Forever and ever(9) | My sweet home ~恋のカタチ。

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せつなくてあったかい。
そんなラブストーリーがいっぱいの小説書いてます(^^)

真尋は練習をすると言って、練習室に引っ込んでしまった。

絵梨沙はキッチンで後片付けをしている。



八神はフェルナンドと向き合ってワインを飲みながら、

「あのう、」

遠慮がちに声をかけた。


「え?」


「日本語が、とてもお上手ですね、」


「ああ・・。 昔、演奏旅行で日本に行って。 すごく日本が気に入ってしまってね。 しばらく住んでいたことがあるんだよ。」

彼はニッコリ笑った。


「日本に?」


「ええ。 3年ほど、日本を拠点に活動していたことがあって。 その時に東京の音大の生徒だった絵梨沙の母親と出会いました。」


「そう、だったんですか。」


「結婚後はウイーンに戻って、演奏活動をしながら音楽院の講師もして。 まあでも・・忙しすぎてね。 ほとんど家には帰れなかった。」




それが

離婚の原因であることは

そこまで言わなくても

だいたい

わかった。




「音楽院に真尋さんを入れたのは・・あなたの力だとお聞きしました、」

話題を変えるように八神はニッコリ笑って言った。


「え? ああ・・。」

フェルナンドは苦笑いをした後、


「本当に。 筆記試験もひどくてね。 というか。 普通はドイツ語も少しは勉強して来るんだろうけど。 マサは全く言葉がわからなくて。 当然、入ることなんかできないんだろうけど。 実技試験で・・」



そのときのことを思い出したように、小さなため息をついて



「ショパンのバラード1番でした。 聴いた瞬間。 全身に電気が流れるように。 衝撃でしたねえ。」



口の端に笑みを浮かべて、つくづくそう言った。



ショパンのバラード1番・・




真尋がそれを弾くところはいまだに聴いたことはないけど。

彼が受けた衝撃が

ものすごくダイレクトに伝わってくる。



「関係者は彼を入学させることに反対する人もいたけど。 でも・・。 私はどうしても、どうしても・・彼を教えたかった。 本当に荒削りで、決して上手いとも言えなかったけど。 彼は天性の感覚をすでに身に着けていたし。これは、スキルを高めていけば、大変なピアニストになると思っていたから。」

フェルナンドはワインに口をつけた。



「・・でも。 ほんと、大変でね。 なかなか言うことをきかない子だから。 コンクールのような、ああいう減点法の世界はマサには向いてないんだ。 コンクールは楽譜を最大限再現できる人間が高得点をとれるようになっているから。 絵梨沙はその点、コンクールで優勝したり、学校でも首席だったから。 まあ、対照的に優等生で。 マサはピアノ以外の授業が、もうひどくてひどくて。 結局・・・まあ、卒業もできなかったんだけどね。」

と笑った。



「なんか・・わかります。 すっごく、」

八神は優しく微笑んだ。


「マサは在学中にずっと街の小さなバーでピアノを弾くバイトをしていたんだ。 私の友人がやっている店でね。 最初はわけのわかんない日本人の学生が弾いてるだけ、って感じだったんだけど。 日に日に・・彼のピアノを聴くのが目当てなお客さんが増えて。 彼が弾く日は狭い店がいっぱいになるくらいだった。」



「へえ・・」



「もう、それが全てだなあと。 マサのピアノは、行き交う人が思わず足を止めてしまうような魅力があって。 この子は天性の演奏家なんだなあと。 留年することになって、私は思い切って彼に学校を辞めて、ピアノで仕事をするように勧めました。 そのほうが、もう向いてると思ってたし。 幸いなことに彼の父親が芸能社の社長をしていたし、日本とウイーンをいったりきたりして活動するようにと。 時間はかかったけど・・今はウイーンの一流オケとも競演できるようになったし。 こういうの・・・カンムリョウって言うんでしょう?」

フェルナンドはいたずらっぽく笑った。



「・・そう、ですね。」



彼の言葉からは

真尋に対する

愛情が

溢れるようで。



「絵梨沙のピアノもマサと出会ってから、本当に変わって。 彼は絵梨沙にないものを本当にたくさん持っていたから。彼と一緒に連弾の課題を与えたりして。 マサには絵梨沙のスキルを学んで欲しかったしね。 まあ・・そうしていくうちに二人は惹かれあっていったんだなあと。 ・・皮肉なもので。 優等生だった絵梨沙は、結局その性格からピアニストとして生きていくことができなくなって。  マサのピアノを全力で支える立場になってしまった。 でも・・今、彼女の顔を見れば、幸せだということがひと目でわかる。 これでよかったんだと、心から思います、」



娘が

ピアニストとして挫折をするなんて

やりきれない思いはあっただろうけど。


それでも

最後は娘の幸せを第一に願う、ただの父親になっていた。




「パパ、もうそろそろ休んだほうがいいわよ。 ベッドの仕度をしておきましたから。」

絵梨沙がそっと声をかけた。


「ああ、ありがとう。」

フェルナンドはニッコリと笑った。



「明日はゲネプロだから。 あたしも特別に観てもいいって言われてるの、」

絵梨沙は嬉しそうに彼にそう言った。



人気ブログランキングへ 左矢印 『天才』北都マサヒロの原点がそこにありました。

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