Teardrops(11) | My sweet home ~恋のカタチ。

My sweet home ~恋のカタチ。

せつなくてあったかい。
そんなラブストーリーがいっぱいの小説書いてます(^^)

その日

萌香は遅くなってもなかなか帰ろうとしなかった。

斯波の見る限り、その日にしなくてもいいような仕事をしているようなのだが。

気がつけば事業部は二人だけになっていた。



「もう・・いいんじゃないの?」

思わずそう声をかけた。


「はい・・」

と言うがそれでも帰ろうとしない。



とうとう斯波のほうが先に仕事を終えてしまった。



「・・じゃあ、お先に。」

と席を立つ。



萌香は彼の顔を見ずに、

「おつかれさまでした、」

同じように小さな声で言う。




帰りたく

ないんだろうか・・




斯波はぼんやりとそう思った。

彼女の寂しそうな後姿を振り返って見てしまった。



萌香は9時ごろ、会社を出ようとする玄関横に停めたバイクに跨る斯波を見て驚く。



「斯波さん・・」

彼が帰ってから30分以上経っている。



やはり気になって帰れなかった。



「・・・あの人、来てるの?」

思い切って口にした。



萌香は黙って頷く。



「東京に特養老人ホームを建設することになっているらしくて。 その打ち合わせで。 今回は・・長くて。」



「・・そう、」

会話が続かない。



萌香は黙って会釈をして行こうとした。




「行かなかったら・・どうなるの?」

斯波はその背中を追いかけるように声をかける。


「え・・?」

萌香は振り向いた。


「あいつの思い通りにしなかったら、どうなる?」


「どうなるって・・」


「学費を出してもらったって言うけど。 金は少しずつでも返せば・・」

「そんな甘いものじゃないです。 彼にとってお金なんか二の次ですから。 返さなくてもいいから、と言われています。」


「そんなの・・。 強請られてるみたいじゃないか。 それにおまえとのことが世間に知れたら自分だって社会的地位を失うかもしれないんだぞ、」



十和田は

私が裏切ったら

過去の全てを会社の人たちに話すつもりなのかもしれない。



そして

この人にも・・



私が

一番かなぐり捨てたい過去を・・




「16の頃からずっと・・もう怖くて逃げ出したくなることもあったけど。 どうしてもできなくて。 どうしていいかわからないんです。 私だってどうしていいかわからない。 逃げ出す方法を何度も何度も考えたけど・・、もう逃げ切れないんやないかって。 あの人は・・どこまでも追ってくるんやないかって・・。 諦めてしまって、」

萌香はぽろぽろと涙をこぼし、普段は絶対に出さない

京都弁でそう言った。



彼女の素顔に触れれば触れるほど

斯波はやりきれない気持ちでいっぱいになる。



どうしてそこまであいつに怯えるんだろう。



萌香の気持ちがわからない反面、



彼女を、助けたい・・・




初めて

心からそう思った。




「あの人のことを・・ほんの少しでも愛したことはないの・・?」

口にするのもつらかった。


「感謝はしています・・。 私が今こうしていられるのはあの人のおかげだと思っています。 でも・・愛してるなんて一度も思ったことはありませんでした、」

萌香は正直な気持ちを言った。


「暴力を振るわれたりはしないの・・?」


「それは一度もないです・・。 畠山専務のことがバレても、あの人は何も言いませんでした。」



ずっと

『軟禁状態』

におかれていたのと同じ精神状態になってしまっているのか。



「他に・・何か脅されているのか?」



萌香はその言葉に激しく動揺した。

もう、うなずくこともできなかった。



この人だけには知られたくない・・

でも

十和田の言うことを聞かなければ

きっといつか知ることになるんだろう。



やっぱり思いは叶うことは

ない・・



己の身の上を思うと素直に斯波に頼れない萌香。 そして、斯波は・・

左矢印 お気に召しましたらポチっ!わんわん お願いします!