Say anything(8) | My sweet home ~恋のカタチ。

My sweet home ~恋のカタチ。

せつなくてあったかい。
そんなラブストーリーがいっぱいの小説書いてます(^^)

萌香は悪夢にうなされた。



走っても走っても

闇が追いかけてくる。



普通の女と同じ人生を送れると思うなよ・・



闇が言う。



今のきみがあるのは

何をしてきたからなんだ?



やめて!



私は『あの』世界から逃げたかっただけなのに!

ただそれだけなのに・・



目を覚ますと

涙をポロポロとこぼしていた。



翌日

萌香は疲れたような表情で会社に現れた。


「あ・・」

斯波は彼女の姿を見て、小さな声で


「昨日は・・・ごめん、」

と言った。


萌香は彼に振り向きもせず

「・・いいえ。 気にしていませんから。」

と、つぶやくように言った。



少し溶け始めてきた彼女の心がまた凍ってしまたように思え、斯波はゆうべ自分が言ってしまったことを悔やんだ。



どう考えても

まだまだ何かありそうで



彼女の美しい横顔をチラっと見た。



「今日・・真尋の赤坂でのライヴのリハがホールであるんだ。 よかったら一緒に行かないか、」

斯波は出かける仕度をしながら萌香に言った。


「え、」

ハッとして顔を上げる。


「ホールで聴くと、また違う、」




迷ったが

彼の音に惹かれて、そっと出かける仕度をした。



行きの車の中でも二人は無言だった。


斯波は

ゆうべ彼女を泣かせてしまったことに

ものすごい罪悪感を感じて

どうしようもなかった。



つい

感情的になって。



放っておけばいいのに。



そう思うのに・・・。



ホールにそっと入っていくと、ピアノの音が聞こえる。

真尋が舞台のピアノを一心不乱に弾いている。



ベートーヴェン『月光』



CDではなく

直にこの音を聴くと

一瞬、体が硬直してしまったかのように。

動けなかった。



写真でしか見たことがなかった真尋の姿が

ピアニストと言うにはあまりにもかけ離れていたので

萌香はそのギャップにも驚き



この人が

あの優しいピアノを弾いていたのかと思うと

ウソのようだったが

流れてくるこの音は

確かに

あの『音』だった。



斯波は

真尋のピアノに聴き入る彼女の横顔を

薄暗いホールで何となくじっと見つめてしまった。



真尋の仕上がり具合をチェックしなければならないのだが

正直

ピアノの音よりも

彼女の横顔に惹かれる。



そして

それに気づいて自分でハッとする。



その繰り返しだった。



斯波の中で何かが動き出したようです。

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