「なんとか寝ました、」
ゆうこが戻ってきた。
「ああ、ごめん・・」
「彼女が、栗栖さんですね?」
志藤から話だけ聞いていたのでピンときた。
「そう。 ちょっとね。 こみいった話してたら、めっちゃ酔っぱらってしまって、」
「まあ、ホテルに入らなかっただけ、許します。」
ゆうこはちょっと口を尖らせた。
「行くわけないやろ、」
「あんな美人と二人で飲んで、そうならないほうが不思議じゃないですかあ??」
ゆうこの疑惑のまなざしに、
「だから。 家に連れて帰るしかないやろ。 めっちゃくちゃ飲むから・・もう、」
でも
飲まずにはいられなかった
というのが
正しいのかもしれない。
志藤はタバコを灰皿に押し当てて消しながら、
「彼女が・・畠山専務と不倫してたことは話したよな、」
とゆうこに言った。
「ええ・・」
「でも。 ほんまはそんなんは・・ほんの3ヶ月くらいの出来事らしくて。 実際は・・彼女は高校1年の時から、ある男に囲われてた、」
ゆっくりと今、彼女から聞かされた話をゆうこにした。
「彼女は・・おれと同じ京都の出身やけど。 市街地の歓楽街の出で。 祇園とかそういう世界とは全く違う・・ちょっと場末のスナックでお母さんは働いてるらしい。」
ゆうこは彼の話を静かに座って聞いていた。
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萌香は
頬杖をついて、けだるそうに話をし始めた。
「・・父は生まれたときから・・いませんでした。 母は・・私を・・15で産んでいます。」
「え・・」
かなり
彼女の生い立ちが尋常でないことが伺えた。
「母も施設で育ったので。 私は生まれてすぐに乳児院に預けられました。 母が成人してから・・私を引取りに来て。 5つのときからずっと・・その店で育てられて。 母の仕事はホステスなんて上等なもんじゃなくて・・実際は体を売る仕事をしていました。 何人もかわるがわる男の人が来て。 それで生計を立てていたようなものです。 生まれたときからそんな境遇で、それが当たり前みたく毎日過ごして。 でも、本当はイヤで仕方がなかった・・。 早くここから逃げ出したい。 そう思っていました。・・そして、中学2年の時・・」
萌香はグラスをぎゅっと握り締める。
「母の留守に・・・母の客が来て・・」
声をつまらせる。
思い出すだけで
身の毛がよだつあの事件・・・
萌香は思い出してはらりと涙をこぼした。
「・・おまえだって・・オフクロと・・同じ仕事するんやでって・・男相手に仕事するんやろって・・無理やり、」
堪えきれずに両手で顔を覆った。
志藤は驚きで目を見張り
息を呑んだ。
萌香はどんどん酒を飲み、ヤケになって志藤に全てを話した。
「その男は・・3万置いて。 ・・処女やったからサービスやって。 私は・・その時初めて・・自分の体がお金になることを・・知りました。」
志藤はもういたたまれなかった。
「栗栖・・もう、いいから。」
彼女の話の先を想像してしまい、もう聞きたくなかった。
「いいえ・・。 もう・・・全部を話さないと・・・私・・」
萌香は涙の顔で必死にそう言った。
「ひょっとして・・こうしていれば私はいい学校に行けるかもしれないって・・。 友達が・・塾に行ったりするように、できるかもしれないって。 どうせ汚れてしまったなら、もう自分でお金を稼いでこの世界から飛び出すしかないって・・・。 死ぬほど・・つらかったけど。 絶対に私をこんな目に遭わせたヤツを見返してやるって・・。出会い系で・・そういう相手をみつけて、中学生ってバレないように化粧もして。 女子高生のフリをして。 そして処女のフリをして・・お金ふっかけて。 私はそんなお金で・・必死に勉強をしてきました。」
今まで
胸の奥にしまいこまれて
いっぱいいっぱいになった彼女の心のダムが
一気に決壊したようだった。
「そして・・京都でも有数の進学校に合格して。 だけど、まだまだ私は勉強をしたくて。 高校生になってからもそうやって・・勉強するお金を稼いでいました。 もう・・その頃にはそれが罪だなんて思わなくなっていました。自分の体でお金稼いで何が悪いって。 そう思えて。 ・・そんな時・・あの人に出会って、」
「十和田会長に?」
志藤はようやく口を開いた。
「きみは大学に行きたいの?って・・。 私なら行かせてあげられるよって。 その代わり、私の言うことを・・聞くんだよって・・。 私は・・家を出て・・彼の借りてくれたマンションに・・住むことになって・・」
志藤はだんだん
気分が悪くなってきた。
娘を持つ親として
こんなにつらくて悲しいことがあっていいものか。
「あの人が生活の面倒を全て見てくれて・・・一流大学にも通うことができて。 ホクトのような一流企業にも就職ができました・・。 私の望みが叶ったんです。 もうこれであの闇の生活から抜け出せるって、思ってました・・・。 あんな情婦の娘でも。 ここまで・・できたんだって満足もあって。 でも・・・あの人はそんなに都合よく私のことを思ってなかった・・」
萌香は涙が止まらなかった。
つらく、哀しい彼女の過去が明らかになります・・・。