「で、どーなんだよ~。 どんな子?」
真尋は食事の最中もしつこく聞いてくる。
「なあに?」
絵梨沙が言うと、
「斯波っちにさ~、彼女ができたみたいなんだよ~。 でも、なんも教えてくんないの、」
なんなんだ
ほんっと
さっきまで
すんげー落ち込んでたクセに!
斯波は苦々しく彼を睨んだ。
「そりゃ・・斯波さんだっておつきあいしてる人くらいはいるわよ・・。 ねえ、」
絵梨沙は子供のようにしつこく食い下がる真尋をたしなめるように言ってから斯波に同意を求めてきたので、もうなんと言っていいかわからずに、斯波は黙々とゴハンを食べていた。
「ほら、たまにはさあ。 飲みなよ。 このワイン、すんげーうまいんだ。 オヤジんとこから持って来ちゃった。」
と、飲めない彼にワインをどんどんすすめた。
「・・おれのことはいいから。 ピアノのほうはどうなんだよ。 ほんとに来年は北都との競演も控えてるし・・そろそろ楽曲もつめないとだし、」
斯波は話を逸らすように言った。
「まあ、おれもさあ。 いろいろ悩んだりしたけど。 でも・・喜んでくれる人がいればいいじゃんって! 結局、そこだなって、思いながら帰ってきたってことで、」
真尋は笑って言う。
「なんだよっ! 解決してんのかよっ!」
バカバカしい・・
心配して損した。
斯波はそんなことをぐるぐると頭を巡っていた。
ワインを
グラス1杯飲んだだけで
もう
頭がボーっとしてきた。
「え~? もう酔っぱらっちゃったの?」
真尋は彼の酒の弱さに呆れた。
「・・もー、飲めない・・」
ソファにぐったりと身体を預けた。
「ほんっとダメだな~。 顔に似合わず・・。」
真尋はまだ一人でガンガン飲んでいた。
絵梨沙は子供たちと休んでしまい、リビングで二人で飲んでいた。
斯波は半分眠ったように
「・・おれは・・おまえが好きだ・・・。」
ボソっとそう言った。
「え! なんの告白!?」
真尋はぎょっとした。
「・・おまえの・・ピアノが・・好きだ・・。 もっともっと・・世界に出してやりたいけど・・。 そのおまえの才能をおれが・・どーやってプロデュースしてっていいのか・・わかんないってトコもある・・。 ほんとは、もっと・・もっと・・世界中でピアノを弾いて・・世界中の人たちに聴いてほしいのに・・」
「斯波っち、」
真尋は普段は厳しいことしか言わない彼が
そんな風に自分のことを思っていたなんて・・
と思うと胸が熱くなった。
「・・なんか知らないけど・・おれって結構周りの人に恵まれてるってゆーか。 ウイーンでも・・色んな偉い先生にも目を留めてもらったりしたし。 そっから仕事貰ったりして。 行く先々でも声かけてくれる人、いるし。 こうやってさあ、志藤さんや斯波っちたちにも会えたしね。 独立しないの?なんてよく言われるけど、おれは全くその気はないし。 ほら、おれってピアノ以外なんもできないし。 金ももうけようとか思ってないし。 そーゆーの斯波っちたちに任せて、ピアノだけやってたいしね。」
と笑った。
今度は斯波がホロっときてしまった。
「んで・・どーゆー子なの? 彼女。 写真とかないの?」
真尋はまたその話に強引に戻ってきた。
「しつこい!」
と
言いながら。
「・・・なんてゆーか・・すんげえ尽くしてくれちゃって。 料理も死ぬほどうまいし・・女らしくて・・」
酔っぱらった斯波は
ボソボソと萌香のことを嬉しそうに話し始める。
「え? いい女?」
真尋が笑うと、
「・・死ぬほど・・いい女だし・・」
これが
あの斯波なんだろうか、と思うほど
顔が崩れっぱなしで・・・。
「え~! なんだよ~。 絵梨沙よりいい女?」
真尋はつっこんできた。
「ん~~。 タイプは違うけど・・。 かなり・・いい女、」
斯波は頬づえをついて萌香のことを思いながら幸せそうに言う。
すっげー
斯波っちの
こんな顔・・初めて見たし。
真尋は酔いも醒めるほどのショーゲキを受けてしまった・・。
だいじょぶですかい? 斯波ちゃん!