「んじゃ、話、けっこう早く進んだんやな。 良かった良かった。 もっともめるかと思ったし。 ごくろーさん、」
志藤は斯波から仕事の報告を受けて書類に目を通しながら言った。
「・・・・」
彼の異様な空気に、ふっと視線をやると、
いつもにも増して、ものすごい怖い顔でジッと志藤を見ている。
「な、なに・・??」
ちょっとおののいてしまった。
「・・・栗栖、『真尋番』に行ってるんですか?」
それか・・・
志藤は目を逸らしながら
「・・誰もいなかったんやから・・しゃーないやん、」
ボソっと言った。
「しかしっ! 彼女を行かせることはないでしょうがっ、」
斯波は思わず声を荒げた。
「・・まあまあ・・。 仕事やんかあ。 別になんもないって、」
志藤は憤慨やまない斯波を宥めるように、苦笑いをしつつそう言った。
ぜったいに・・
あいつなんか萌のことを口説きまくってるに違いないんだっ!
斯波の心配は
的中していた・・・。
「ねー、和食と洋食どっちがいい?」
何とかテレビ局の収録を終えたが、真尋はもう彼女との食事のことで頭がいっぱいのようだった。
駐車場に行くまでの間も、さりげなく萌香の背中に手をやって密着するようにそう言った。
「どちらでも。 ・・この後は新聞社と雑誌の取材がありますので渋谷まで移動します。」
萌香はそんな真尋のアプローチをサラリと交わし、ふっと微笑んだ。
「八神のハンバーグも捨てがたいんだけどさ~。 萌ちゃん、おれの専属マネージャーにならない? ま、メシ食いたいときは八神を呼ぶとして・・こーやって世話してくれるのが萌ちゃんだったらサイコーなんだけどさあ、」
車の中でもずっとこの調子だった。
「私、志藤本部長の秘書をすることになったので、」
萌香は運転しながらそう言った。
「え! 志藤さんの!?」
「はい。」
「それ危ないって! あのおっさん、絶対に下心あるから!」
その言葉に
萌香は自分のことを置いておいてそんなことを言う真尋がおかしくなってしまって吹き出した。
「本部長はああ見えて、仕事には真面目な人ですし、別に私を誘ったりだとかもないですから。」
「いや! それはまだ猫かぶってんだ!」
「本部長にも真尋さんにもステキな奥さまがいらっしゃるじゃないですか、」
「そりゃーさあ・・。 でも、やっぱキレイな女の子と呑みに行ったりするのってたのしーじゃん、」
本当に
子供みたいな
感情をそのままぶつけてくる人・・
自分より年上の真尋なのだが、萌香はまるで子供を相手にするように適当に宥めすかして真尋の直球をかわしていた。
思ったよりも取材はスムーズに終わって、仕事がひけたのは6時ごろだった。
「私、1度社に戻ります。」
萌香は時計を見た。
「おれもちょっとスタジオで練習しよっかな・・。 ね、じゃあ・・7時ごろさっき言った店に来て。」
真尋は言った。
「わかりました、」
「あ! 誰も誘っちゃダメだからね! 萌ちゃん一人で来てよ!」
そう念を押すことを忘れない真尋に
「・・はい、」
萌香は笑って頷いた。
「あ、萌ちゃんおつかれさん、」
南がまだ仕事をしていた。
「あ、はい・・」
部屋を見回すと斯波は留守のようだった。
それを察した南は
「斯波ちゃん、なんかトラブルあったみたいで八神と一緒に出かけたよ。」
と言った。
「・・そうですか、」
「それより。 真尋番、大変やったやろ。」
「いえ。 それほどでも。」
萌香は余裕の笑顔を見せた。
「え~? めっちゃ口説いてこなかった?」
あまりに図星だったので、笑ってしまったが
「・・まあ・・。 失礼ですけど・・あんまりにも子供っぽかったので笑ってしまいましたけど。」
「ハハ・・・萌ちゃんのが1枚も2枚も上やなあ、」
南もおかしそうに笑った。
ロッカーで仕度をして帰ろうとすると、斯波から電話があった。
「ちょっと仕事でトラブって、まだ戻れそうもないんだ、」
「大変ですね。 あ、私これから真尋さんと食事をする約束をしてしまったので、」
萌香が言うと、斯波は
「なっ! なんで!」
思わず大きな声を出してしまった。
「なんでって・・。 食事に行くだけですから。」
あまりの彼の慌てように萌香は戸惑った。
斯波の焦る姿が目に浮かぶ~~~(°Д°;≡°Д°;)