Loving you(1) | My sweet home ~恋のカタチ。

My sweet home ~恋のカタチ。

せつなくてあったかい。
そんなラブストーリーがいっぱいの小説書いてます(^^)

「お? 志藤さん、今日はステキな女性を連れてますね、」

パーティーに行くと、会う人ごとにそう言われた。


「ああ・・ウチの秘書です、」


そう答えるのが鼻が高くて。

萌香はそのたびに少しはにかんだように微笑み、それでも堂々と先方に挨拶をした。




「な~? おれ一人で来たらこんなにみんな寄ってけえへんで、」

志藤は交換した名刺の数々を萌香に見せた。


ここは

人んちのパーティーだが

志藤はこういう場を利用して、いろんな業界の人間と関わりを持とうと切り込んで行った。


ただ

酒を飲みに来ているわけではない・・


萌香はそれをさっきからひしひしと感じていた。




「あ・・・」

志藤は小さな声を上げた。


「・・あの人。 斯波のお父上やで、」

萌香にそっと耳打ちして前をアゴで指すように言った。


その人を見て萌香は

「一度、雑誌で拝見しました。 国立音大の・・学長の、」

少し驚いたように声を潜めた。


「そう。 まあ・・クラシックのご意見番みたいな人やな。 T響のトップでもある。 まあ、ウチのライバル、みたいな人やけど。」

志藤はすっと彼に近づく。


「斯波先生、」

彼は志藤のほうに振り向いた。



「ああ・・・ホクトの、」




雑誌で見るよりも

斯波にそっくりな彼に

萌香は気後れしつつ、そっと志藤の背後に立った。




「来年の春に北都マサヒロとの競演の公演を予定しています。 よろしかったらいらしてください、」

志藤がにこやかに言うと、


「・・いつまでも自分の所においておかないほうがいいんじゃないか?」

斯波の父・斯波宗一郎はそう言って、ニヤっと笑った。


「え?」


「おかかえがいると、オケのイメージが定着しすぎてマンネリになる。 北都マサヒロはウイーンでは積極的に活動しているが、こっちでのプロデュースはイマイチだし、」


どんどん辛らつな意見をぶつけられた。


「いいもの持ってるけど、いつまでもシロウトみたいなところがあって。 プロにはなりきれないようだし。」


「いつも斯波先生は手厳しいですね。 勉強になります、」

志藤はへりくだるわけでもなく、堂々と彼を見据えて少し微笑みながら言った。



斯波の父は

背後の萌香に気づいた。

目が合いそうになったので、


「ウチの秘書の栗栖萌香です。」

志藤がさりげなく紹介した。


「・・そう、」

そう言ってスッといなくなってしまった。 




その雰囲気までも

彼にソックリだ・・




萌香は驚いてなんだか呆然としてしまった。



「あ、あの人。 ああいう人やから。 気にしないで。」

志藤は先回りしてそう言って笑った。


「え? あ・・ええ・・。 なんだか・・斯波さんにすごく似ていらっしゃって。 びっくりしてしまって、」


「そやろ~? 姿かたちも、声も。 あの冷めたような人を食ったような言い回しも、」

志藤は鬼の首を取ったようにはしゃいでそう言った。


「・・彼は・・お父さんのことを憎んでいるような、」

萌香は志藤を見た。



「うーん。 まあ、親としていっこもかわいがられたことないって感じで。 女作って出て行ったとか。 殴られたとか。 いろいろあったみたいやけど、」


「お母さんは時折お見えになりますが、」


「子供のころのトラウマって。 なかなか抜けれないもんやん。 あの人もああいう人やし。 けど、おんなじ業界にいるし。 ライバル関係やけど、」

とニヤっと笑った。



萌香は斯波の父の後姿をじっと見ていた。




「オヤジに?」

その日、家に戻ると斯波にその話をした。


「ええ。 よく考えたら、私・・。 ここにお父さまに無断で住むようなことになって。 きちんとご挨拶をしないとならなかったかしら、」

萌香は借りた洋服を丁寧にハンガーにかけながらそう言った。


「そんなこと関係ないよ。 萌には関係ない。」

斯波はきっぱりとそう言った。


「でも、ここはお父さまの持ち物なんでしょう?」


「そうだけど。 ここは元々ばあちゃんの持ち物で。 親が離婚した後は、おれとばあちゃんがここに住んでて。ばあちゃんが死んだから息子であるオヤジが相続しただけであって。 ばあちゃんはおれにって思ってたみたいだけど、遺言書もなんも遺さないでわりと急に死んじゃったから。 オヤジも了解してるし、いいんだよ。」

ため息をつきながらそう言った。



それは

全く今後も父親と交わる気持ちがないことを

表しているような言葉だった。



斯波にも拭い去れない父親への憎悪がありました。

左矢印 お気に召しましたらポチっ!わんわん お願いします!