萌香と斯波はそーっとドアを開けた。
「この前だって! あたしが実家から送ってきた桃を皮ついたまま食べてたら、皮なんか食わないよ、とかケチつけたでしょーっ、」
「桃の皮は食わないだろっ、」
夏希と高宮が部屋を出たところで大声で言い争っている。
「おい! こんなトコでなにやってんだ!」
斯波は思わず二人に注意した。
「ちょっと! 斯波さんも栗栖さんも聞いてください! 隆ちゃんってば、シジミの身を食べないで残すんですよ!」
夏希は斯波に縋るように言った。
「はあ??」
二人は呆気に取られた。
「シジミは出汁ですよねっ!」
高宮も、ものすごい真面目な顔で二人に迫る。
「でも! 魚屋のおじさんが『シンジコ』のシジミだって言ったし!」
「どこのシジミでも一緒だよ!」
「高級なのに~。 も、ほんっと隆ちゃんは贅沢な食生活に慣れてるから、いちいちもったいないんですよ! シャケの皮とかも残すんですよ~~!」
夏希は斯波の腕を取ってぶんぶんと振った。
「おれはそんなの食わないっ、」
くだらない・・
斯波は、はあっとため息をついてから
「家の中で言い争えよ・・こんなところで! 下まで丸聞こえだろーが!」
斯波は迷惑そうに言った。
「え! じゃあ、ちゃんと中で話つけましょうよ!」
夏希は何を思ったか、斯波の部屋に高宮の腕を引っ張って連れて行く。
「って! なんでウチ??」
斯波はわけがわからぬまま、図々しく部屋に入っていく夏希と高宮を追いかけた。
「でね! おかしーんですよ。 ほんっと! スイカも赤いトコ3cmも残ってるのに残すし~。」
夏希は高宮への不満を次々に口にした。
「食い方くらい自由にさせてくれって! 夏希はメロンとかも皮に穴が開くくらい食べたり、家ならともかく、外で食う時なんか、すっごい恥ずかしいし!」
高宮も負けずに言った。
「だって! メロン好きなんだもん!」
「子供じゃねーんだから!」
「あのさあ・・」
斯波はバカバカしくなり、テーブルに肘をついて
「どうでもよくね?」
二人を見た。
「どうでもよくなくないですっ!」
同時にすごい勢いで返された。
萌香は二人にお茶を淹れて来ながら、
「でも。 食べ物の好みはそれぞれやし。 合わないのは当たり前よ、」
とにこやかに言った。
「え~~、でも。 食べ物って重要ですよ~。」
夏希は不満そうに言った。
「だって今まで全く違う環境で育ってきたわけやし。 スイカやメロンの食べ方が全く同じ方がありえないんであって。 そのうち箸の上げ下ろしまで気になるようになってしまうわよ、」
「え、栗栖さんはそーゆーの気にならないんですか?」
夏希の言葉に
「気になることもあるけど・・よっぽどのことがない限り。 それは自由やし。 加瀬さんがどーしても我慢できないことがあったら、少し歩み寄ってもらうとか。 許しあうことも大事やし。」
萌香は落ち着いてそう言った。
「結婚って・・大変なんですね・・」
夏希が思わず言うと、斯波の表情が一変し、
「結婚!? まさか・・おまえら・・」
夏希と高宮の顔を交互に見て驚いた。
「え? や、そんな・・」
高宮がまんざらでもないように、照れて言ったとき、
「バっ・・バカなこと言わないで下さい! そんなわけないじゃないですか!」
夏希が100%の否定をしたので、
「え・・え~~!?」
高宮は逆に驚いて彼女を見てしまった。
萌香は二人の温度差がおかしくて、笑いを必死に堪えてしまった。
「まあまあ・・。 でも、食べ物のことでケンカくらいなら、微笑ましいわよ。 ねえ?」
斯波に問いかけた。
「・・くっだらね~~。 ほんっともう・・。」
バカバカしくて二の句が告げなかった。
何となく夏希と高宮の興奮も収まってきた頃、
「で・・『シンジコ』って新種のシジミの名前ですか?」
夏希がその空気を打ち破るように言ってきたので、3人は一斉に驚いた。
「・・し・・宍道湖、知らねーの・・?」
斯波が言うと、
「え? なんですか?」
夏希が本当に知らないようだったので、憤慨気味だった高宮も思いっきり笑ってしまった。
「・・も~~、何だと思ってたんだよ~~。」
「え? なに? なにが? ヘンでした? あたし、」
夏希の狼狽度合いを見て、また3人は大笑いしてしまった。
いつものように夏希のオチがついたところで、簡単に解決しました・・・