Piece of dreams(19) | My sweet home ~恋のカタチ。

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せつなくてあったかい。
そんなラブストーリーがいっぱいの小説書いてます(^^)

「これでよし、」



引越しはあっという間に行われた。

夜逃げのように一瞬で。



こんなことをしてもあの人から逃れられるとは思えないけど。

今はこうするしかない。



萌香はそう思った。



「ほんと荷物少ないな、」

斯波は言った。


「まだ、少ししか住んでいなかったし、」


「敷金・礼金もったいねえな。 敷金はそんなに住んでなくてもほとんど戻ってこないだろ?」


「いいんです。 それで、そっちの家賃と・・敷金と礼金を、」

と車に乗り込みながら言うと、



「ああ・・家賃は8万。 敷金礼金は、いいよ。」

斯波は言った。


「でも・・そんなわけには、」



「こんな短い期間にそんなの2回も払うのたいへんだろ? 自分の給料だけでやってんだろ?」


「ここの家賃や・・そのほかもあの人が出すと言ったけど・・断ったから、」


「だから、いいよ。」


「でも。 お父さまに怒られてしまうんじゃないですか?」


「ああ。 あの人、あんまりこういうこと興味ないし。 不動産屋にはおれから適当に言っておくから。」

斯波は車を運転しながらタバコを吸った。




「じゃあ・・とりあえず貸しておいて下さい。 必ずお返しします、」



「だから。 いいから。」

斯波はふっと笑った。



荷物を部屋に運び込んだ後、


「あのう、」

萌香は斯波に声をかける。



「ん?」


「たいしたものはできませんが。 夕飯をごちそうさせてください、」


「え・・」


「今は・・そのくらいしか、できません。」



小さな声でうつむき加減にそう言う彼女に

みぞおち辺りが

きゅっと掴まれるような

そんな感覚にとらわれた。



思わずそこに手をやった。



「・・・あんたが作るの?」

と言うと、萌香は黙って頷く。



「じゃあ・・ごちそうになろうかな、」




彼女は料理を手際よく作っていく。

斯波はそれを黙って口にした。



「本当にたいしたものではないんですが、」

萌香は恥ずかしそうに言った。


「・・うまい、」

斯波は静かにそう言った。


「ほんと、ですか?」

萌香は嬉しそうに彼を見た。


「うん・・。いつも料理をしている感じの味だ、」


「自分でやるしかありませんでしたから、」



寂しそうに言う彼女に、



「ずっと一人暮らしなの?」




初めて彼女の中に入り込む質問だった。



「・・高校1年のときに・・家を出て。」


「高校1年で・・・」


「ずっと、ひとりで。」



「親は?」



と聞くと萌香は黙り込んでしまった。



斯波はハッとして

「ごめん・・詮索するつもり、なかったのに。」

と我に返る。



「母はいるけれど・・・父はわかりません。」



萌香はボソっとその質問に素直に答えた。



「え・・・」




「どこの誰だか。」



そして

小さなため息をついた。



『私の言うことを聞いていれば。 大学まで出してやれる。 いい大学を出れば、一流企業にも就職できる。 そうすれば、きみの忌まわしい過去からも逃げ出せるんやで、』



あの人に

そう言われて。


まだ

『少女』だった

私は

あの人の

『愛人』になった・・・。




萌香は嫌でも自分のかなぐり捨てたい過去が蘇り、茶碗を持つ手が止まってしまった。




会社にいるときの彼女とは

全く別人の

化粧っ気はほとんどないが、透きとおるような美しい彼女の素顔を

見ていると心が揺さぶられた。



何だろう

この気持ちは。



会話が途切れてシンとなった食卓で

斯波はぼんやりとそんな風に考えていた。




素顔の萌香を見て、斯波の心は揺れ動きます。

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