「ひよっこ」 第9回
第２週 「泣くのはいやだ、笑っちゃおう」
みんなそれぞれ、いろいろあんだねぇ
美代子） 「転居先不明」…。
郵便、戻ってきてしまって…。
送り先にいねえって…。
みね子の手紙も…。
どうしたんだっぺ、お父ちゃん。
茂） 何か、手違いでもあったんだっぺ。
美代子） そうですよね！ うん！
何かの手違い、手違い…。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
オリンピックを前に、
みね子たちは手作りの聖火リレー
をやろうと、動き出しました。
まずは取材です。
田神） どうした？ みね子、急に。
村のこどについて知りてえだなんて。
ん？ 試験に出ねえぞ、そんなの。
みね子） あっ、あの…。ほら、私は、ずっと
奥茨城で生きていぐわけなので。
田神） アジャパー。そんで村のこどについて
もっと知りてえと。ガチョーンだな、みね
子。すんばらしいな！
みね子） はい！
田神） よし。何でも教えてやっと。入れ！
みね子） ありがとうございます。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
時子） テレビのニュースで聖火リレーの映像を
見まして。あの、トーチはどういう風に作
られたものなのかと、興味を持ちまして。
藤井先生もいつかおっしゃってたじゃない
ですか。「何でなんだろうという興味を持
つことが全ての出発点である」。
藤井） あららぁ。そうげ、うん。実に素晴らしい！
これもオリンピックの賜物かもね。
時子） ですね！
藤井） あれはどうやってつくっかというとね…。
時子） はい！
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
三男） はぁ、はぁ、先生…。木脇先生！
お願いします！
木脇） 聖火リレーねぇ。何で三男、
そんなこどが知りたいのけ？
三男） ですからですね…。ニュースを見て、
興味を持ちまして。あのトーチを持ちな
がら、走るというのは、なかなか難しい
のではなかろうかと。
木脇） なるほどね。そごに興味持ったんだ。
三男） はい。
木脇） よ～し、わがった！
走りながらはなそう！
三男） え～！？
大変失礼しました。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
みね子） ありがとう、次郎さん。
次郎） みね子、みね子、みね子！
し～っな、し～っ！
みね子） し～っ！
時子） ありがとう。
三男） ありがとな。
次郎） し～っだ。
みね子） じゃあね、三男。
三男） おう。
みね子） あっ、待って！ 今のとごろ、まだ
秘密にしておぐんだよね、誰にも。
三男） んだな。もっとちゃんと計画立でられる
までな。あっ、うちの人にも、ちゃんと口
止めしとげよ。
みね子） うん、わがった。あっ、あっ！
お母ちゃんは大丈夫。
あと、じいちゃんも…確認しとく。
三男） おう。じゃあな。
時子） 遅くなって怒られんじゃないの？
三男） まぁな。気にしねえよ。早く帰ったって
何だかんだ文句言われんだがら。
時子） うん。
三男） じゃあな。また明日！
時子） じゃあね。
三男） うん！
みね子） 三男！ う～ん…。
頑張ろう！ キラキラキラキラ～！
三男） オ～！
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
みね子） 時子は大丈夫？ 遅くなったけど。
時子） 気にしねえよ。早く帰ったって
何だかんだ文句言われんだがら。
（笑い声）
みね子） うちの人まだ反対してんの？
東京行ぐこど。
時子） うん。
みね子） そうかぁ。
時子） うん。まっ、それはしかたないよね。
心配なんでしょ、やっぱし。
でも、ちょっと腹立つよ。感じ悪いし。
誰も応援してくんないし。
みね子） 私がするよ、応援！
時子） フフフ！ ありがと。
みね子） うん。
時子） でも、私より三男の方が
しんどいんじゃないかな。
みね子） そうだね。みんながうちを出で行ぐ
って思ってんだもんね。三男は出て
いきたいわげじゃないのにさ。
時子） そだね。
みね子） だから三男のためにもさ、
聖火リレー、実現させようね。
