Follow me(13) | My sweet home ~恋のカタチ。

My sweet home ~恋のカタチ。

せつなくてあったかい。
そんなラブストーリーがいっぱいの小説書いてます(^^)

十和田は萌香の手をぎゅっと握った。



「おまえには・・何も遺してやれそうもないな、」



「そんなの・・私は何もいりません。 なに、言うてるんですか、」



「おれが・・死んだら病院のことや仕事のことは全て妻に任せる。 子供のいない私たちには・・何も遺すものはないし、」



この人の子供を

2度堕ろした。



産んでいい、と言われたけど

それだけは絶対にイヤだった・・

一生、この人に囲われるのはイヤだった。



逃げようと思えば逃げられる。



斯波の元に飛び込んでいこうと思えば、もう行けるのかもしれない。



だけど

やはりそれはできない気がした。





志藤はこの前のディレクターに頼んで、十和田敦子とコンタクトを取ろうとテレビ局に行った。



「十和田先生、」

志藤は料理番組の録画撮りを終えた彼女を見つけ声をかけた。


「おいそがしいところ、申し訳ありません、」




突然、知らない男に声をかけられて、彼女は少し驚いていた。



「あなたは・・」


「失礼いたしました。 私、ホクトエンターテイメントのクラシック事業本部の本部長をしております、志藤と申します。」

と笑顔で名刺を差し出した。




「ホクト・・・」

敦子は少し顔をこわばらせた。



するとマネージャーの女性が、

「先生はこれから講演会の打ち合わせがありまして、」

と志藤から遮ろうとするが、



「30分でいいんです。 お話があります。 お時間をいただけませんか?」

志藤は必死に言う。



敦子はため息をついて、

「打ち合わせの時間までには行きます。 あなた、先に行っていてちょうだい、」

マネージャーにそう言った。



二人はテレビ局内にある喫茶店で向かい合った。



「・・栗栖萌香さんのお話でしょうか、」

彼女からそう切り出されたことに驚いた。



「え・・」


「ホクトの方が私に話があるなんて・・それしかないんとちがいますか?」

敦子は冷めたようにふっと笑った。



「実は・・いろいろありまして。 会長のご病気のこともききまして、」



「・・主人はもう長くありません。 もってあと3ヶ月と言われています、」




「3ヶ月・・」

具体的なそのリミットを聞かされて、志藤はドキっとした。




「どうしても彼女を手元に置いておきたかったのでしょう。 無理に彼女を東京から連れ戻したようです、」

コーヒーに口をつけた。



「・・あの子のことは。 主人とつきあうようになったころから知っています。 あの人はああ見えてそれまでは女性にはきれいな人でした。 浮気なんか一度もなく。 だけど・・彼女にどんどんのめりこんでいくのが・・わかって、」

敦子は視線を落とす。


「失礼ですが。 奥さまは二人を別れさせようとは思わなかったのですか?」


「もちろん・・妻としては屈辱でした。 だけど・・私には何も言えない、」


「え・・」



「主人に・・女がいるらしいと感づいて、その女性のために用意したマンションで・・張っていたことがあったんです。 そして、彼女を・・見てしまったから。」




「どういう、ことですか?」




「私たちには娘がいました・・。 一人娘でした。 でも・・高校生の時に私の運転する車に乗っている時に、事故を起こしてしまって。 私のハンドル操作のミスでした。 私は・・骨折で済みましたが、娘は・・・」

敦子はそれを思い出したように、つらそうに遠くを見た。




「・・おそらく、栗栖さんと出会ったのは娘を亡くしてすぐやったと思います。 主人も私も・・40近くになってやっと授かった子だったので。 娘の成長だけが本当に楽しみでした。 主人は娘と同じ年頃の彼女と出会って、娘を失った悲しみを埋めようとしているのかと思えて。 最初は娘のように思っていた彼女をいつしか自分のものにしたくなって。 あの子が貧しくて高校さえまともに出られない家庭環境であったこともわかって、彼女の希望を叶える代わりに、自分のものとしてずっとそばに置いておきたかったんやと思います。」



敦子は思わず涙ぐんだ。



「私のせいで娘は死にました・・。 だから・・私は何も言えなかった・・。でも、あの人はもうすぐ娘のところに行けるんです。 私は、一人になってしまう、」

手で顔を覆った。



初めて会った自分にここまで話してくれた彼女に志藤は感謝したかった。



「そうでしたか。 会長の・・彼女に対する執着には何かわけがあると思っていました・・。」


「もう、私は必要ないでしょう・・。 あの人は彼女に看取って欲しいでしょうから、」



涙ぐむ敦子に


「・・栗栖は・・恋をしてしまいました、」

志藤は静かに言った。



「え?」

敦子は顔を上げた。




「ある男に恋をしました。 ずっと・・男女のことに関しては荒んだ生活しかしてこなかった彼女が、たぶん初めてした恋です。 どうしても・・会長に納得してもらって、許してもらって別れて・・その男のところに行きたいのではないか、とぼくは思っています。 そして、彼女の上司としてこのまま会社を辞めさせるわけにもいきません。 奥さんにこんなことを申し上げていいのかわかりませんが、会長にどうしても会って話をうかがいたかったのです。しかし、お加減がよくないと聞いたので。」



「ほんの少し、待ってもらえれば・・彼女は自由になります、」

敦子はハンカチで涙を拭った。



「いいえ! それではアカンのです! 彼女はそんな関係であった会長ですが、恩義を感じている。 手のひらを返したように彼の元を去りたくないんです・・。 その男を含め、ぼくたちは彼女を待っている。 信じて・・」

志藤は力強い瞳でそう言った。





十和田にも哀しい過去がありました。 それを知った志藤でしたが・・

左矢印 お気に召しましたらポチっ!わんわん お願いします!