
「やったっ! おれだっ!」
八神が喜んだ。
「八神じゃ心配だよな~~~、」
真尋が言う。
「おれだってねえ、もう30なんですから! さ、斯波さん、早く婚姻届を!」
八神は張り切って手を出した。
つられて斯波はポケットから婚姻届を取り出した。
すると横から南がそれを奪い取り、
「あたしが先やろ! 年も地位も!」
「そんなの誰が決めたんですかっ、」
二人で奪い合うようにサインをした。
「そんなに引っ張ったら切れるやろ! アホ!」
「引っ張ってるのはそっちでしょ!」
「きったない字やなあ・・・そんなヘタクソな字で書いたら縁起悪い・・」
「もう、ごちゃごちゃうるさいなあ、」
大騒ぎの後、なんとかサインをする。
「はい! んじゃ、昼休み区役所行ってきなよ。 あたし、ついてってやろか?」
斯波はまだ呆然としながら、
「や、自分で行くから・・」
とやっと言った。
「いやあ~、ほんまこんな日が来るなんて! 嬉しいよ、あたしは。」
南の笑顔を見て、萌香もなんだから嬉しくなってきた。
「ありがとうございました。 なんか・・一生の思い出になりそうです、」
と、また頭を下げた。
「こんなんが思い出になるかあ?」
志藤は笑ってしまった。
「本当にみなさんには・・・お世話になりました。 こうして私が今いられるのも、みなさんのおかげですから、」
萌香は感極まって涙をこぼした。
そんな彼女の涙を
志藤は目を細めて見守った。
「んで? なんでいきなりの展開?」
みんなの輪が解けて、仕事に戻った後
志藤は斯波にスッと近づいて、ボソっと言った。
「えっ・・・なんでって、」
斯波はまたいきなり動揺し始めた。
「おれにナイショでさあ。 栗栖はおれの部下である以上にも、大事な秘書だし。 結婚ってなったらさあ、結構一大事やと思うねんけど~~~~。」
ものすごく嫌味たっぷりに言われた。
「そっ・・それは・・・。」
斯波は汗が噴き出る思いだった。
「まあ、ずっと一緒に棲んでたし? 今までと同じっちゃあ、同じなんやけども? ほら・・人妻ともなればさあ、そうそう出張なんかも連れ出すわけにいかんやろ?」
「い、いえ、それは。 彼女もまだまだ・・志藤さんと一緒に仕事したいって言ってますし。 おれに遠慮をすることは、」
もう
どーにかしてくれっ!!
この空気!!
斯波は叫びたかった。
なんだか大騒ぎになってしまいましたが・・・