時子） うん。フフフ。いいね、みね子んちは。
仲いいし、上からさ、あぁしろこうしろっ
てガミガミ言われないでしょ？
みね子） それはお父ちゃんがいないからだよ。
時子） えっ？
みね子） いないからさ。だからどっかみんな
無理してんだと思うんだ。わがまま言
ったら、お父ちゃんに申し訳ないって。
ちびたちもきっと思ってる。
普通よりいい子だと思うよ、２人とも。
時子） うん。
みね子） 私もそうだし、たぶん、じいちゃんや
お母ちゃんもさ、何だろ…たとえばさ、
テレビとか見ててよ、笑っちゃう時とか
あんでしょ？ あのクレージーキャッツ
出てる時とが。
時子） うん。
みね子） そのあどでさ、何か申し訳ない
気持ちになっちゃうんだ。
時子） へぇ。
みね子） だから我が家は今、とっても清く正し
い人たちになってしまってるのよ。
時子） そうか…。
みんなそれぞれいろいろあんだねえ。
みね子） えっ？
時子） ん？
みね子） 何？
時子） えっ？
みね子） 私には何もないと思ってたわげ？
時子） え…？ そんなこと…。
みね子） そんなこど？
時子） そんなこど…。ちょっと思ってた。
みね子） んだか？
時子） んだ…ごめん。
みね子） あらぁ。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
（写真立てを磨きながら、写真の
中の実を見つめる美代子）
みね子） ただいま！
ごめんなさい、遅くなりました。
美代子） お帰り。
ちよ子・進） お帰りなさい。
みね子） ただいま。ごめんなさい。
遅くなっちまって。
美代子） うん。
茂） 例の、あれが？
みね子） うん。
いろいろ計画をね、立ててたよ。
茂） そうが。
（宿題をしているちよ子と進）
みね子） あら、偉いね、あんたたち。
あっ、お母ちゃん。
美代子） ん？
みね子） お父ちゃんからさ、手紙届いてない？
美代子） えっ？ ……うん。今日はながった。
みね子） そう？
美代子） うん。
みね子） そろそろ返事来っかな～と思ったけど。
美代子） うん。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
ちよ子と進が夢中になって見ているのは、
「ジェスチャー」という番組です。
紅組白組に分かれて、お題を身振り手振り
だけで伝え合う、クイズ番組です。
「何々は、置いといて」というポーズも、
ここから流行りました。
みね子） でね、私たちの計画では、本当の
聖火リレーが、茨城を通るのと同じ
日にやろうっつうこどになってんだ。
茂） ほぉ。
美代子） そうなの。
みね子） うん。でね、コースも大体決まってんだ。
玉木神社を出発して、沢の口の中学校の
前を通って、で、また神社に戻ってくんだ。
ちょうどね、20キロくらいになんだ。
すごいでしょ？ ちゃんと計算したんだよ。
美代子） 20キロか、すごいね。
みね子） うん。
茂） まぁ、ほかに広い道はねえがらな。
みね子） じいちゃん…。
茂） ヘヘヘ！
みね子） でもさ、まだまだ考えなきゃいけないこ
どがいっぱいあって。たとえば、走る人
をどうやって選ぶのかとか。あと肝心の
聖火をね、どうやってつくんのかも大事。
美代子） できんの？ あんたらに。
みね子） それがさ、高校っつうとごは便利なと
ごでさ、先生がいっぱいいんのよ。
それぞれ専門の。
美代子） それはそうだね。
茂） 何だ、秘密なんじゃねえのか？
みね子） そうだよ。でも大丈夫だって。
うまいこどやってんだからぁ。
は…しまった！
美代子） ん？
茂） ん？
（テレビの前にいたちよ子がみね子に近づく）
みね子） ああ…あっちは大丈夫だ。ちよ子、
今の話、誰にも言っちゃいげねえよ。
わがってる？
ちよ子） うん！ 私、あれ欲しいなぁ。
お姉ちゃんの髪留め、お花のやつ。
みね子） あ？
ちよ子） 好きだなぁ、あれ。
茂） 口止め料、要求してんじゃねえのが。
（にっこり笑うちよ子）
みね子） （ため息）
美代子） ちよ子～。
ちよ子） エヘヘ！
（机の引き出しから髪留めを出すみね子）
（ちよ子の髪につけてあげるみね子）
みね子） はい。
ちよ子） ありがとう！
茂） どれ？ いいなぁ。
（笑い声）
