「え? 八神が?」
帰ってきた南は真尋から話を聞いた。
「すっげーヘンなの。 そのおっかけてきた彼女、八神のアパートに泊まるとか言ってたみたいなのに、突然、八神がウチに泊めてくれないかって、」
「・・泊めるほどの間柄なの?」
「知らね~。 八神はタダの幼なじみ、しか言わないんだけど。」
南は真尋の家のリビングをそーっと覗いた。
「こらっ! やったな~~!」
「わ~! おっかけてくる~~!」
無邪気に竜生と遊んでる八神に、
「八神、」
と声をかけた。
「あ、南さん。 おかえりなさい。」
「今日、真尋んとこ泊まるんやて?」
「は、はあ。 ちょっと。 ご迷惑とは思ったんですけど、」
ちょっとバツが悪そうに頭をかいた。
「ふ~ん。」
なんか深入りして聞きたいけど、なんとなく聞けない。
「ね、みーちゃん! しんごのえびふらいおいしかった~、」
竜生が南に抱きつく。
「そっかあ。 よかったなァ。 みーちゃんも食べたかったな、」
八神はふっとため息をついた。
「な~、」
八神のために用意されたゲストルームに真尋は顔を出す。
「はい?」
「ま、ウチはかまわないから、気が済むまでいていいよ。」
「真尋さん、」
「よくわかんねーけど。 彼女、ずっと八神んとこいるの?」
「就職、決まったら住むトコ探すとか言ってるんですけど。金持ちなんだからホテルでも泊まってればいいのに、」
思わずボヤいた。
「就職のために東京来たの?」
ちょっとドキっとした。
「そう、だと思いますけど。 あいつんち勝沼でも有名なワイナリーで。海外のワインの輸入代行とかもやってて、その仕事をしていたんです。 いきなり、そこも辞めたって。」
真尋から目を逸らすように話をした。
「八神のこと、追っかけてきたとか?」
ちょっと笑って冗談交じりに言うと、いきなり八神はすごい形相で真尋を見て、
「バっ、バカなこと言わないでください!」
ものすごい否定をしてしまった。
「な、なに? そんなにムキになっちゃって。」
真尋のほうが驚いた。
「す、すみません。」
八神はちょっと震える声でそう言った。
あいつ・・
このまま居座る気じゃねーだろーなあ。
ジョーダンじゃねーぞ。
『あのこと』
根に持ってる?
どーしよ。
おれがバカだったァ~~~。
八神は何だか眠れなかった。
真尋さんはいつまでもいてもいいって言ってくれたけど。
そんなに甘えるわけにいかないよなァ。
「すみません、ありがとうございました。」
朝、朝食をごちそうになり、八神は絵梨沙にお辞儀をした。
「え? 真尋が八神さんを気が済むまで泊めてやってくれって、」
「いえ。 ほんと。 一晩で。 ありがとうございました。 真尋さんはまだ寝てるようなので、おれは会社に行きます。 ほんと、お世話になりました。」
とニッコリ笑って出て行った。
その日も
もう心あらずで。
「バカっ! これは見積り金額で確定してないんだから、ここに書いたらダメだろ! このまま持ってったら大変なことになるぞ!」
斯波からも仕事でミスって怒られた。
「もー、元気ないなあ。」
昼休みもゴハンに行かずに暗い八神に南が声をかけた。
「別に、」
「くらっ・・。」
八神は彼女をジっと見た。
「なに?」
「・・南さん、今日の夜、暇ですか?」
「え? 何の誘い???」
「なにアンタん家に連れ込む気?」
仕事をひけて八神は自分のアパートに南を連れて行く。
「ですからっ!お願いですから!ほんのちょっとだけおれの言うとおりにしてください。 何も言わないで、ただ頷いてくれればいいですから!」
「も~、意味わからんて。」
「あ、おっかえり~! ゴハン作っておいたよ!」
やっぱり美咲はまだいた。
「・・・美咲、あのさ、」
「え?」
八神は自分の後ろにいた南の背中をちょっと押して前面に押し出した。
「おれ、つきあってる人、いるから。 ほんっと悪いけど。 か、彼女もちょっと事情あって、ここ泊まることになっちゃって。 で、いきなりで申し訳ないからホテルの予約とかもするし、送ってくし、」
南はそう言いだした八神に驚いた。
「・・彼女?」
美咲は南をジーっと見た。
何を言いだすねん!
八神~!!
勘のいい南は彼女がその例のワイナリーの娘であることはわかったが、いったい何をしようとしているのかが疑問だった。
「うん。そう。」
八神はふっきるように頷いた。
「この人が?」
ものすごく怪しんだような目で南を見た。
「あ、あっと、」
南が何かを言おうとしたので、八神は後ろから彼女の肘を抓った。
「いっ・・・」
美咲は南を穴が開きそうなほど見た後、
「・・・ほんっと。 ヘタな芝居しちゃって。」
とため息をついた。
「はあ??」
八神は驚いた。
八神が恐れる『あのこと』とは?? そして南までかつぎだして美咲を追い出そうとしますが・・