A dream of the love(18) | My sweet home ~恋のカタチ。

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せつなくてあったかい。
そんなラブストーリーがいっぱいの小説書いてます(^^)

「なんか一日中になっちゃったね。」

戻ってきた頃にはもう夜だった。


美咲のマンションまで送って行った。


「ね、ちょっと寄っていきなよ。」

美咲はそう言ったが、


「え? あ~・・明日から2日間斯波さんと仙台に出張なんだ。 朝早いから、」

と断った。


「出張? 大変だね。 あ、あたし牛タンと『萩の月』がいい。」

美咲は屈託なく笑った。


「食いもんかよ、」

苦笑いをしてしまった。



別に

明日はゆっくり出て行けばいいので、早いわけではなかったが。


美咲のところに寄ったら

また

『迷路』にはまってしまいそうで。

ウソをついてしまった。



美咲との距離を

保つことが精一杯で。

まったく

余裕がなかった。




「もう発車しちゃうだろーが、」


「すみません。 なんかさきいかが食いたくなっちゃって、」


八神は新幹線の席に戻ってきた。

斯波は難しそうな字がたくさんある本をずっと読んでいた。



ほんと

斯波さんって

無口だよな・・



正直

二人きりになると会話に困る。



八神は窓の外に目を移した。



ぼーっと通り過ぎる景色を見ていると、

「ほんっと東北新幹線の風景って、正しい田舎って感じでいいですよね~。」

ボソっと言ってしまった。


「おまえの実家に似てるんじゃないの?」

斯波は本を読みながらそう言った。


「ん~。 そうかなあ。 ほんっと昔はそれがいやで。 早く東京に行きたくって。」


「親に反対とかされなかったの?」



「されましたよ~。 音楽なんて趣味にすりゃいいって親は思ってたけど、おれは本気でやりたかったし。東京の音大に行きたいって言ったら、ふざけるな!って感じで。 学校にもお金かかるし、一人暮らしさせるのも金かかるしって。 ウチの姉ちゃんたちは全員地元にいるし、親だって東京で暮らしたことないし、未知の世界っぽかったんでしょうねえ。 おれなんか甘ったれの末っ子だったし、ぜったいにやっていけないって。それも反対されて。」



「だろうなあ。」



「でも、ばあちゃんが。 『あたしの持ってる山売ってもいいから、慎吾を東京にやってくれ。』って言ってくれて。それで親を説得してくれたんです。 ま、山は売らなくて済みましたけど。 嬉しかったなあ。」


「おれはずうっと東京だったし、そういうのはピンとこないけど。 でもまあ、幸せだったんじゃない?」


「そーですね。」



「ま、危なっかしいけど。 けっこうおまえは図々しく生きてるし、」

と言い放たれ、



「は?」



「志藤さんといつも言ってるもん。 玉田は真面目で神経質でほんっとしっかりしてるけど、八神は適当に図々しく生きてるって。 不思議に人に好かれるっていうか、頼りなさそうなところがいいのか、人が向こうから寄ってくるしって。」


「ちょっと。 おれ、いちおうもう26なんですけど?」

ちょっとむっとした。



「まあまあ。 それがいいのかもしれないし?」

斯波はふっと笑った。



八神はまた唐突に

「おれ、音楽やめて・・正解だったんですよね?」

と斯波に言った。



「え?」



「そんな思いまでしてでてきた東京で、必死に頑張ってきたけど。 やっぱり、ここらが潮時なのかなあって。 プロとしてやっていけるのも、限界なのかなあって。 おれなりに悩みましたけど、」



「おまえがそう思ったのなら。 正解だったんじゃないの?」

斯波は落ち着いた表情で本を伏せてそう言った。



「斯波さん・・」



「こればっかりは。 本人しかわかんないし。おれだってずっとピアノを勉強してきたけど、自分にそんなに才能ないって気がついて。 今の道を選んだわけだし。」


「斯波さんは音楽誌の編集者だったんですよね、」



「うん。 最初は編集者してたけど、そこやめてからはパリやドイツできままに生活して、委託された原稿書いたしてた。 で、その前にいた雑誌社の編集長と志藤さんが知り合いだったから。 話もらって。 それでここ来たから。」



「お父さん、音大の学長さんなんですよね?」



その問いには

答えずにまた本に目を落とした。



斯波と二人で出張に出た八神は初めて彼とプライベートなことを話をします。

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