みね子） 欲しかったんなら言えばいがったのに。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
茂） 寝だが？
美代子） はい。
茂） ん…。
美代子） お父さん。
茂） 何だ？
美代子） 私明日、東京さ電話してみてもいいで
すか？ ごめんなさい。電話もただじゃね
えし…。明日、昼間泊まってるとごろにし
てみようと思うんです。それで、仕事に行
ってるって聞いたら、それで安心なので…。
私、何だか心配で心配で…。
茂） わがった。
美代子） ありがとうございます。
茂） 何でもねえよ、きっと。
美代子） はい。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
電・女性） 茨城の、谷田部さん。
ここにいた人なのね？
電・美代子） はい、そうです。
谷田部です。谷田部実。
はい…え…？
電・女性） ですから、突然いなくなってしまって、
こっちも困ってるんですよ。お金はもら
ってるからいいんだけど。荷物置いた
ままいなくなったから、ちょっと心配は
してたんですよ。
電・美代子） あ…あの…。
電・女性） まあ、よくあるといえばよくあることな
んだけどね。この間もそういう人の荷
物をまとめて捨てたところなんですよ。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
みね子） あんまし遅くなんなよ。
ちよ子） わがった。
進） わがった。
みね子） あれ？ 宗男さん。
宗男） おぉ、みね子か。
みね子） どうしたの？ うち来たの？
宗男） おう。ちょっと、用があってな。
帰るとごだ。
みね子） そう。
宗男） おう！ じゃあな！
みね子） じゃあね。
ちよ子・進） おじちゃん！
宗男） おう。また来っから！ またな！
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
ナレーション担当の増田明美さんが、体育教師、
木脇先生として登場。見事な走りを見せるという
サプライズ。ナレーションでは本人の名前を名乗
っていたし、今回自分の登場シーンのあとで「失
礼しました」とのナレーション。う～ん…斬新だｗ
ナレーションが木脇先生というわけではないのよ
ね。何とも不思議な目線のナレーションというか。
でもまあ、慣れてきたし、心地よい声なのでヨシ。
アジャパー、ガチョーンと、昭和のギャグが紹介
され、あの有名なテレビ番組、「ジェスチャー」も
紹介される親切設計。朝ドラの脚本も、３度目と
なるとここまで至れり尽くせりな脚本になるもの
かと感心してしまう。痒い所に手が届くのがいい。
だから我が家は今、とっても清く正しい
人たちになってしまってるのよ。
ドラマが始まってからずっと、なんとな～くうっす
らと感じていた、谷田部家の人たちの出来過ぎ
感。その出来過ぎな理由を、ぼ～っとしているよ
うに見えてちゃんと自覚していたヒロイン。これ、
意外と斬新というか、珍しいパターンかも？ 何
も考えてないとまでは思わないまでも、そこまで
自覚していないと思っていたよ。ごめん、みね子。
見くびってた。さすがヒロイン。頼もしいよみね子。
とっても清く正しい人たちになってしまった家族。
切ないなぁ。その気持ちが分かるだけに切ない。
だから、ちよ子のちゃっかり口止め料の請求は、
ちょっと、ほっとする場面だったのかもしれない。
そんなちよ子の子供らしさも、ちよ子の気遣いか
もしれないけれど。そうやって、家族の役割をそ
れぞれが演じるのも、家族というものなんだよね。
今まで視聴者が見せられてきた実さん像からは、
突然失踪してしまう理由が見当たらない。少なく
とも積極的に家族を捨てられる人には思えない。
荷物を置きっぱなしということもあるし、何かあっ
たんだよね、きっと。事故にあって記憶喪失とか。
でもまあ、何があっても信じてるよ、実父さんを。
家族を愛する気持ちが失われることはないと…。
たとえそう見えなくても、みんなそれぞれ、いろい
ろあるのが人間。人間だもの、いろいろあるのよ。
秘密も悩みも置いといて…やるべきことをやるし
かない時もある。とりあえず、頑張っぺ、みね子！
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